第143話 幻の大陸アトラ探検-調査開始2-
俺達のやっていることは海底探検だが、今のところ相手は砂に埋もれた遺跡だ。他に誰かがいる可能性のある場所がないからだ。
ただ、砂があっては何も分からない。当然、砂を掘り起こすのだが地上の遺跡以上に苦労することになる。砂が舞い上がると周りが見えなくなるからだ。
「砂を掘り起こすのは、神力か魔力を使います。ですが、専用の魔道具がないので新しい方法を試してみます。見ててください」
そう言って俺は思い付いた砂を掘り起こす方法を試してみた。以前砂漠で試したのは、砂を吸い出して外にまき散らすだけだったが、それを海底でやると何も見えなくなる。舞い上がった砂が水中では落ちずに漂ってしまうからだ。
そこで、吸い上げた先に拘束フィールドを展開して砂を集めてみた。水操作プラス拘束フィールドで掃除機のイメージなんだけど。掃除機を知らない人はイメージしにくいかも知れない。だが、目の前でやって見せれば何とかなるだろう。砂が溜まったら固めて下せばいい。
俺の作業をみて、「あ、掃除機か」と言って美鈴も砂を掘り始めた。
「掃除機?」アリスが不思議そうに言うので解説してあげる。
「うん。ゴミを集める機械だな。地上だと空気を吸い出してゴミを袋に集めるんだけど、水中だから水を吸い出す。すると砂も一緒について来るから、砂は拘束フィールドで捕まえて散らばらないようにする。これをしないと、砂で周りが見えなくなるからな」
「ふうん。細かい砂も拘束フィールドで集められるのね!」
「細かい穴が開いてるイメージで拘束フィールドを展開すると砂が取れるぞ。布袋を想像すればいい」
「ほう、これは便利な生活魔法じゃな!」ペリ君、これで車の掃除ができると気が付いた模様。
「おお、俺もやってみる!」ピステルも砂漠の砂対策を思い付いたのか嬉しそう。
H&Hズのヒスイとヒラクも負けじと作業している。二人はまだ飛翔道具に慣れていないのでフラフラしていたが、作業は出来るようだ。魔力操作だからな。
「こんな感じかしら?」
「うん、拘束フィールドには慣れてるのよ。あれ? あ、こうか」ヒラクが慣れているのは魔道具の拘束フィールドだから自分で張るのとは別だ。それでもイメージがあるので上手く出来るようだ。
もちろん、この四人は魔法ドリンク飲んでいる。
神力や魔力を使える者は器用に砂を吸い出すことに成功しているようだ。
「な、なんで皆あんなこと出来るんだ?」俺たちの作業を見ていたマッセム王子が、さすがに驚いている。
「あの王様達は魔法免許持ちです。魔法ドリンクを飲んでるんですよ」
「魔法免許と! ああ、そういう話がありましたね。さすがに神聖アリス教国は進んでますね!」
「そうですね。私も、この探検が終わったら免許を取得する予定です」
「難しいんでしょうか?」
「適性はあるようですが、以前よりずっと易しくなったって話です」
「本当ですか! 私もやってみようかな?」
「ぜひ、やりましょう。あんなことが出来るなんて、放っておけませんよ」
「本当ですね!」
ちなみに、会話は全部筒抜けなので二人の会話を聞いてた王様達は、ちょっと自慢げだ。仮免だよ?
今回は探検に必要な技術を取得するためなので適当なところで帰ることにした。過去の遺物を探しても殆どの物は朽ちているし今回の目的は遺跡の調査ではない。精神エネルギーを出す者たちの確認が目的だから、反応がなければ、ここに用はないのだ。
というわけで、吸い出した砂は元通りに戻して引き上げた。
* * *
飛行船に戻ってからもしばらくは魔動ノッカーの音響探査をしてみたが、何も反応は無かった。
「ちゃんと動いてるのかな?」
~ はい、皆さんが降りていた時は、ごうごう凄い音がしてましたよ?
「あっ。ごめん。忘れてた。じゃぁ、ちゃんと動作してるってことだな」
~ はい。
「おっけーっ。あっ、今日はここで寝るから魔動ノッカーはそのままでいいよ。明日、引き上げよう」
~ 了解しました
魔動ノッカーは錨としても使える。
俺達は、シャワーを浴びて夕食を取ることにした。帰りにカニが沢山獲れたし今回は甘エビもいたのでホクホクだ。というか、みんな今日の魔法で漁師になれることを発見した。
* * *
「そういえば、精神エネルギーって、何か探知方法はないんでしょうか? 神眼のオプションで微かに見れる程度で終わり?」
食後、談話室で寛いでいるときに女神カリスが来ていたので、アトラ大陸から発せられているという精神エネルギーについて聞いてみた。
「そうですねぇ、そういう要求が無かったようです。あまり研究されてないですね」
「そうなんだ。まぁ、担当神にしか集まらないわけだしね。ただ、それって人間の探知に使える気がするんだけど?」
「えっ? あっ、そうか! そう言えばそうね!」と隣で聞いていたアリス。言われて改めて気づいたと言う反応。
「人間の反応ですか? そういう観点では見ていませんでしたね。使えるかも知れません!」あれ? 俄然女神カリスの興味を引いた模様。神様って長い時間を過ごしているから、細かいことは気にしなくなってるのかな?
