第144話 幻の大陸アトラ探検-王都ラムダル-
翌朝、俺達はまだ暗いうちから探照灯と魔力波レーダーを頼りに南下した。もっとも、ここは深海なので昼でもずっと暗いんだが。
途中、海底が山のように盛り上がっている場所に出た。
「ここ、元は山なんだろうな」
「昨日の街をゼロメートルとしたら、標高は二百メートルほどありますかね」とマッセム王子。
マッセム王子は、地形にかなり興味があるようだ。そういえば、以前も地図を持ってたな。興味のあることをしていれば気も休まるか。
「当時の地形のまま沈んでるとは限りませんが、山の形のまま残っているのは奇跡かもしれませんね」とマッセム。
恐らく沈んだ後も地形は変化しているだろう。殆どのものは沈むときに嵐や津波で崩壊したと思われる。
「そうか! この山が何故そのまま残ったのか。謎ですな!」ナエル王、謎を発見した模様。いや、そんなに不思議かな? 考古学の女神様も興味示してないし。
「では、GPS通信機を埋め込むついでに、調べてみましょうか」
どのみち、一定間隔で音波探査をする予定だしね。小山ならGPS通信機の設置にも都合がいい。
* * *
ナエル王の期待とは裏腹に、この山は特別なものでは無く音響探査にも何も反応は無かった。ただし、調査が無駄だったというわけではない。この山は、在りし日の観光地だったらしく、そこにあった展望台からは「首都ラムダル」の位置を示す地図が発見されたからだ。観光地の石板だが、情報が少ない俺達には大きな収穫だ。
「やりましたね! ナエル王」とマッセム。
「いやいや、初めて私が参加した意義を感じましたぞ」とナエル王。確かに、今までの大陸訪問では、普通の人間はあまり役に立っていないからな。お手柄です。
「そうじゃの! 大したものだ!」ヒュペリオン王も絶賛。やる気が出てきたのかも。
「そうです。素晴らしいです!」とピステル。うん、結果が出ると違うよな。
「確かに、王都となると調べない訳にはいきませんね」女神シリスも、ちょっとその気になったようだ。
* * *
ただ、王都ラムダルに到着した俺達は、愕然とした。
王都は高台にあったらしく海中にあっても比較的明るいのだが、見渡す限り瓦礫の山だった。いや、正確には掘り起こしてみたら、だが。
今やダイビングギアと化した飛翔魔道具を付けて、みんなで砂を吸い上げてみたのだが、その下にあったのは崩れた瓦礫だけだった。それは最初の街以上の惨状だった。最初の街は、もともと構造物が少なかっただけかも知れないが、こちらは王都らしく瓦礫が大量に散らばっていた。それは、まるで大きな嵐の後のようだった。
そんなわけで、もう何も残っていないと思いつつも魔動ノッカーを打ち込んで音響探査を実行する俺達。
「これは、無理でしょうな」さすがに、ナエル王も諦めたらしい。
* * *
飛行船に戻って、改めて王都ラムダルを魔力波レーダーで眺めてみた。それによると、この王都ラムダルから大陸の奥のほうまでは、ずっと高原のような台地が続いていた。もともと、あまり山のない平坦な土地だったようだ。
「沈むと言っても、恐らく時間を掛けてだったのでしょう。少しずつ破壊されていったように見えます」と女神シリス。
大地が海に没する話といえば火山活動があるが、この場合は島などの比較的狭い領域の話になる。大陸が海中に没した今回の場合などは、どういうケースが考えられるのだろうか? プレートテクトニクスでも、大陸ごと消えたりしないだろう。氷河期が終わった後の海進だろうか?
