第172話 惑星フォトス調査隊-水の秘密-

 俺たちは上空に留まりつつ、惑星フォトスの調査を継続した。

 魔法共生菌以外にも危険な生物はありうるので、性急に惑星フォトスに降り立つわけにはいかない。いつでも神界に戻れる方以外は安全が確保できるまで船内で待機する必要がある。ちょっと苦痛かな?


「それでは、三従者隊発進します!」三従者隊は飛翔スーツを着て惑星フォトスに降りることが出来るので自由に飛び回ることを許可した。

「私も、行ってきます」ネムも飛翔スーツを使えるからな。了解!

「もちろん私たちもね」女神隊も飛翔スーツで飛ぶようだ。やっぱりな。

「私たちも、訓練してまいります」近衛神魔動飛行車隊だ。うんオッケー。本当に訓練? 飛翔スーツで?

「では、私たちも」飛行船クルーたちも、非番の者は飛翔スーツの使用を許可した。防護服も兼ねているしな。あれ?


 ということで、惑星フォトスの分析をしつつ何故か休暇モードに突入する調査隊であった。ビデオ配信してるよ?


  *  *  *


 とりあえず、調査隊全員で惑星フォトスのリゾート開発が有望であることを証明してくれたのだが、惑星自体の調査もちゃんと実施してはいる。


 女神セリスを筆頭に、それぞれ専門家の意見を総合すると惑星フォトスは以下のようなものだった。


・惑星フォトスは惑星モトスと基本同等である

 惑星フォトスは惑星モトスより少し大きい程度の二重惑星。生命の起源は同じであり共有している。ただし、高等生物になるに従って違いが生じている。また、水は惑星モトスより惑星フォトスのほうが大量にある。

・魔法共生菌と妖精族、ラームのふるさとだが、魔法共生菌以外は絶滅している


「なぜ、妖精族とラームは絶滅してしまったんでしょう?」やはり気になって、女神セリスに考えを聞いてみた。

「それが、最大の謎ですね」女神セリス。

「転移ゲートを作れる文明があったのに、本当に洪水に負けたんでしょうか?」

「恐らく単純な洪水ではなかったでしょう。これだけ水の多い惑星だと、水の出どころが気になります」

「水の出どころ?」

「はい、水は惑星外から来たかも知れません」

「惑星外……」

「たとえば、水を多く含む小惑星などと定期的に遭遇したとか」

「そんなことあるんですか?」

「もしかすると、次はいつと問うべきかも知れません」

「まだ、そんなことが起こると?」

「起こったことは、また起こります。軌道上にそういう小惑星帯があるのかも知れません」

「なるほど」


 少しづつ増えていく水か。氷河期の後は海面が上昇すると言うが、それが際限なく続くと考えると恐ろしいな。寒冷化のときに雪として積もって、温暖化で急速に海面上昇するかもしれない。

 どんなふうに海面が上昇したのかは分からないが、高い場所へ高い場所へと移住しなければならなかっただろう。まさかいきなり富士山頂に移住するような行動は取れないだろうから少しづつ移動したと思われる。ただ、高い山に逃げても、それを超えて来たらどうしようもない。いや、逃げる手段があったとしても、住む場所がなければ終わりだ。

 妖精族は、次第に上昇する海水面を見て何を思ったろう? 自然と戦う壮絶な歴史が長く繰り広げられたのだろうか?


「ラームについても、急激な海面上昇と気候の変動に対応できなかった可能性があります」とセリス。なるほど。逃げるといっても、海水面が上昇して戻らないのだとしたら、住居だけでなくラームも移し替える必要がある。何度も、田畑を開墾しつつ洪水から逃げるなど、とんでもない労力だっただろう。


「でも、惑星モトスではなく惑星フォトスだけ水が増えたなんてあるんだろうか?」さすがに、俺は疑問に思って聞いた。

「いえ、惑星モトスも水は増えたと思います。その時の位置関係にも因りますが、惑星の質量が違いますので、モトスよりフォトスのほうに多く降り注いだのではないかと思われます」と女神セリス。


 そういうことか。確かに、モトスも陸は少な目だったな。実際、アトラ大陸が沈んでいるし。


「もしかすると、次はモトスかも知れない?」

「そうかも知れませんね」


 近い将来、惑星モトスでも起こり得るのか。うん? もしかすると、そんな悠長な話ではないかも知れない。


「俺がこの世界に来たばかりのとき、世界各地で水が不足していたけど、あれってその影響かも知れないな」

「そうなんですか?」とセリス。

「うん。つまり、以前は雨が多かった可能性がある」

「どういうこと」とアリス。

「だから、二千年前くらいまで雨の多い時代が続いていたってこと。その水は、惑星外からの水だから、海面が上昇した」

「ああ、今はそれがなくなったので、雨が少なくなったってこと?」

「そう。つまり不足したんじゃなくて正常になっただけだった訳だ」

「そうなると、大きく気候が変動したでしょうね」とセリス。

「そうか。ってことは、この世界の衰退の本当の原因ってのは、その気象変動なのかもしれないな」


 俺は、この世界の衰退の原因は魔法共生菌だと考えていたが、本当の原因は違っていたのかも知れない。もしそうなら、それについては今も全く解決していないことになる。


  *  *  *


 その後の調査で、妖精族の住居跡が多数発見された。それによると、この星は過去に四大陸が存在していたようだ。

 飛行船内部の会議室で、俺は調査結果について報告を受けていた。


 多くの大陸が沈むような状況では、規模的に宇宙船で脱出するなどと言うことは不可能だったと思われる。小さい島一つ程の宇宙船を作ることさえ難しいだろう。それでは惑星規模の脱出など到底叶わない。


「現在見えている島の部分は、当時は山岳地帯の山頂だったと思います。深海から現在の海面の近くまで住居跡が段階的に続いていました」これは考古学の女神シリスの報告だ。水が年々上昇しても、住居の移動は一気に行われたのか。あるいは、一気に海面が上昇したのか?

「逆に言うと、今の島部分は誰も住んでいなかった場所か」

「恐らく。妖精族が脱出したあとも海面上昇は続いたと思います」女神シリスは厳しい顔で言った。


  *  *  *


「信じられない話ね。いわゆる洪水とは全く違う状況ということね」飛行船の展望室から海面を見下ろしながらアリスが言った。

「そうだな。嵐がなくても、年々海面が上昇するんだからな」

「私、絶対夢に見て眠れません」とスサ。そう言えば、スサの国も水と闘っていたよな。

「そうね。私も、そんなのは耐えられないかも」とヒラク。ヒラクも海岸近くに住んでたし、荒れた海だったから海の怖さは知ってるようだ。

「でも、ここをリゾートとして使う気なら、他人ごとではないでしょう」と女神セリス。

 おっしゃる通り。それはただの歴史ではない。今、対策しなければならない脅威なのだ。

「本当だな。それが、最初の課題だろう」

「つまり、最初で最大の課題ね」とアリス。

 妖精族が逃げ出した課題だからな。


 さすがに、島や大陸が沈むと言っても、こういう沈み方は想像していなかった。だが、それは惑星モトスの危機を予見するものでもある。惑星フォトスの調査をして、惑星モトスの危機をいち早く知ることが出来たと言えるかも知れない。これだけでも惑星フォトスに来た甲斐があるというものだ。


 ちなみに、惑星フォトスで発見された転移ゲートは七つの頂点を持つ七芒星の形をしていた。実際に転移する地点の中心点を含めると八つの島から出来ていた。これらは水面下で接続されているようだったが、詳細は不明だ。これには女神カリス、女神キリスとも興味を持ったようだ。

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