2話 白雪の国ネーヴェ城下町

 馬車を走らせ、森を抜けると、大きな城壁に囲まれた城が見えた。真っ白で、美しかった。城よりも大きな塔があり、頂上には青い光を放つ石が乗っていた。

「あれは……」

「あれは防衛魔法用の石だな。こんな大きなのは初めてだ」

 私の疑問にアキラが答えてくれた。

 城壁が近づき、門の側へとついた。

 私たちは馬車から降りて、門をくぐる。

「わあ!」

 門をくぐると、大勢の人たちが行き交う町が開けた。白い壁の家や、店が並び、露店まである。

「明日はオーロラ姫の戴冠の儀なので、白雪の国はお祭り騒ぎなのですよ」

 クヌードさんがそう言って、私たちを宿屋まで案内した。

「荷物を置き終えたら、宿屋の入口にてお待ちください」

 私は、宿屋の部屋へと荷物を置きに行った。部屋は2人部屋らしく、水竜と一緒だった。

「水竜ちゃん?よろしくね」

「……水竜でいいわ」

「ありがとう!水竜!」

 私は再び水竜に話しかけたけど、ほとんど無言で返されてしまった。あんまり話すの得意じゃないのかしら。それとも、すでに嫌われてるのかな。

 水竜は荷物をさっさとまとめて、外へ出てしまった。

 私も部屋から出て、アキラたちを待った。

「またお前と一緒なのかよ」

「はっ!監視できて俺は便利だけどな」

 アキラと皐月が言い合いをしながら、やって来た。

「あんたたち、またケンカしてるの」

「姉さん……ケンカじゃないよ。ただの会話だ」

「そうそう」

 私は呆れた。この2人が仲良くなる時が来るのかしら。いや、ある意味、息があっているとも言える。

 私たちは、下の入口へ向かおうとした。

「いって!」

 私は誰かにぶつかってしまった。横を向くと、出発の時に私たちをにらんでいた男の子がいた。

「ごめんなさい」

「うざっ」

「えっ?」

「気持ち悪いんだよ。お前」

「な、なによ!」

 男の子は、ふんと鼻を鳴らして、先に行ってしまった。

 何なのよ!あの子!突然、気持ち悪いとか言われて、気分が悪いわ。

 私はそれを疑問に思いながらも、私たちは宿屋の入口で他の人たちを待った。

 さっきの男の子も含め、全員が集まり、出発することとなった。

「今回は、観光名所の1つ、蒼玉門を見た後は自由行動にします。お祭りをお楽しみいただいてください」

 クヌードさんはそう言って歩き始めた。クヌードさんは小さめの三角の旗を持ちながら歩いている。それを目印に、たくさんの人が行き交う中を歩いた。

 町の中は、良い匂いが漂い、皆が賑わっていた。色んな露店が出ており、いくつかのお土産屋も見えた。後で見て回る時がとても楽しみだわ!

