第2話

 まだ眠い目をこすりながら布団から手を伸ばしカーテンを開ける。日光が入ってくると自然と目も覚めてくる気がするから不思議だ。目を開けて、閉じてを数回繰り返してやっと布団から這い出る。

 最近は随分暖かくなってきたけど布団から出た瞬間はまだまだ寒く感じる。キッチンに向かいお湯を沸かす。その間にフライパンに油を引いてたまごを少し低めの位置からそうっとフライパンに乗せた。まだ温まりきっていないフライパンに乗ったたまごは周りの部分からじわじわと白く色づいていく。他になにかないか、と冷蔵庫をもう一度覗いてみるが、作り置きのスープが入ったタッパーがあるだけでソーセージもベーコンもない。今日は買い物に行かないといけない。仕方がないからタッパーを出してスープをお気に入りのマグカップによそい、電子レンジの中に入れた。タイミングよくお湯が沸いた日は1日全てがうまくいくような気がする。

 今日はそのいい日だったらしくカチッとお湯が沸いた知らせを受ける。ポットの中にカモミールとレモングラス、ジャスミンを入れてからお湯も注ぐ。お湯の中で入れたばかりの草と花が踊るのを見ていると半熟にしようと思っていたはずの目玉焼きが完熟になってしまっていた。大きめの茶碗に白米を盛りその上に目玉焼きを乗せる。茶碗とレンジに入っていたマグカップ、ポットとお気に入りのティーカップをお盆に乗せてテーブルに運んだ。

 日当たり重視で選んだこの部屋は朝が一番綺麗に見える。陽の光が入る場所に置いたカフェテーブルは朝の時間を豊かにしてくれる。手抜きのご飯でも美味しい飲み物が一つあるだけで手が込んでいるように見えるから不思議だ。お気に入りの朝ごはんを胃の中に収めていく。今日は天気もいいしお店も忙しくなりそうだ。あっという間に空っぽになったそれらを急いで片付ける。食べて、すぐに動かないとこれは今日の夜、もしかしたら明日の朝までテーブルに居座ることになる。昨日お隣さんにお裾分けしてもらったばかりの花の水を換えてやっと自分の準備に取り掛かった。


 いつもと同じ時間に家を出ると春の香りがした。桜の蕾が膨らんでいる。明日か、今日の昼頃には咲くのかもしれない。桜が咲いたら桜緑茶を飲みたい。今日の帰りにお茶の専門店でも覗いてみよう。


 日に日に春らしさを見せていく道を眺めながら歩いて今の職場、モンシュマンに向かう。片道一時間。バスに乗れば30分もかからないくらいだけど歩くのは嫌いじゃないし季節の移り変わりを楽しめるから季節が巡って、暑さや寒さに絶えられなくなるまでは歩いて出勤しようと決めている。それに、今の職場は交通費が出ないから節約の意味もある。


 ぼんやりと歩いているとあっという間にモンシュマンに辿り着いてしまった。ドアを開けるといつもと同じ、コーヒーの匂いがした。今日はまだお菓子の仕込みの途中らしい。心の中でこっそりとラッキーと呟いて中に入った。


「おはようございます!」

「あ、おはよう。今日もよろしくね」

「よろしくお願いします」


 ふふ、と笑ってお店の奥に進む。荷物を置いてエプロンをつけて服をクリーナーで綺麗にしてから手を洗う。カフェでの1日が今日も始まる。

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