3話 龍神族

 丘に着くと、十数人の人がいた。祭り会場を眺めたり、食べ物を食べたりしている。私たちも、芝生の上に座り、買ってきた食べ物を食べながら祭りを眺めた。

「キレイに光ってるわね」

 夕日と、ランタンの明かりで、町は光っていた。

「あの中にたくさんの人が……」

 オーロラはぽつりと言った。その時、誰かが話しかけてきた。

「姫様!」

「まあ、ティノ。なぜ、ここに?」

 オーロラから、ティノと呼ばれた男性は、鎧を身にまとっていた。もしかして、兵士?

「なぜ!ここに!?じゃないですよ!探したんですから。お遊びは終わりです!帰りますよ」

「あら、もうそんな頃合なのね」

 ティノはため息をついた。

「杏奈、みんな、今日は楽しかったわ。ありがとう」

 オーロラはにっこりと笑った。

「私も、ありがとう。オーロラ」

 そして、オーロラは城の方へとティノと共に帰って行った。

 私たちも夕食の時間になるので、空と別れて、宿屋へ帰ることにした。空は、皐月と離れたくないと言いながらも、夕食の時間があるらしく、帰って行った。

 宿屋へ帰ると、豪華な食事が待っていた。祭りで、色々と食べたが、美味しそうな匂いでお腹が空いてしまった。

 4人席だったので、私たちは水竜と一緒に食べた。テーブルは四角で、私とアキラ、皐月と水竜が隣合って座った。隣のテーブルには、セイライ、セイア、老夫婦が座っている。

「セイライ。お祭りはどうだった?」

 私はセイライにそう聞いた。照れて答えてくれないかもと思ったが、聞いてみたかったのだ。

「えっ!ええっと……あの、その」

「はっきり喋りなさいよ」

 セイアがセイライをたしなめた。

「う、うん。た……楽しかった……よ」

「そっか!良かった!」

 セイライは顔を真っ赤にしながら頷いた。セイアはため息をつきながらも、食事を口に運んだ。

「水竜はどうだった?」

 水竜に話しかけると、こちらを少し見ただけで、反応はなかった。

「あー……」

「皐月くーん!」

 声がした方を向くと、空がいた。

「空!?なんでここに?」

 皐月は驚いたように叫んだ。

「皐月くんに会いたくて、早めにご飯食べて抜けてきたの」

「あのなー」

「それよりー、この女誰?」

 空は水竜を指さした。水竜は、空をチラッと見ただけで、そのまま食べ続けた。

「水竜よ。私たちと一緒に旅行しているの」

「ふーん」

 空はじろじろと水竜を見ながら、他の空いてる席からイスを取ってきて、皐月の近くに座った。

「龍神族って本当にいるのね」

 空は水竜をまだ見つめていた。

「そんなに珍しいの?」

「そうね。見られるだけで、幸運と言われてるし……。強い力を持っているとも言われてる」

「ふーん。そうなんだ」

「ふーん。そうなんだ……じゃないわよ!とっても希少な種族なのよ?」

「私たちと何か違うの?」

 そういうと、皐月がため息をついた。

「だから、強い力を持ってるのよ。しかも、他の種族と関わりなんて持たないの。ここにいるのが不思議なの」

「へー。水竜は、何か目的があって、旅行に来たの?」

 水竜は、私の方を見て、頷いた。私は水竜から、反応が返ってきて喜んだ。

「どんな目的なのかしら」

 空がそう言うと、一瞬、水竜は空の方を見るが、また食事し始めた。

「無愛想な女ね」

「まあまあ」

 私たちは、談笑しながら、食事を楽しんだ。水竜は黙っていたけど。

 食べ終えた時、宿屋の扉が勢いよく開いた。みんなが驚き、そちらを向くと、ティノが立っていた。

「あの人……」

 全部を言い終わる前に、ティノが私たちの所に来た。

「姫様を見なかったか!」

「え?オーロラ?見てないけど」

「そうか……」

「オーロラがいなくなったの?」

「そうだ。君たちの所だと思ったが、またどこか行きやがって、あのフリーダム姫様めー!」

「た、大変ね。私たちも手伝いましょうか?」

「良いのかい?ぜひ、頼む。見つけたら、城まで引っ張っていってくれ」

「わかったわ」

 私とアキラ、皐月と空に別れて探すことにした。皐月は、アキラと私が一緒なのが気に食わなさそうだったけど。

「地理に詳しくないから、どこから探すかだな」

「そうね。兵士たちが探さなさそうな所とか?」

「路地裏から攻めるか」