 歩いていると、青色の大きな門が見えた。あれが、蒼玉門らしい。年季のある門だ。ヒビが入っていたり、欠けているところもあるが、それが趣があるようにも見える。

「初代の白雪国王が作るように言ったとされています。また、この門からネヴェ・グラヌローザ城が見えるように設計されています」

 門を覗くと、城壁外から見た白い城が少し見えた。

「町の開発に伴って、見ずらくなってしまったそうです」

 なるほどね。だから、少ししか見えないのか。でも、ここから見ても大きなお城ね。戴冠の儀があるけれど、どんな人が王になるのかしら。

「では、夕食までは自由行動とします。お祭りを楽しむのも良し、町の中を散策するのも良しです。ただし、町の中からは出ないでください」

 私とアキラ、皐月は、お祭りを見て回ることにした。

「わあ!すごーい!ね、皐月」

「ああ。こんなに賑わうものなんだな」

 色々な露店が、道に連なっていた。人が賑わい、みんな楽しそうだった。

「杏奈、はぐれないように……手を握ろう!」

「嫌よ!」

「な、なんで!?」

「何でじゃないだろ。お前はアホか」

「皐月、うるせー!」

 3人で笑いながら、祭りの中を歩いた。

「あ!あれ、美味しそう」

 私は、ハート型の飴を売っている露店を見つけた。ハートが4つ縦に並んでいる。

「すみません、これは?」

 店員の人に聞くと、ハートフルーツという甘酸っぱい果物を甘いピンクの飴で包んだものだそうだ。

 私は1つ買って、舐めた。

「美味しい!美味しいよ、これ!」

「美味しそうに食べる杏奈も可愛いなあ」

「俺は甘いものはパス」

 果肉部分を食べると、甘酸っぱさが口の中を支配した。

 私たちは再び町の中を歩いた。私は店を見渡しながら歩く。

「あ!あれも美味しそ……あれ?」

 2人に話しかけようとしたら、アキラも皐月もいなかった。

「あの2人、迷子になったのかしら」

 私は来た方へと戻った。

「きゃっ!」

「あっ……」

 誰かとまたぶつかってしまった。それと同時に、ハート飴を落としてしまった。

「ごめんなさい」

 私とぶつかった女の子は同時に謝った。

 女の子は、フードを目深に被っていて、私より背が高い。

「ごめんなさい。飴、落ちちゃいましたね。弁償しますよ」

「大丈夫ですよ。気にしてないです」

「いえ、私が気にします」

 そう言われてしまい、彼女と先程の露店へと向かうことになった。

「私は……オーロラと言います」

「私は杏奈。よろしく!……あ、よろしくお願いします」

「良いのよ。敬語じゃなくても」

「ありがとう」

 オーロラ?どこかで聞いたような気がするような?

 露店へ着くと、オーロラはハート飴を買ってくれた。自分の分も買ったみたいで、一緒に隅で食べることにした。

「私、連れとはぐれちゃったの」

「あら、そうなの?探さないとね。一緒に探すわよ」

「ありがとう。オーロラ」

 私はオーロラと元来た道を戻ることにした。

 宿屋まで戻ると、アキラたちがいた。それと、女の子が1人一緒にいる。頭から耳が生えてるけど、見たことがない耳だ。どの動物族なのかしら。

「杏奈!どこ行ってたんだよ。だから、手を繋いでいれば良かったのに」

「姉さんは迷子の天才なのか」

「迷子になったのはそっちでしょ!」

「それより、隣の女性は?」

「私はオーロラ。杏奈のお友だちを一緒に探していたのよ」

 オーロラがお辞儀をした。

「オーロラって、オーロラ姫!?」

 皐月が叫んだ。小さい声で。

「あら、知っているのね。私、姫やってるの」

 えっ!姫!?

 だから、聞いたことがあったのか。

「オーロラ姫ですって!」

 動物族の女の子が震えながら、お辞儀をした。

「まさか、お目見えする日が来るなんて」

「頭を上げて。今日はお忍びなの。あなたも杏奈のお友だちなのかしら。一緒にお祭りを楽しみましょう」

「私は……」

「彼女は、空だよ。犬耳族で……皐月をナンパしてきたんだ」

「えっ!ナンパ!?」

 私は、さっきオーロラが姫だとわかった時よりも驚いた。皐月を見ると、バツが悪そうに、横を向いた。

「疑問に思うでしょうけど、愛に国境がないように、愛に種族は関係ないのよ」

 空という少女は胸を張って答えた。

「素晴らしいわ!」

 オーロラは、空の手を握りしめた。

「ひ、姫様……!」

「オーロラと呼んでちょうだい。みんなも、ね!」

「は、はい……」

 私たちは、改めて5人でお祭りを見て回ることにした。アキラは、手を繋ごうと言いまくってくるが、無視した。

「そういえば、皐月くん」

「何?」

「お姉さんって言ってたから、てっきり魔族だと思っていたんだけど……」

「ああ。そのことか」

「変じゃない?種族が違うのに、姉弟だなんて」

「そんな事ないだろ」

「そうよ。失礼ね」

 私は反論した。そして、皐月が生まれてまもない頃に拾われた事を説明した。

「そうなの……でも、変よ」

「愛に種族は関係ないんじゃないの?」

 私はそう聞いた。

「それとこれは、別なのよ」

 空は、ふんと鼻を鳴らした。

 私たちは、そんな話をしながらも、祭りを見た。

 果物がたくさん乗ったかき氷や、冷やしパイナップルというのを食べた。初めて食べるものばかりだ。

 かき氷は、頭がキーンと痛くなった。不思議な食べ物ね。オーロラも、初めて食べたのか、感動していた。

 段々、日が傾いてきて、ランタンの光が灯り出した。

「そうだ!お祭り会場がよく見える丘があるの。ひともたくさんいるだろうけど、この時間ならとてもキレイよ」

 私たちは、空の提案を受けて、城壁近くの丘まで向かうことにした。

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