「そういう意味では、高地のほうが何かいる可能性があるかも知れません」と女神シリス。
「なるほど。海面が上がってきて高所に移り住んで行った訳ですか。魚人の場合だったら、逆でしょうが」
「そうですね。でも、この世界で魚人は確認されていません。伝説もありませんから可能性は低いでしょう」と女神シリス。そうなのか。人魚の伝説もないのか。ちょっと残念。ただ、もう完全に海の中なんだから、普通の人間のほうが可能性は低い筈だが。
「海底都市でもあるのかな?」
「そうですね。その可能性くらいでしょうか。普通なら、あり得ないと言うところですけどね」と女神シリス。まぁ、女神アリスが精神エネルギーを感じ取ってるからな。
「分かりました。とりあえず、大陸中央が高台になっているようなので、そちらに向かって進んでみましょう」
大陸沿岸にそって深い場所を探すのを止め、大陸中央に向かって進むことにした。もし、ゆっくり沈んだのだとしたら、等高線がそのまま海岸線だった筈だからな。町を移すとしたら、直線状に移動することになる。それなら、中央に向かっている筈だ。
高地へ行ってだめなら、反対側の海岸を探せばいいだろう。
* * *
「海底都市とはなんじゃ?」夕食後、ヒュペリオン王が俺に聞いてきた。女神シリスとの話を聞いていたらしい。
「ううん、ちょっとしたおとぎ話です。空想のお話ですね。海の中に町を作る話です」
「なんじゃ、そうか。いや、本当にそんなものがあるのかと驚いてしまったのじゃ」
「ホントだよ。ペリ君の言う通りだよ」とテル君。
「ほんとです。リュウジ殿も人が悪い」とナエル王。
「そうですか? 実験的には作ったりしてましたよ。海底の通路は普通に作ってましたし。ああ、別の世界の話ですけどね」
「なにっ! ま、まことか婿殿!」とペリ君
「ほ、ほんとうか?」テル君。
「やはり、リュウジ殿のいた世界はおかしい」とナエル王。
いやいや、全然おかしくないから。必要があれば、人間はなんでも出来るんです。
「もしかすると、海の水が迫ってきて、仕方なく都市を作ったのかもなぁ」
「そ、そんなこと、考えられんのぉ」とペリ君。
「海の中に洞窟があったとして、そこに空気さえ送り込めれば生きられます」とマッセム王子。
「それは、そうじゃが」
「洞窟を奥へ奥へと掘り進んだのかも知れません」とマッセム王子。
「おお、なるほど。そういうこともあるか」とペリ君。
「しかし、空気をなんとかできたとしても、日の光はどうするんです?」とテル君。なかなか鋭い。
「魔法を使うとか?」とマッセム王子。ちょっと魔法に憧れを抱き始めたかも。
「それほどの魔力は、難しいじゃろう」と先輩風を吹かせるペリ君。
「そうそう、私達の時代で強力に使えるのは、このリングのお陰だからね」とテル君。
「左様。リュウジ殿がいてこその魔法ですからな」とナエル王。
「なるほど。とすると、もしかしてリュウジ殿がもう一人いたとしたら?」とマッセム王子。
「うん? ああ、リュウジ殿のような人間がいるかもしれないと?」とナエル王。
「あるいは、リュウジ殿に代わる何かが。そうすれば、海底都市が可能かも知れません」とマッセム王子。
「ううむ。確かにのう」とペリ君。
「どうだろう?」テル君。
「難しいですね」とナエル王。
考えて分かるものでもない。
「まぁ、可能性としては、マッセム王子の言うようなケースだろう。そう考えて探索することにしましょう」
「はい」とマッセム王子が明るい顔で言った。
「そうじゃの」とペリ君。
「確かに!」とテル君。
「そうですな」とナエル王。
何はともあれ、漠然とした探検ではなく、方針が決まった。洞窟の海底都市を探すのだ。そうなると、さらに音響探査が重要になる。
* * *
俺達は、大陸西岸中央にある王都ラムダル跡から大陸東岸を目指して潜航した。途中、定期的に音響探査を使って手がかりを探す。同時にGPS通信機も打ち込むことを忘れない。
そうこうして、特に収穫もなく五百キロほど進むと、俺たちは大陸の中央に到達した。
そして、その先には暗い海が広がっていた。
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