第140話 幻の大陸アトラ探検-準備-

 大海に沈んだ幻の大陸アトラから精神エネルギーが出ていることが判明した。

 それはつまり女神アリスを信奉する誰かがそこに居ることを意味している。大陸が沈んだ後、誰かが住み着いたのか? 一人や二人じゃないよな? 国があるのか? 確かに、この星の大陸は小さいとは思ってたけど海の中も大陸にカウントしないとだめなのか? やっとのこと大陸を制覇したと思ったら、次は海底都市? もしかして、魚人とかいるのか? あっ、人魚ってこともあるか?


 どんな人たちにしろ、誰かが海底にいるのなら、調査する必要があるだろう。人魚が住んでるなら、会ってみたいし。


  *  *  *


 事情が事情なので、アトラ大陸探検は神聖アリス教国独自の活動として計画した。ただ、国の活動なので大陸連絡評議会にも一報を入れることにした……のだが。


「君といると驚くことばかりだが、さすがにこれは驚天動地だよ。何がどうなってるんだよ」とピステル。俺が聞きたいよ。

「確かにのぉ。ストーン砂漠の復興をしていることは知っていたが、そんな話まで発掘するとはのぉ」とヒュペリオン王。そうですね。


 二人は、評議会での俺の報告を聞いて急ぎ駆けつけて来たのだ。さすが、ペリ君とテル君である。さらに今回はシュゼールのナエル王も来ていた。評議会の代表代理だけど、今回は評議会としては動かないことになったんだが?


「ですが、伝説としては聞いたことがある話なので今までのリュウジ殿の話に比べれば、衝撃という程でもないでしょう。十分あり得ます」今までの俺の話って?

「ナエル王はアトラ大陸の話をご存じでしたか」ピステルが意外そうに言う。

「はい。海を渡る商人は海の話が大好きですからね。恐らくオキ神国やアイデス王国でも知っていたのでは?」ナエル王は当たり前のように言った。


「私も、チラッとですが聞いたことあります」ミリス・アイデスだ。

「私は、おとぎ話で一夜にして沈んだ大陸の話を聞いただけですね」マナ・オキヒも知ってはいるようだ。

「ステル王国では、聖なるアトラ大陸の悲劇と言うお話が残ってますね」ヒスイは、南北大陸出身だから、もう少し詳しい話を知ってるようだ。

「私は、妖精の国って聞きました。妖精と人間が仲良く暮らしていたって」えっ? それは初耳。西岸同盟はちょっと違う伝説が残っているのか?

「セルー島と同じ妖精族かな? アトラ大陸にもいたのかな?」

 詳しく聞いてみたい気もするが、ストーン神国の公文書や新聞以上のものが出てくるとは思えないな。


「まぁ、二千年前に沈んだ大陸だからねぇ。いるとしたら魚人とかだと思うけど、海の中だからな。簡単に訪問はできない」

「海ならマッハ飛行船が潜れるじゃないか」とピステル。

「そりゃね。でも、俺達は飛行船の外に出れないし。海の中にその国の入口があったとしても飛行船の巨体が入れないかもしれないだろ?」

「ああ、なるほど」


「上部展望室の飛行艇でも結構な大きさがありますからね」ナエル王は、前回の派遣のときのことを思い出しているようだ。遺跡を見つけたが、ただ周囲を回って映像を記録するのが精いっぱいだったからな。

「そう。そもそもどんなところに居るのかさえ不明で、迎えに出てこれるのかも分かりません。隠れて住んでる可能性すらあります。無理やり穴を開けて全滅されたら困るし」

「ふむ。確かに。難しいのぉ」とヒュペリオン王。

 まぁ、竜宮城なら出迎えに来てくれるかもだけど。特に恩は無いので、無視されるだけか。


「ただ、二千年経って出てこないということは、もしかすると上手く行ってないのかも知れません」

「うん? それはどういうことじゃ?」

「彼等が、何時からいるのか分からないけど、沈んだ大陸だけに執着してる意味が分かりません。繁栄しているなら出て来ると思うんですよね。つまり勢力圏を拡げるということです。拡げないのなら繁栄していないということ」


「ということは、辛うじて生きているという具合か?」

「はい、可能性は高いと思います。どの程度かはわかりませんが、行くなら、なるべく早いほうがいい気がします」

「確かにのぅ」

「行くのか? リュウウジ殿?」ピステルが聞く。

「魔法共生菌の事もあるし、俺には行かないって選択肢はないよ」

「そうか。俺も、これは確認すべきだと思う」ピステル、最近積極的だよな。

「私も、同意見ですな。評議会の活動ではありませんが、この世界の国として押さえておくべき事のように思います」とナエル王。協力してくれると言うなら、断る理由もないな。

「助かります」


   *  *  *


 翌日俺は、幻の大陸を探検するにあたって現時点で考えていることを、執務室で王様たちに披露していた。協力はともかく、参加するかどうかはその後それぞれで考えて貰えばいい。


「まずは海に潜る手法をいくつか考えてます。なるべく現地で困らないように」みんなにお茶を用意して、俺は説明を始めた。

「新しい手法かの?」とヒュペリオン王。

「はい、まず、天馬一号の潜航能力を強化して単独で海中を移動できるようにします。エナジーモジュールを一回り大きくして潜航時間を伸ばせば可能かと」

「なるほど。あれなら洞窟でも入れそうじゃな」とヒュペリオン王。

「はい。それと普通の人間でも潜って移動出来るような装置も考えています。以前に王様たちが提案した『飛翔装置』を改良すればそのまま使えそうです」

「おお、あれか。あれで潜れるのなら楽じゃのぉ」

「そうですね。さすがに魔法ドリンクで飛べる俺達でも海の中は難しいからね」とピステル。


 俺は、ダイビングで使うドライスーツのようなものを真空膜フィールドで作るつもりだ。ん? 魔法ドリンクで飛べる俺達? 仮免だけど?


「と言うことは、水にも潜れるし空も飛べるということじゃな?」ヒュペリオン王は、ちょっと興味が湧いたようだ。

「そうですね」


「おお、ますます便利なものが出来るのぉ」

「リュウジ殿、それは素晴らしい!」ピステルもかい。この二人、普通に遊ぼうとしているな。

「海に潜るので普通の飛翔魔道具の免許ではない別の免許にする予定です」

「「は~っ」」がっくりする二人。

「でも、テクニックは同じなので海に潜る時の注意を学習するだけです」

「「お~っ」」復活する二人。面白い。


「それで、海底で都市を発見したら、どうやってコンタクトするの?」ここで、アリスから鋭い突っ込みが入った。

「あっ」全く考えて無かった。


「ん~っ、真空膜フィールドを振動させる外部スピーカーで呼びかけるくらいかなぁ」

「携帯型の拡声器とか持ってたほうがいいんじゃない?」と美鈴。彼女も行く気満々だ。

「そだね。言語は同じはずだから音が伝われば意思疎通出来るだろう」

「伝わるかしら?」と美鈴。

「ドアをノックするか」

「なにそれ」

「ドアと言うか壁があったらノックする。金属棒があればいい」

「確かに音がすれば気付くわね」

「ついでに壁を直接振動させるスピーカーも用意しよう。音声が聞こえれば何か反応あるだろう。骨伝導みたいな奴だ」

「ああ、そういうことね。海底のドアをノックしたり大声出す魔道具を用意すると」

「そゆこと。あと装備としては探照灯くらいかな。暗い深海だろうし」


「リュウジ殿、そうするとアトラ大陸を探検するとしたら何時頃になりそうですかな?」ナエル王も行く気らしい。


「そうですね。魔道具の開発は、それほどかからないでしょう。エナジーモジュールを入れ替える程度なので。一月もあれば準備出来ると思います」

「それは素晴らしい。ならば、私も同行してよろしいか?」正式な大陸連絡評議会の派遣ではないので俺と俺の関係者で行くつもりだが?

「結構ですが、南方諸国から戻ったばかりで、そんなに国を空けて大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です。むしろピステル王のほうが難しいのでは? 奥方のことが心配でしょう?」

「確かに。しかし私が抜けるわけにもいかないでしょう」

 二人とも周囲は大丈夫とは思ってない気がするが?

「いや、今回は正式な派遣ではないので抜けても問題ないよ」


 でも、ピステルは行きたい様子だ。変われば変わるものだな。あれ? 俺、ミリィ連れてチームで冒険しようとしてる? チームって言っても、王様だらけの女神様だらけなんだけど。ま、いっか。

 そう言えば、ミリィの飛翔魔道具も必要だな?


  *  *  *


 俺はランティスとスペルズの魔道具開発工房へ行った。そこは生産工場に隣接した研究開発室だ。二人の他にも多くの魔道具技師が詰めている。広い部屋だが、いくつものコーナーに分かれて試作を作っていた。


「あ、来た来た」先に来ていたミルルが俺に気づいて手を振った。

「わざわざ済みません。今日はまた面白いものを作るらしいっすね」


 ミルルと話をしていたスペルズが嬉しそうに言った。飛翔魔道具を開発したのは彼だ。


「もう聞いてるんだろう? あの飛翔魔道具を水中でも使いたいんだ」

「はい。天馬一号も飛翔魔道具もどっちも真空膜フィールドを展開してるから潜れるっすからね」

「うん。天馬一号は、エナジーモジュールを大きくすればいいだろうけど、飛翔魔道具はどうかな?」


「そうっすね。飛翔魔道具は、高速にする必要はないんですか?」

「うん。ゆっくり飛べるだけでいいよ。特に水中はね。あと、真空膜フィールドを展開して浮力を打ち消すだけでいいよ」

「わかりました」


「あと、真空膜フィールドを体にフィットさせるってのは出来そうかい?」

「そうですね。今でも皮膚に沿ってますから、手と足に専用の道具を付ければ海中で作業も出来ると思います」

「うん。ブーツとグローブか。いいだろう。それで頼む」

「了解っす」スペルズは嬉しそうに言った。開発者だからね最初に遊べるのが嬉しいようだ。


「ああ、使用感とか見たいから、俺もテストに参加するぞ」

「えっ? あ、そうっすね。分かりやした」

「マスター、ワタシも!」

「あ、そうだ。ミリィの魔道具も頼む。なるべく軽く」

「了解っす」


「あれ? 肩に乗るだけなら、俺の真空膜フィールドに入ってればいい気もするが?」

「ああ、それだったら、リュウジさんの真空膜フィールドにも入れるように考えてみるっす」

「あ、それ面白いかも。最悪複数人の真空膜フィールドを合体させて誰かを保護するとか出来るかも?」

「いいっすね! 了解っす!」

 完成すればね。


 それと、飛行艇から外部に出るハッチも改良することにした。水中で出入りする可能性大だからな。これで、とりあえず水中探検は出来そうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る