「そうです! 出来れば素晴らしいですね!」とアリス。
「でも、通常の生命反応とは違うし、神力になる人間の精神エネルギーはもっと高等動物の思考と連動して……」
あ、女神カリスは自分の世界に入っちゃった模様。これ、ポセリナさんと一緒……というより、こっちが本家かも。
「前より近くに来てると思うけど、精神エネルギーって強くなったりするの?」女神カリスが自分の世界に入ったので、俺はアリスに聞いてみた。
「そこは変わらないわね」
「あ、そうか発散してるんじゃなくてアリスに向かって来てるんだもんな」
「そうね」
「あっちから来てるとか、方向は分からないの?」
「方向って言うか、神眼で見た時になんとか感じる程度なのよ。ズームすると猶更分からなくなる感じ」
「ああ、なるほど」
「場所は、一か所だとは思うんだけどね」
「あれ? 神眼で見て、なんで分かるんだろ?」
「え?」
「だって、神眼で見てる時、自分の体は移動してないだろ?」
「だから、神の眼よ」
「いや、そうだけど。その神の眼が精神エネルギーを見れるってことだよな?」
「そう」
「その、見るポイントを高速に移動したら、精神エネルギーを感じやすくならないかな?」
「どういうこと?」
「ほら、緩やかな起伏を手でゆっくりなぞっても分かりにくいけど、スーッと早くなぞれば分かるだろ?」
「そんなこと出来る?」とアリス。
「あ~っ、ちょっと待て。やってみる」俺は自分で神眼で見るポイントをスイープしてみた。ちょうど、地球儀を回転させるようなものだ。
「うん、移動は出来るな」
「あ~っ。確かに!」アリスもやってみたようだ。
「で? 精神エネルギーはどう?」
「確かに、この海底の大陸から出てるわね!」
「そこまでか」
「うん、でも、以前より反応は分かりやすい。リュウジの言った通りよ」
「そか。けど、さすがにその感覚だけじゃ数値化とかマーキングとか出来ないよな?」
「そうね」
「できますよ」突然女神カリスが入って来た。
「神眼の追加機能を作れば精神エネルギーを検出できます!」
「えっ? そんなこと出来るんですか?」なんだろう。アドオンか? 機能拡張なのか?
「普通は無理です」
「やっぱりか」
「でも、あなたなら出来ますよ?」
「えっ? 出来ませんけど?」プログラミングなら出来るけど。
「そうじゃなくて、開発権限があるってことです。第二神ですから」
「ああ、神眼に機能を追加する権限ですか?」
「そう。手段もね」
「それ、大丈夫かな? ストーン遺跡の誰かさんみたいに左遷とかされませんか?」
「大丈夫です。公式な方法で開発するわけですから!」
「なるほど。じゃぁ、って、どうするのかな?」
「私に、神眼の追加開発許可を与えるって、言ってくれれば大丈夫です」
「はい、じゃぁ、カリスさんに神眼の追加開発許可を与えます」
「ありがとう。じゃ、作ってみます!」
ふっ。
女神カリス、さっそく神界へ。
「神眼の機能拡張か。なんか凄い事始めたな。まだまだ、かかりそうだけど」
「間に合うかしらね」とアリス。
さぁ?
* * *
いっぽう、同じ談話室の片隅では……。
「あの、何か凄い話をしてるようですが。私、聞いてしまって大丈夫でしょうか? また別の女神様が現れたりしてますけど?」マッセム王子は気になるようだ。
「そうじゃの」ペリ君、そっけない返事でコーヒーを一口。
「うむ。いい香りじゃ」もちろん、マッセム王子が用意してくれたものだ。
「気になりますか?」すぐ横で将棋をしているテル君。気になって普通だと思うが。まぁ、俺が持ってきた将棋にハマっているのだが。
「はい、とっても」と答えても、テル君は将棋の次の一手のほうが気になるようで、駒を持って固まっている。
なんで気にならないんだろうとマッセルが不思議そうな顔をする。
「これが、日常なんです。慣れましょう」とナエル王。悟りを開いた王様に死角はないぞ。っていうか、王様が悟りを開いちゃって大丈夫なんだろうか? ちょっと心配ではある。
「そうですか」王子、この人たちに聞いた自分が馬鹿だったと諦めた模様。
翌朝、俺達は海中をさらに進んでいった。
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