第203話 タイムリープ依頼
過去視の発表で湧いていた神界が少し落ち着きを取り戻したある日、俺の執務室に第一神様がやって来た。
最近の王城内は隔離措置されている場所が多く、この部屋も神界からはほとんど見えないようになっている。それでも、第一神様は問題なく転移して来た。
「お主、過去に飛べるというのは本当か?」開口一番、第一神様はそんな風に言った。どうも、タイムリープの話らしい。
「はい。実は事故で二千五百年ほど前に行ってきました。タイムリープと言います」
それを聞いて流石に第一神様も驚いた表情を浮かべた。忙しくて俺たちのことは見ていなかったようだ。
「ほう、本当なんじゃな。お主、本当に面白いのぉ。未来視、過去視で驚いたからもう無いかと思ったら、更にあったな」第一神様は、いつもの優しい顔で言った。
「お騒がせしてます」
「いやいや、良い意味じゃ。大いに結構じゃ」そう言って第一神様は笑った。
「それで、ちょっと話があっての」珍しく長い話になりそうだ。俺は第一神様にソファを勧めてじっくり聞くことにした。ついでにラームやお茶を勧めてみたら、思いのほか喜んでいた。
「して、そのタイムリップ? じゃが」お茶を一口飲んで、第一神様は話し始めた。
「リープです」
「そうそう、そのリープじゃが、いつでも使えるのかのぉ?」
もちろん、普通のタイムリープとしては、いつでも使える。だが、タイムリープ自体、制限が多く俺は完成したとは思っていない。少なくとも気軽に使えるツールではないと思っている。分身を使うという案もあるが、それはまだ試していない。
「それが、過去視が出来たので、かなり実用的にはなったんですが、タイムリープ自体が危険な手法なので安易には使えません。現在、改善策を考えていますが、残念ながら完成の域には至っていません」
俺は正直に現状を報告した。
第一神様は、白いひげを弄りながら俺の説明を聞いていたが、やや厳しい表情で言った。
「そうじゃったか。そうじゃろうのぉ、そうそう新しいことが出来るものではない。いや、そこまで行ってること自体が驚くべきことじゃ」そういって、しばらく考えるようにしていた。
「何かあったんですか?」俺は聞いてみた。
「うむ。これは話だけでも聞いてほしいのじゃが」
「はい」
第一神様はどうしようかと考えていたようだが意を決して話し出した。
「実は、ある世界が最近滅亡してな」髭を撫でている手を止めて言った。
「その世界の民族はなかなか見どころがあったそうじゃが小惑星との衝突で星ごと滅んでしまったそうじゃ」第一神様は残念そうに言った。
「小惑星の衝突ですか」メテオストライクか。
「うむ。生物がほとんど死に絶えた壮絶な最後だったそうじゃ。それがなんとも惜しいと相談されたのじゃ」第一神様は思い出すように言った。全ての情報が集まる立場なので、実際に見ていなくても神力を通して経緯は知っているようだ。
「もちろん、星が滅ぶのは珍しくは無いし特定の担当神が入れ込んでただけなのじゃが、一つ気になることがあってな」
「はい」
「どうも、その世界では、いつからか魔法が使えたようなのじゃ」
「魔法ですか」
「うむ。そして、滅亡後しばらくして、神界の神力が星一つ分以上に減少したのじゃ」
星が滅亡したのなら、その分の神力は当然減るだろう。しかし、それ以上に減ったということらしい。
「それは、いつの事ですか?」
「星が滅亡したのは百五十年前のことじゃ」
「本当に、最近ですね」記憶が戻ってからは、俺も百年を短く感じるようになっていた。
「じゃが、神力が減ったのは滅亡の五年後と十年後の二度じゃった」
「二度ですか」
「うむ。最初の減少は、星の滅亡そのものが原因じゃろう。普通、神力に影響が出るのは五年後なのじゃ。これは予想通りなのじゃが、十年後の減少は説明できんのじゃ」
「そうなんですか」
「それで理由を考えておったのじゃが、お主が神力と魔力の関係を言ってたのを思い出してな。魔力の元が遅れて滅亡していたとしたら、神力にも遅れて影響が出るかも知れないと思ったのじゃ」
神力と魔力の関係について第一神様に直接話したことは無いと思うが、俺の過去からのメッセージで女神カリスと話しあったことはある。確かに、魔力の元が魔法共生菌だったら遅れて絶滅した可能性がある。神力への影響も当然遅れて出るはずだ。
「その研究については、ほとんど進んでいないんですが」
「うむ。そこでタイムリープじゃ」と第一神様が身を乗り出して言った。
「お主のタイムリープで過去に遡り何か手を打てたら、神力減少に影響が現れるかもしれん」
「タイムリープで滅亡を阻止するということですか?」
「それが出来れば最高じゃの。じゃが、タイムリープで滅亡を少し伸ばすだけでも、意味はあるじゃろ?」
「そうですね。救えなかったとしても延命できれば、十年後の神力減少との関係がハッキリしますね」
「うむ。どうかの? 多少なりとも協力できるかの?」
「分かりました。俺だけではなくカリスさんやみんなにも相談してみます」
「うむ。無理な話ですまんのぉ」
「いえ、これは貴重な機会だと思います。その世界は誰の担当でしょうか?」
「女神ミューゼスの配下で惑星リラ、担当はリップと言う」
「分かりました。それなら連絡できるので詳細を聞いてみます」
「そうか。では頼んだぞ」
そう言って、第一神様は帰っていった。分身を使う新しいタイムリープを完成させるには、いい機会かもしれない。
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