第200話 過去視できました!
タイムリープの改良で思い付いた「過去視」だが、思った以上に実用的なものになりそうだ。
出産ラッシュで湧いた10月から一か月がたった頃、新しい鏡像メッセージ誘導現象が発見された。この現象を利用すると、今まで限定的だった過去視がより使いやすくなるということだ。
この現象、実はノイズだと思われていたようだ。不完全な鏡像メッセージ誘導だったためだ。
「どういうこと?」
俺はこの現象を発見した女神カリスに聞いた。
「要するに、記憶表面全体の鏡像メッセージ誘導ではなく、一部分だけだったんです」
「一部分? それはどういう?」
「その時に考えていない領域。つまり、意識が集中していない部分で鏡像現象が起こっていたんです」
意識表面は、目で見ている映像や耳で聞こえた音など体全体の五感からの情報が届く場所などで出来ているが、連想などで読みだした記憶を置く場所などもあり、結構広い領域があるようだ。タイムリープでは短期記憶を埋め込んだ場所でもある。
どうも、その中で使っていない領域で鏡像現象が起こっていたようなのだ。
「強く意識している部分では共鳴しないようです」と女神カリス。
「ほう。意識が鏡像現象を邪魔するのかな? それって、受け手の話?」
「いえ、送り手もです。送り手も強く意識を集中していないほうが共鳴します」
「なるほど。つまり、両者がぼ~っとしているような場合に鏡像メッセージ誘導が発生するのか」確かに、そういう時にデジャブも起こっていたかも。
「そうですね。それだと発生し易いと思います」
「そうか、それで今まで上手くいってたんだ!」
「上手く?」
「ああ、つまり、強い意識があると消されるってことだろ?」
「そうですね」
「何も考えて無いから、ふっと浮かんだ言葉や絵が印象に残る訳だ」
「なるほど、そうかも知れません」
「それと、そんな時にタイムリープするから安全だった訳だ」
「確かに」女神カリスはそう言って、ちょっと考えを巡らせた。
「そう言う意味では、タイムリープが出来る時点で安全という事かも知れませんね。何かに集中していないということですから。私たちにとっては、都合のいい話ですが」
今回のタイムリープ中に大きな事故が起きなかったのは偶然ではなかったようだ。
「で、一部というのは?」
「はい。ですから、強い意識がある場合にデジャブ現象が起きると、意識が集中している部分以外で鏡像現象が起こってたんです。不完全なのでノイズ扱いでしたし、意識外なのでデジャブにもなりません。つまり全く気づきませんでした」
「記憶表面の使って無い部分か」
「そうですね。送り手と受け手の両方が集中していない必要があります」
意識の集中が、記憶表面上で、どの程度の広さなのか分からないが。何かに意識を取られていない状態。見ていない、聞いていない、感じていないような状態か。当然、連想するようなこともないだろう。
「意識しない領域って、そんなにあるのかな?」
「意外と多くあるようです。たとえば、昔のことを思い出しているときは、目の前の映像は見えていますが意識は集中していません」常にじっと見ている訳じゃないってことだな。
「ああ、なるほど。確かに、見えていても気にしていないことはある。予定を立ててる時とかも見てないかも」
「そうです。そういう領域を使っても、ほとんど気にならないと思います」
「おお、すばらしい。気にならないなら悪影響も無いだろうな! これで過去視が立派なツールになりますね! というか、タイムリープも容易になりますね!」
「はい。もちろんです。ただ、緊張した局面では使えないという欠点もあります。決闘の最中とか」
うん? 決闘の最中? 神が決闘をするかどうかは知らないが、執行官や捕縛隊とやり合うことはありそうだ。
「ああ、なるほど。逆に大変なことが起こってるってシグナルにもなるかも知れませんね? タイムリープの前段階としては逆に好都合かも!」
「はい。そうですね」
決闘や戦闘の最中にタイムリープなどしないからな。もっと前にタイムリープしたい。そうなると、過去視単体の機能として多用することになるだろう。
「あれ? そうすると、未来視も強化出来るんじゃない?」
「はい。出来ると思います」
「これは凄いな! やりましたね! カリスさん!」
「はい! やりました!」
=アリス おお、カリスさん凄い!おめでと~。
=キリス すご~い。やったね!
=カリス ふたりとも、ありがと~っ。
=アリス これは未来視と同じ大発見よね!
=リュウジ そうだよ。俺はあれで、恒常神になったから、きっと何かあるぞ。
=アリス そうよね。
=イリス 聞いたわよ。凄いじゃない。
=リュウジ あれ、美鈴の部屋からですか?
=イリス そう。
=美鈴 おめでと~カリスさん!
それから、つぎつぎとみんなから神力リンクが入った。この暗号化通信も凄いんだけどね。これは、ちょっと公表できないけど。
* * *
そして、新機能『過去視』を神界に発表して程なく、神界では未来視同様に大きな話題になった。いや、未来視以上かも知れない。
それには理由がある。
未来視は主に担当神に受けたのだが、過去視は神界の管理部門に受けた。つまり上層部に認められたわけだ。それはそうだ。過去の出来事などを評価する場合に決定的なツールが登場したのだから。
全ての出来事が後からゆっくり検証出来るのだとしたら、彼らにとってこれほど強い味方は無い。証拠が無くなっても検証可能なのだから。というか、これこそが真の証拠だ。全ての事件で未来永劫証拠が提出されたと言えば、凄さが分かる。
これはもう、必須と言うか次元が違うと言うか世界が変わる程だ。この機能を発表した途端、一部から熱狂的に支持されたのも納得できるというもの。
もちろん、第一神様からも大いに評価され女神カリスはアリスと同じく俺の同列神になった。つまり、俺の配下としては最高位ということだ。第二神へ推挙する声もあったが、女神カリスが俺のグループにいたいと言ってこうなった。
「カリスさん。これからもよろしく」第一神様の呼び出しから帰って来た女神カリスに言った。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「やっぱり第一神様だ! ちゃんと見てるんだ。てか、専門神のまま同列神になれるんだな!」
「そうね。第一神様が適当と考えれば出来るんじゃない?」とアリス。この辺は、アリスも詳しいわけでは無いようだ。
ぽっ
「特別なお酒持ってきたわよ~っ!」
酒の女神様サリス登場。さすがに分かってますね。
「待ってた!」
「素敵!」
「待ってたのである」
うん、ウリスさん酒好きだよね。特に強い奴。
「今日は私も飲んじゃおう」
いや、エリス様いつも飲んでますけど?
「それじゃ、今日は……」
「「「「「リュウジの部屋で飲み会よね!」」」」」
また、女神様だらけの空中浮遊パーティーになるようだ。つぎつぎに集まって来る女神様達! そして当然のように女神湯へ。
あ、神界隔離措置してるから、さらに凄いことになりそうな予感。
で、どうでもいいけど、お風呂で酒盛りは止めましょう。一応言ったからね。誰も聞いてないけど。
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