第198話 新たな動きと神界と

 俺の記憶を回復した「タイムリープ事件」にまつわる騒ぎが落ち着いた頃、後宮では新たな騒ぎが始まっていた。そう、出産ラッシュである。


「もう。どうして、うちの王様は一度に子供をもうけるのかしら?」

「そんな愚痴こぼしてる時間があったら、替えのタオルを運んでちょうだい!」

 侍女長マリナの檄が飛ぶ。


 子供七名の誕生に合わせて侍女やメイドが追加されたものの後宮東宮内は大忙しである。三歳になった子供達もいるし、当然その乳母や侍女もいる。つまり東宮にいる人間の数がいきなり二倍になったのだから混乱するのも仕方ない。この時ばかりは、西宮に配属された侍女たちも東宮の手伝いに借り出されていた。


 しかし、只でさえ忙しいのに、さらに女神様が顕現したりするので、さらに混迷を深めることになる。


「あっ、いま、女神様が顕現されました。わたし、どういたしましょう?」と混乱する侍女や。

「キャ~、女神様が顕現するところに立ち会っちゃった。今日の私の運勢最高!」という占いオタクっぽいのとか色々だ。


「あなたたち! ここでは、それが普通だから早く慣れなさい。ほとんど神様だと思っていたほうが間違いありません。それがここの常識です。むしろ人間のほうが珍しいくらいです」と侍女長マリナ。

 うん。そうだよな。ここの常識は確かに普通じゃない。でも、普通じゃないのは神様達だけでは無かった。侍女もまた普通じゃいられない。


 王城侍女隊は、今や全員魔法免許持ちである。タオルを運ぶと言っても、宙に浮かせて大量に運ぶのである。さすがに廊下を高く飛ぶことはないが、ドタバタと走り回るわけでは無い。軽く浮いて滑るように移動するのだ。これには俺もちょっと驚いた。使徒なんじゃないかと思ったくらいだ。


「最初は、マジで驚いたわよ」ニーナが最初に見たときのことを言った。

「だって、音もなくドアが開いたと思ったら、着替えを持った侍女がすぅ~っと部屋に入って来るんだもん。夜中だったら悲鳴上げてたわよ」


 使徒の嫁が何を怖がって悲鳴を上げるのか定かではないが。そのくらい侍女の動きは完成度が高かった。

 どうも、この滑るような移動方法は侍女長のマリナさんが編み出したものらしい。使徒テイアさんの優雅な飛び方に感銘を受けて真似たんだそうだ。後宮では「マリナ滑り」とか「マリナ飛び」とか言われている。まぁ、確かにショックに弱いものとか飲み物を運ぶときに便利だろう。もちろん軽く防御フィールドを展開してるとのことで抜かりはない。さすが侍女長マリナの技だ。最近では寧ろ侍女よりもメイドにこそ必要な能力とのことで、王城メイド隊にも教育中だとか。


 そう言えば、そのメイド達も既に凄かった。

 俺は海底で砂を吸い上げた時に掃除機のイメージを使ったのだが、その話を聞いたメイド達が本当に掃除に利用し始めたのだ。というか、こっちのほうが常に使うので利用価値が高い。今では王城や宮廷の埃掃除は全てこの魔法を使っているという事でチリ一つ無い。あっぱれメイド隊。てか、メイド隊も全員魔法免許持ちかよ。


 というわけで、いつの間にか凄いことになってる王城であった。

 ちなみに、このクリーニング魔法を聞いた隣の教会シスターズもアリス像やアリス画の掃除に使っているとのこと。聖アリス教会は、今まで以上にピカピカで眩い教会となった。


  *  *  *


 さすがに十月も終わりになると出産ラッシュの騒ぎも落ち着き始めた。

 今回も使徒テイアさんがいてくれてるので間違いなど無いのだが、初産の美鈴もいることもあり気が抜けなかったのだ。特に、美鈴にはイリス様が張り付いていた。


「もう、わたし運命を感じちゃうのよ」とイリス様。

 あれ? 神様がそういう発言していいのかな?

「イリス様ありがとう」美鈴も安心した表情だ。

「我のお陰なのだ」とウリス様。

「ほんとに?」

「冗談なのだ」やっぱりか。


「美鈴は私の希望」とエリス様。

 エリス様の希望なんだ。

「うむ。素晴らしいのぉ。よくやってくれた」と呼んでないのに来てる第一神様。てか、そんなに顕現していいのかな?

「はっはっは。問題ないじゃろ。それに、最近はお主のお陰で仕事が捗っておるしの」


 神化リングの話のようだ。もちろん第一神様が使う神化リングもあるが、第一神様経由で配っている神化リングで他の神様もパワーアップしたからだろう。使う神力を気にせずに済むようになったとのこと。やりたい放題とも言う。


 神界はブラックだから、トップの第一神様に掛かる重圧は相当なものらしい。それで弱っていたようだ。神化リングで回復出来てよかったよ。少しは楽になって貰わないと。

 神界の仕事に余裕が出来れば、神界そのものが楽しくなるに違いない。そしたら神界が見ている世界も楽しくなるよな?


「そう言うことじゃの。そうなればいいの」

 そう言って第一神様は神界に戻っていった。


 うん、これは神界を楽しくしないとダメだな。改めてそう思った。


「ふっ。そうなのよ」

 美鈴の様子を見にきた帰りに、アリスが溜息交じりに言った。

「私たちが、頑張って助けたいんだけど」

「そうなのか。っていうか、そういえばそうだった」


 俺は昔の記憶が戻ったとはいえ元々担当神でかかりっきりだったせいもあって、あまり神界に詳しくない。それでも神界が大変だという印象は持っていた。まぁ、深刻になったからと言って神界にプラスになる訳でもない。寧ろ、硬直した思考になりかねない。俺みたいに暢気に好き勝手やってるほうが、いい結果を生む場合もある。

 とりあえず、いい結果が出てるうちは今のままで行こうと思う。


 それでも、第二神になったから神界に専念しなくちゃならない日が近づいているのも確かだ。ここで子供たちが沢山出来て良かったと思う。この国も、あらかた方向性は出来たし、この世界に関わる時間を減らす時期なのかも知れない。


「要するに、神界で遊ぼうと」とアリスの突っ込み。

「そ、そういう言い方はどうかな?」

「期待しているわ」とイリス様。

「もちろんである」とウリス様。

「ふふふ。リュウジ怖い」


 しかし、そうは言っても、そうそう神界を揺るがすようなことは出来ないものだ。


  *  *  *


 俺はアリスと女神湯で今後の事を話し合っていた。


「まぁ、最近のトレンドからしてインパクトがありそうなものって言ったら何だろうな? せいぜい、神格化率の測定器とかかな?」湯船にゆったり浸かって寛ぎながら、思いつくまま言った。

「何それ?」

「うん? ほら、神格化率って細かくは分からないじゃん? それを高精度で測定できれば便利かなぁ~って思ってさ」


「ああ、な・る・ほ・ど・ね」

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