第145話 幻の大陸アトラ探検-海底の楽園1-

 王都ラムダルから水深五十メートル程の浅くて平坦な海底を潜航してきた俺達には、その先に広がる暗く深い海は、奈落の底のように見えていた。


「ちょっと不気味ですね。盆地でしょうか?」ナエル王は、気乗りしない様子で言った。


 確かに王都ラムダルを出てから何日も明るい海底ばかりを調査していたので、暗い深海へ潜るのは抵抗がある。


「確かにのぉ。あそこに降りていくのは勇気がいるのぉ」ヒュペリオン王もか。

「でも、元大陸なので盆地にしろ湖にしろ、それほど深くはないと思いますけど」マッセム王子が指摘する。

「なるほど。そうですね。うん」王子の言葉に、ピステルも安心したように言う。

「深くても、最初の街くらいでしょう」

「深いよ」ピステルには深かったらしい。


 たぶん、そこまではいかないだろうとは思う。元内海で無ければだが。詳細な地図がないのでなんとも言えない。


  *  *  *


 飛行船は、ゆっくりと降下していった。上から見ると奈落の底のようだったが、それほど深くはない。透視度があるため慣れるとそれなりに視界が効くのだが、深くなり色彩に乏しいモノクロの世界になるので雰囲気はだいぶ違う。


「何か、構造物がありますね」マッセムが海底にある遺物を眺めながら言った。確かに、構造物だろう。今まで見て来た瓦礫の山に比べると、砂の中ではあるが形が分かった。盆地なので、嵐の被害が少なかったのだろうか?

 だが、それ以外に特に変わったところもなく、時々打ち込む魔動ノッカーによる音響探査に反応はなかった。


~ 前方三十キロメートル先の高台に人工物のような反応があります。


 操縦席から連絡が入った。

「スクリーンに出してくれ」インカムで指示を出した。


 急造のGPS地図だが、俺達の位置をしっかり示している。


~ 右側の映像が前方魔力眼の画像です。


 スクリーン左半分にGPS地図、右半分に魔力波レーダーで捉えた映像が表示された。

 魔力波レーダーの探査範囲はもっと広いのだが、周囲数十キロメートルほどをズームして表示していた。

 見ると、少し先に一段と低くなっている盆地が広がり、その先に高台のような一段高い部分があった。湖と島だろうか?

 その島と思しき場所に明確に他とは違う反応が見えた。


「分かった。このままその構造物を目指そう」


 湖の島というと、すぐ神社を連想してしまうのだが、そういう特別な物なんだろうか?


  *  *  *


 海中とはいえ、真空膜フィールドのおかげで移動速度は速い。調査を実施しながら進んでもすぐに到着した。


「見えて来ましたね」マッセム王子だ。

「やはり、周りは湖だったのでしょうか?」誰とはなしに言う。あまり瓦礫がないようなので、そう見えるが詳しく調査してみないと分からない。


「中央に構造物が見えますね。幅は二百メートルくらい? 高さも二十メートル以上ありそうです」とマッセム。


 やや上昇して見ると、円柱状の構造物で最上部がドーム状になっていた。そのドーム状の天井は光沢のあるガラスのようなもので出来ているようだった。構造物の壁は珊瑚などに覆われているが、天井部分だけは綺麗に手入れされている。

 また、建物の最下層部分から、二本のロープのようなものが海面まで伸びていた。


 恐らく何かいる。いや、誰かいると言うべきか。ついに見つけたか? だが、驚かせてはまずい。まずは様子を見ることにした。


 飛行船を百メートルほど手前で停止して何か動きがないか待ってみた。


「誰も出て来ませんね。降りてみましょうか?」少し眺めていたが特に反応がないので、心配したミゼールが聞いて来た。

「そうだな。俺と美鈴で行ってみるか」飛翔神魔道具があるから楽だしな。

「あと私ね」女神シリスも来るらしい。そうえば、女神だから呼吸もしなくていいし安全だったな。


 それと、外部ハッチを出るとき、もう一人いるのに気が付いた。

「ミリィも待ってていいんだぞ」

「ワタシ、マスターと一緒にいる!」なんか妖精っぽいのが一緒だと、まだちょっと違和感あるんだよなぁ。

「マスター?」

「なんでもない。じゃ、いくぞ」


 俺達は、海中に飛び出した。そこは水深三十メートルくらいなので明るい。水温は感じないが、緯度的には三十度近くはあると思う。海底は砂地が続いていて魚影は薄いが、おかげで透視度も高かった。


  *  *  *


 ドームのある建物の最下層に出入口らしきものを見つけた。これは明らかに人間が作った建物だろうと思われる。人間サイズだからだ。


「これ、普通にドアよね。って開いてるし」美鈴が珊瑚などが付着したドアを押すとそのまま開いてしまった。

「全員探照灯をつけろ。周りに気を付けろよ」さすがに内部は暗かった。


 周囲に気を使いながら通路らしきものを進んで行った。いくつか見つけた部屋の中を見たが、使われていないようで荒れ放題だった。

 そして、そのまま通路を進むと階段があった。


「上に行ってみよう」この階を諦めた俺は、この建物の天頂部分に見えた植物園ぽい構造物まで登ってみようと思った。一番上から調査するほうが早い気がしたのだ。

 ところが、階段を登ってみると二階から上には普通に空気があり、壁なども綺麗になっていた。

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