第139話 ストーン砂漠の復興と歴史3
「月が青いなぁ~っ」
露天風呂に浸かって、間延びした調子で俺は言った。
「そだねぇ~っ」女神シリスも、隣でやっぱり寝そべるようにして月を見上げていた。
なんだか、初めて一緒に入った気がしない馴染んだ雰囲気になっていた。前から居たような、そんな感じがした。月を眺めていると不思議と気持ちが落ち着くよな? 何故だろう?
そんなことを考えながら、俺は改めて月をまじまじと見た。そう言えば、この世界に来て月なんてまともに見てない気がする。ん?
「月が、青いな」
「うん、青いね」
「ってか、青すぎないか?」
俺は、地球で見た白い月に比べて妙に青い月なのが気になった。
「月っていうか、フォトスには海があるからねぇ」横でやっぱり寝そべるようにして月を見上げていた女神コリスが言った。えっ?
「なんだって~?」
「どうしたの~っ?」コリスは、不思議そうに言う。
「なんで、月に海があるんだよ!」
「えっ? だってフォトスだもん。フォトスには昔から海があるから青いのよ。神眼で見てないの?」
俺は慌てて、ズームしてみた。確かに、雲があり海がある。以前地球にいた頃に見た、月から地球を撮った写真のようだった。
「まさか、こっちが月ってことはないよな? ここって、二重惑星だったのかよ!」
「何で知らないのよ!」コリスに言われてしまった。
あ~っ、それって引継ぎ資料とかに書いてあるんだろ~か? って、俺は担当神じゃないし。引き継いでないし。
「いや、普通もっと早く……ま、いいけど。大陸もそうだったよな。たぶん俺が見たく無かったんだよな」
「ちなみに、この星の名前はモトスよ」
「そうですか」
二重惑星ってなんだよ。まぁ、月と地球も二重惑星だって言う人もいるから、そんなに不思議なことでもないんだが、さすがに海まである似た惑星となると驚くしかない。
わざわざ作った? もしかして、神様がどこかから持ってきたとか? なんて、ぼうっと考える。
「あれ? もしかして宇宙港って、あのフォトスに行こうとしてた?」
「それだわ!」と女神シリスが大きな声を上げた。耳の横で叫ばないでほしい。
「声、デカいよ」
「あ、ごめん」
「いいけど。なんだよ」
「宇宙開発の目的がはっきりして無かったんだけど、フォトスが行先ならいろいろ納得出来るわね」
「そ、そうなのか?」
「そうよ。担当神が他の星系を目指す理由がないもの」そんな事情、知りませんけどね。
「でも、フォトス? に何があるんだ?」
「それは……」とシリスも分からない。
「何もないと思うよ。海はあるけど人間は住んでいない筈」コリスがそう説明した。
そうか、それは良かったよ。あそこまで魔法共生菌をばら撒かなくていいわけだ。そもそも、人が住めるのか?
「もしかして、俺と同じで神界のレジャーランドを作ろうとしたのか?」
「ん~っ、どうだろ。それは分からないけど、神界というよりこの世界の為なんじゃない? まぁ、実現出来なかったんだけど」とシリス。
「それはそうか。でも、それだけ準備したのに中止になっちゃったのか。あ、神力が減ったとか言ってたっけ?」
「そう。いきなり神界全体の神力が減ったのよ」
「原因は?」
「さぁ? そこまでは知らない」
* * *
考古学の女神シリスからストーン砂漠の調査報告を受けてから一週間が経った。
驚くべきことではあるが、所詮は一つの歴史でしかない。平静さをとり戻して夕食の後に談話室で寛いでいたら、さらに驚くべき報告が届いた。
「アトラ大陸が沈んだって、何のことだ?」
女神シリスがやって来て当時の報告書のようなものを披露したのだ。
「開発初期の調査報告書にあるのよ。南大陸のさらに東にあった大陸らしい。報告書では、百年ほど前に沈んだって書いてある」
「なんで沈んだんだ? 地殻変動があったのか?」
「それがね~、良く分からないんだよね。開発には直接関係ないから、ちょっと触れてるだけなのよ」
「そうなのか。そんなことがあったのか」
この星って、意外とダイナミックな変化をしているんだろうか?
「まぁ、島程度なら火山が原因とかあるだろうけど。大陸じゃぁなぁ。普通そんなことないだろう?」
「そうだよね。不思議だね」
俺は神眼で、その大陸があったと言う辺りを覗いてみた。海の中なので、いまいち見えないが、古い報告書にあった概略図とほぼ同じものが見えた。
「確かに、大陸の跡っぽい水深の浅いところがあるな」
俺は神眼で眺めつつ言った。
「この辺りって、ずっと海ばっかりだって思ってたけど沈んでたのか」
この星は、今まで中央大陸と南北大陸くらいしか大陸がないのかと思っていた。南方諸国もあるが地球に比べると大陸が少ない。
水深とか水の総量で比較したわけじゃないし地球が標準でもないんだろうけど、気にはなっていた。この星は水が多いんだろうか? それにしては水不足だが。まぁ、あれは気候との関係だからな。地球でも海の近くに普通に砂漠がある。
しかし、ストーン砂漠の遺跡は話題が尽きないなと思った。まぁ、これもそんな特異な歴史の一ページに過ぎない訳だが。
「ねぇ、お楽しみのところ申し訳ないんだけど」ちょっと遠慮気味にアリスが話し掛けて来た。
「別に、お楽しみじゃないよ。てか、いたのか」
「ずっと、いたわよ」とアリス。
「で、どした?」
「その、アトラ大陸の跡なんだけど」
「うん。どうかしたのか?」
「どうも、精神エネルギーが出てるっぽいのよね」スキャンで探っているような焦点のあっていない眼でアリスが言った。
「精神エネルギーって何?」
「まっ」とシリス驚く。
「知らないんだ」とコリスまで。
「みんな知ってるの?」
「神なら普通、知ってるよ」とシリス。
「俺、新米だからな。第二神だけど」ていうか、まだ仮免か?
「ええと、信仰心が私に集まるって言ったでしょ? それが、精神エネルギー。私の中で神力に変わるエネルギーよ」とアリス。
「ああ、聞いたな。それがどうしたって?」
「その、アトラ大陸の跡から出てるのよ」
「って、なんで海底から精神エネルギーが出るんだよ。魚に布教したのかよ?」
「してないわよ。あら、でもそれって可能かしら?」
「そんな訳ないだろ。変な色気出すなよ」
「冗談よ。でも、信仰する人が居ない筈の海底から精神エネルギーが出てるってことは」
「うん」
「誰かいる」
「なんだって~っ?」
俺はこのところ、ぶっ飛ぶことが多い気がする。これは誰かの陰謀か? ウリス様か? エリス様か? 神様が作ってた都市の遺跡を掘り起こしたせいなのか? なんか、いろいろ出過ぎな気がする。埋め直して終わりにしようか?
「リュウジが驚いてる」とアリス。
「本当ね、珍しい事もあるものね」とイリス様。
「リュウジを驚かせるとは何者なのだ?」とウリス様。
「リュウジより怖い!」とエリス様。
全員集合してたんだっ。
しかし、単なる歴史ならともかく、これは放っておくわけには行かないよな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます