第142話 幻の大陸アトラ探検-調査開始1-
二千年前に海中へ没したというアトラ大陸を目指して俺達は飛行していた。
都市国家モニから東に約二千キロメートル。そろそろ大陸のあった海域である。上空から神眼で見ると浅い海底がわかる。この辺りだ。ストーン神国の報告書にあったアトラ大陸の概略図の現在位置を操縦席に教えた。既に、GPSは機能していない。
「そう言えば、海にGPS通信機を浮かべられませんかね?」ふと、ランティスが言う。
「そうだな。やっぱりGPSは欲しいよな。大陸のあったところは浅いから、通信機を置けるかも知れない」
浅いなら海水浴場のブイみたいにしてもいいかも知れないが、嵐で流されてしまいそうなので、普通に海底に打ち込むものを作った。完全防水にして杭に取り付けただけだが問題はない筈だ。俺達が探検で行ったところにGPS通信機を打ち込めばいい。電波と違い魔力波は水や物体の透過率が高いので問題ない筈だ。
「よし、じゃあここから転進して南下だ! 高度を下げるぞ!」
いよいよ、海中に潜って沈んだ大陸を探索する。
* * *
「なんだこの海流は!」
アトラ大陸があったと思われる海域に飛行船を潜航させてしばらく進むと、大きな海流にぶち当たった。
「みんな流されていく」
眼前にはどこまでも青い海が広がり、眼下には底の知れない暗い海が横たわっていた。そんなこの展望室の目の前を魚たちが押し流されていく。マッセム・モニが驚嘆の声を上げた。
「たぶん、大陸が近いのでしょう。海流が大陸に当たって急に流れが変わったのではないかと思います」考古学の女神シリスが、そう教えてくれた。
「なるほど。海中にあっても大陸なんだな」
大陸が何故沈んだのか知らないが、大陸部分の地形によって海流は複雑になっているかも知れない。要注意だな。まぁ、真空膜フィールドを展開している今の俺達に危険はないが、船外で活動する場合はちょっと問題だ。
海底探検ということでソナーも作ろうかと思ったが飛行船や飛行艇に備え付けの魔力眼という魔力波レーダーが優秀で海中でも使えた。このため魔力眼の映像を飛行艇のスクリーンに表示して、操縦の指示を出すようにしている。
* * *
「深くて、あまり見えませんが、そろそろ大陸の端ですね」
「そうか、海岸付近で海抜0メートルだった所だな。そりゃ深いだろうな。もう少し潜航しよう。探照灯をつけろ」
~ GPS通信機を打ち込みます。
操縦席からだ。
「了解」
海底まで潜航したので、GPS通信機の打ち込みを開始した。これで相対的な位置情報をつかめるようになる。打ち込むと同時に神眼で見た位置をGPS地図に記録していく。
「街の跡でしょうか?」少し進むと、眼下に二千年前の街の残骸のようなものが見えてきた。深海という程でもないが暗いため珊瑚などが成長せず、そのまま残っている。ただ、細かい砂が降り積もっている。
「二千年も経てば、残っているのは石造りのものくらいでしょうか?」マッセム・モニも大分慣れてきたようだ。
「ああ。ここはそれほど深くないから尚更だな。何も残らない」
その様子を見て、俺はここでの捜索は殆ど無理だと判断した。
「そうだ、ちょっとここで潜航訓練でもしておくか?」すると、誰に言っているのか分からないという表情でマッセムは俺を見る。
「潜水に使う飛翔魔道具に慣れておかないとな! この先、飛行艇で留守番しかできないのは嫌だろう?」
「うん、そうじゃな。あれは面白いぞっ」横からペリ君が誘うように言う。
「あれに慣れないと、何も出来ないからね!」テル君は煽る。
「あ~でも、新しく付けたライトを使った潜航はみんな初めてだろ? それは練習しないとな」
飛翔魔道具は、新しくベルトに探照灯を追加したのだ。これで暗い深海でも行動可能になった。ナイトダイビングのようなものだからな。というか、アトラ大陸の探検は深海で作業するのが前提なのだ。神力や魔力を使えれば自分で照らせなくもないが普通の人間は無理だからな。
「なるほど、そうじゃの」
「うん。わかった」
「それは、楽しみですな」
この三人、ペリ君、テル君、ナエル王はこの魔道具完成と同時に来て遊んでたので余裕の発言だ。ただ、深海に潜ったわけではないので探照灯は初めて使う。
最初は信じられないという顔をしていたマッセムだったが、全員やる気満々なので自分だけ止めるとは言えないようだ。ま、危険はないと思うよ? 魔道具が正常なら。
* * *
一通り、説明を受けるとマッセムも覚悟ができたようだ。ナエル王はマッセムに「先生」と呼ばれてご満悦である。
俺達は新たに付けた飛行艇の外部ハッチを開けて外に出た。とはいえ真空膜フィールドの内側なので全く船内と変化はない。
飛翔神魔道具を起動し、探照灯をつけ、浮遊して真空膜フィールドを抜けると、そこは深海だ。真空膜フィールドのおかげで、強い海流があっても全く流されない。これは、理想のダイビングギアと言える。
「明るい海で練習しておけばよかったですね。いきなり、こんな暗いところで練習とは」ピステルがそんなことを言う。それでも、通信機で会話することが出来るので孤独感はない。ベルトが光るのと飛行船の探照灯があるので、誰がいるのかも分かる。
「まぁ、そうだね。でも、帰還ボタンがあるので安心だろ?」
帰還ボタンとは、スペルズが考案したもので海中で迷子になった時にボタンを押すと自動的に母船に運んでくれる機能である。障害物があったら避ける必要はあるけれど便利で安心する機能だ。今は飛行艇が帰還ポイントになっている。
「確かに。全然安心感が違うね。この赤いボタンを押せば戻れるってことだよね?」とピステル
「そう。じゃ、全員中性浮力を調整するよ。同じ深さに並ぶように!」
「マスター、ワタシも?」
「うん。ミリィも、ちゃんと潜れないとダメだからな」
「は~いっ」そう言ってミリィは俺の真空膜フィールドから出て海中で浮力を調整した。真空膜フィールドを展開する者同士が重なったり離れたりも問題ないないようだ。
今は、王様たち、女神隊四名、美鈴と侍女隊、H&Hズと結構な人数で潜っているので楽しいが、一人で潜っていたら真っ暗な深海は怖いだろうなと思う。特に方向感覚が狂ったら、どこまでも沈んでいきかねない。明るければ光の方向や泡の上昇で上下は分かるのだが。暗闇では、全く分からないからだ。
中性浮力の調整が終り、俺達はゆっくりと廃墟へと潜航して行った。
* * *
海底は細かい埃のような砂に覆われていた。過去の遺物にも降り積もっていて、触れると煙のように舞い上がる。これが厚く積もっている。
「飛行船聞こえるか?」
~ はい、感度良好です。
飛行船の操縦席から、ちゃんと応答が帰ってきた。
「俺達を探照灯で照らしながら付いて来てくれ」
~ はい、了解です。
上から探照灯で照らされて、海底が良く見えるようになった。俺は少し先に広場のような何もない場所を見つけて、皆を連れて移動した。飛行船もゆっくり付いて来る。
そこには瓦礫もなく、土がむきだしになっていた。
「ここでいいだろう。飛行船、ノッカーを下してくれ」
~ 了解。
さすがに、いきなりここが目的の場所とは思わないが、魔動ノッカーで音響探査をする訓練は出来るだろう。
俺は、するすると降りてきた魔動ノッカーを受け取り地面に食い込ませた。魔動ノッカーは先端のドリルを回転させて地面に食い込ませる仕組みだ。
「よし。飛行船で、少し探査しててくれ。俺達は周囲を探検する」
~ 了解。
俺は、音響探査を飛行船に任せて、まわりの構造物を調べてみることにした。
「何かあるの?」ミリィが俺の肩に止まって聞いた。
「いや、ないだろな」
「なんだ」
「でも、探検するやり方を覚えられるだろう?」
「そうか。その練習なんだ」
「そういうこと」
最初はおぼつかない様子だったマッセムだったが、ナエル王に教えてもらい普通に移動できるようになったようだ。なかなかセンスがいい。
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