第171話 惑星フォトス調査隊-光る星-

 眼下に惑星フォトスが大きく見えて来た。

 本当に惑星表面の殆どを青い水が覆っていた。まさに水の惑星である。俺達は皆、展望窓に張り付くようにして惑星フォトスを見下ろしていた。惑星モトスから見ていても青く輝く星だったが、大陸がないため青く光る海に覆い尽されていて、まさに宝石のように見える星だった。しかし、その美しさの裏には、壮絶な歴史があることもまた事実だ。


「なんとも美しい星ですね」マッセム王子は、ただ見とれていた。

「これは、大地が少ないと言うより、水が多いと言うべきでしょうか」とピステル。まさにその通りだと思う。

「そうですね。詳しく調べる必要はあるでしょうが、そう見えますね」地学の女神スリスも同意した。


「住めるのかしら?」とネム。

「まずは、空気や海水のサンプルを取って分析してみましょう」と女神オリス。


 治癒師の女神オリスと薬師の女神クリスに環境の成分分析をお願いした。もちろん、神魔科学の女神カリスと神魔道具キリスによる分析装置を持ち込んでいる。飛行船の一室を分析のために開け、ちょっとした研究室になっている。その分析結果次第では、眺めるだけで帰ることになるかも知れない。


 俺達は、降下してサンプルを採取した後、もう一度上空まで退避した。


  *  *  *


「なんだか、キラキラと煌めく海ですね」上空から眺めながらマッセム王子が言う。マッセムは、飛行船から眺める海には慣れている筈だが?

「確かに、惑星モトスの海と少し違って見えますね」とピステル。

「うん、そうだよな。モトスも上空から見ると綺麗だけど、それとはちょっと違った印象だよな」


 だが、惑星フォトスは、ただ水が多いだけではなかった。人間が眠る時間になったので、星の裏側に回ったのだが、惑星フォトスの海は薄っすらと光っていたのだ。


「夜の海が……光っている!」マッセム王子が驚きの声を挙げた。


 海は惑星モトスでも普通に光る。地球でもそうだ。それは発光する生物がいるからだ。だが、ここフォトスの場合は規模が違っている。上空に退避しているのに光っているのが分かるのだ。


「夜光虫が沢山いるのかな?」

「そういう程度じゃないようだが?」とピステル。

「もっと近づいてみる?」地学の女神スリスが言った。

「そうだな。操縦席、聞こえるか? 低空飛行してみてくれ」


~ 了解しました!


  *  *  *


 惑星フォトスの海面から百メートル程まで下降すると、海の光はさらにはっきりしてきた。海は全体に青白く輝き、まるで流れる宝石のようだった。色のついた水ではない。自ら発光しているのだ。それは地球のライブ会場で見たケミカルライトを彷彿とさせた。


「こ、これはどうしたことか!」とピステル。

「美しい」とマッセム王子。

「こんなものは初めて見た」

「ここは天国かしら?」とアリス。いや、女神様がそんなこと言っちゃっていいの?

「不思議ですね」とネム。

「夢のようです!」とヒスイ。

「海がお花畑みたい!」とヒラク。確かに、浅瀬のサンゴ礁なども綺麗に見えた。

「おいしそう!」とスサ。えっ?


 波の揺らぎにあわせて光の濃淡が生まれて、波の輪郭までも良く見えた。薄っすらと海の中が見えていて、時折魚が泳いでいく。


「ちょっと、潜ってみますか?」

 俺は隣にいた女神セリスに言ってみた。彼女にしてみたら、二千年前に見るハズだった景色に違いない。

「はい、ぜひ見せてください」と女神セリス。


 俺は、操縦席に潜航を指示した。真空膜フィールドがあるので、ここの生物に干渉することも逆に干渉されることも無いので安全だ。


  *  *  *


 潜ってみると、光っているのは主に海面付近だけだと分かった。十メートルを超えて深くなっても、うっすらと光ってはいるのだが、蛍のように明るいのは海面付近だけだった。海の中から見ると、それは空のようだった。


 面白いのは、魚で光っているものもいることだ。


「魚が光っているというより、発光する微生物が付着しているようですね」と女神セリス。ほぼ均一に光っているが、時々まだらになっている。

「光る魚って、おとぎの世界に入ったような気分だな」

「本当ね。惑星フォトスが、こんな世界だとは思わなかった」女神セリスが感慨深そうに言う。

「リゾートとしては面白い。後は、安全性次第だな」

 昼だけではなく、夜も楽しめる海岸になりそうだからな。


「それなんですが」治癒師の女神オリスだ。

「光っている微生物は、惑星モトスにいるものと、あまり違ってないようです。数も同じくらい」

「えっ? どういうことですか?」

「簡易分析ですけれど、特別なものは見つかっていません。ただ、魔法共生菌と共生しているようです」

「魔法共生菌と?」

「はい。それで、発光する力が強いようです」


 なるほど。ホタルイカが魔力を得てペンライト級の力を得たといったところか。むちゃくちゃだな。そんな必要あるのかな?


「これも神界が神力を必要としたからなのか?」

「否定はしません」女神オリスも、過去の俺からのメッセージを聞いている。まぁ、昔の俺の思い込みかも知れないが。


「この世界には、魔法共生菌と共生する生物が妖精族以外にもいたわけだ」

「むしろ、当然とも言えますね」と女神オリス。

「それで、ここの魔法共生菌は無害なの?」

「調べた限りでは無害です。何割かは既に私たちが散布した無害化魔法共生菌に変わっているようです。惑星全体で置き換わるには少し時間が掛かると思いますが、セルー島と同様に無害なものなので問題ありません」


 惑星フォトスは妖精族のふるさとであると同時に魔法共生菌のふるさとでもあったわけだ。惑星フォトスの夜光虫に共生していたということは。二重惑星のモトスでも同じことになるのかな? 運命共同体みたいなものだからな。その意味では、やはりこの惑星に来て良かった。惑星モトスの未来は惑星フォトス無しでは語れない訳だ。


「そういえばラームは? ラームはあるんだろうな?」ラームは妖精族と共生関係だったが、魔法共生菌があるなら育つハズだ。つまり、妖精族が居なくても生育できるからだ。

「それが、現状発見できていません」


 その後、惑星フォトスの島々を調査してみたが、聖果実ラームは発見できなかった。妖精族と共に惑星フォトスから消え去ったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る