 私とアキラは、小さな路地裏から探すことにした。暗がりなので、アキラがランタンを出て、照らしながら歩いた。

「こんな夜に出歩くなんて、変わったお姫様だな」

「そうね。私は好きだけど」

「俺もさ。……あ!好きなのは杏奈だけだぞ!」

「どうでもいい」

 次の路地裏を見ると、男たちが何人かいた。

「なんだテメェら!」

 1人の男が反応し、こっちを見た。それに伴い、他の男たちもこちらを見た。

「いや、人を探して……」

 アキラがそう言いかけた時、照らした先に、縄で縛られた女性たちが見えた。

「あなたたち、人攫い!?」

「杏奈、後ろに下がって!」

 アキラは剣を持ち、いきなり走って襲ってきた男の短剣を受け止めた。

「アキラ……!」

 他の男たちも、こちらに向かってきた。何人いるの!?5人はいる。アキラ1人じゃ無理……。そう思った時、2人の男が水をかぶり倒れた。

「なんだ!?」

 男たちが上を向いた。私も、つられて見ると、建物の上に誰かがいた。

 その人は、飛び降りてきて、私と男たちの間に立った。飛び降りてきた人は、マントをつけていて、私より背が高く、水色の髪をしていた。

「あなたは?」

「俺は……」

 男たちが、飛び降りてきた人に向かってきた。

「誰だテメェ!」

 飛び降りてきた人はどこからか剣を出して、男たちに立ち向かう。

「アクアトライアングル!」

 彼が唱えると、剣が輝き、三角の水が彼の前に現れ、水の弾丸を飛ばした。男たちが吹き飛んだ。

「すごい……」

 私とアキラは、呆然とそれを見た。

「助かったよ」

 アキラは、彼に近づいた。

「ああ。無事で良かった。俺はマーキュリー」

「俺はアキラ。こっちは杏奈。知人を探してて、たまたま変なやつらを見つけたんだ」

「そうなのか」

 私たちは、女の子たちの所に行った。

「杏奈!」

 呼ばれた方を向くと、オーロラも捕まっていた。

「オーロラ!なんでここに?」

「変な人たちがいるのが見えて、助けに入ったら捕まってしまったの」

「良かった。見つかって」

「ええ、ありがとう」

 女の子たちの縄を解いていると、オーロラが、きゃっと叫んだ。

「オーロラ?」

 オーロラを見ると、人攫いの仲間と思われる男に捕まって、剣を首に突きつけられていた。

「この嬢ちゃんの首を傷つけられたくなければ、武器を置け」

 アキラとマーキュリーは、剣を地面にゆっくりと置いた。

「よし、それで……ぐあっ!」

 男が悲鳴をあげた。男は、後ろに倒れ、オーロラが開放された。

「誰だ?」

 アキラがそう言うと、オーロラの後ろから、3人の人影が現れた。

 皐月と空、そして、水竜だった。

「また、危ないことに巻き込まれてるな」

 皐月がため息をつきながら、言った。

「水竜の魔法か?」

 アキラがそう聞くと、水竜は頷いた。

「龍神族は、魔法が使えるの?」

 私はアキラに聞いた。

「ああ。動物族の中でも、魔法が使える希少な種族だよ」

「そうなんだ。水竜、ありがとう」

「別に……たまたまよ」

 水竜はそう言って俯いた。

 そこへ、ティノが兵士たちを連れてやってきた。

「この騒ぎは?あっ、姫様!」

「ティノ!人攫いよ。捕まえて、牢にぶち込むわよ」

「姫様。お言葉が」

「あら、ごめんなさい」

 人攫いは連れていかれ、女の子たちは兵士たちによって家まで送られて行った。

「杏奈、みんな。ありがとう。みんなのおかげで、人攫いを捕まえることができたわ」

「私は何も……マーキュリーとアキラ、水竜たちのおかげだよ」

「杏奈が私を探すって言わなきゃ、こうはならなかったのよ。お礼がしたいわ。明日の戴冠の儀の後に、王城に来てちょうだい」

 私たちは頷いた。オーロラは、ティノたちと共に再び王城へと帰って行った。

「マーキュリー、ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」

「いや、いいんだ。まさか、君たちに会えるなんてね」

「えっ?」

「いや、何でもない。気をつけて帰れよ」

 そう言って、マーキュリーは闇へと消えてしまった。

「さて、私たちも宿屋へ帰りましょう」

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