第138話 ストーン砂漠の復興と歴史2

 ストーン砂漠の復興のために、ストーン遺跡の発掘を女神シリスに頼んだ。

 考古学の女神と言っても簡単なことではないだろう。当分先の話だと思っていたら、発掘を初めて半月ほどで女神シリスから最初の連絡が来た。それによると、ストーン遺跡から大量の神道具が発掘されたとの事だった。これを受けて、神魔道具の女神キリスと神魔科学の女神カリスに発掘隊に参加してもらうことにした。


 そして十二月末、女神シリスから再度報告したいと連絡が入り、俺は王城の執務室で待っていた。あまりにも早かったので、ちょっと驚いている。


ぽっぽっぽっぽっぽっ


 考古学の女神シリスを筆頭に女神ケリス&コリス、女神カリス、女神キリスと登場。


「お待たせ」と女神シリス。

「お疲れさん」

「ふぅ。ちょっと大変なことになって来たわ」


 女神シリスの表情はあまり知らないけど、女神カリス、女神キリスの表情からすると本当らしい。


「そ、そうなのか? まぁ、座ってくれ」


 俺はソファを勧め、お茶とラームを用意した。


 女神シリスによると、廃墟となっていた聖都ストーンは神の眷属が建設していた都市国家だったという。やはり神界絡みか。ただ、建設は難攻していたようだ。痩せた土地でしかなかったからだ。何故そんな場所を選んだのかは分からない。ただ、そこで高度な神道具の開発をしていたようだ。


「発掘された神道具は、今の水準から見ても高い技術水準のものばかりでした。ただ、進歩の遅い神界の技術が今と同じなのはむしろ当然。少なくとも今知られているほとんどの技術はもう使われてました。リュウジさんのエネルギー革命はないけどね」と女神キリス。


「そうなのか。なんで神道具の開発をしてたんだろう? 神界に提供してたのかな?」

「それが、大量に作っていた訳じゃないんです。一品もの、つまり研究開発に近い」と女神キリス。


「なんか、話を聞いてると大陸の外れの不毛の荒野に無理やり建国して、そこで何か特別なことをしていたように聞こえるんだが? 何をしようとしていたんだろ?」


「問題はそれよ。そこが今回の目玉よ」女神シリスが勢い込んで言った。


  *  *  *


 なんだか凄そうなので、ちょっと休憩を入れた。お茶を淹れなおして、じっくり聞くことにした。


「ストーンのような荒野に近い場所で研究開発していたのには、理由があったのよ」


 一息入れた女神シリスは、ほっと息を吐いてから話し始めた。


「遺跡に広大な神殿のようなものがあるのを知ってるでしょ?」

「ああ、神様の紋章が残っていた神殿の話だな?」

「そうそう。以前リュウジと発掘したところね」と女神ケリス。

「あれね。どうも神殿じゃないらしいの」と女神シリス。

「神殿じゃない?」

「そう。広い場所が必要だったの。でも、それは神殿じゃない」

「ほう」


 そう言って俺は、砂から掘り出した広場を思い出していた。


「どうも、宇宙に行くための施設だったみたいなのよね」


 俺は一瞬耳を疑った。ちょっと聞いてはいけない言葉を聞いた感じだ。


「なんだって~っ?」


 開いた口が塞がらないというか、思いっきり予想外だった。ってか、いきなり怪しい話になって来た。


「う、宇宙に行ってたのか? あれって宇宙港だったのか?」


 いきなりこの世界の世界観が揺らいだ気がした。


「違う違う。そういうことを目的とした施設だったってことよ」


「目的とした?」

「そう。実際には実現していないみたい。建設途中でとん挫したらしいの」女神シリスは慌てて手で遮るポーズで言った。


「なんだそうか。いや、でも、宇宙船の研究してたってだけでも凄いな。もう、この世界の人間置き去りじゃん」

「うちゅうせん?」

「うん? 違うの? 宇宙へ行ける船で宇宙船。飛行船の宇宙版だ」


「ああ、確かに。その宇宙船の研究もしていたみたいですね。ただ、リュウジさんのエネルギー革命以前の技術でやろうとしていたから、大変だったようです」これは女神カリスだ。


「ほう。他の方法もあるのか。転移とか? 当時は、神力をふんだんに使えたのかな? 有り余ってた?」

「う~ん。どうかなぁ? 確かにその頃までは比較的神力が豊富だったわね」女神シリスが当時を思い出しつつ説明してくれた。


 やっぱ、そうなんだ。神力を使えば宇宙船も作れるだろうからな。まぁ、神様の仕事としては、どうかとは思うけど。


「でも、ちょうどその少し前に神界で神力が急減してね。それで、急に締め付けが強化されたのよ。この計画がとん挫したのも、そのせいなんじゃないかな」と女神シリス。


 そんなことがあったのか。

 凄い話になって来た。ストーン遺跡は、宇宙開発センターみたいな場所だったのか。都市まで作るってことは、目途は立っていたんだろうな。


 神が地上界で国や施設を作ろうとしていたこと自体は、今から考えると大きな驚きだ。神界が不干渉主義になる前の、古い時代の遺産にはそういうものもあるってことか。

 まぁ、これはちょっと異常かも知れないが。


 ともかく、今回の報告は以上だそうだ。いろいろあって、ゆっくり考える必要があるだろう。ここは女神湯に入って落ち着くに限る。


  *  *  *


「ふぅ。これが女神湯かぁ~っ。気持ちいいね~っ」


 女神湯に浸かった考古学の女神シリスは満足そうに言った。


「そうか、シリスは初めてだもんな」

「そう。ずっと見てたけど、私なんて呼ばれないんだろうな~って思ってた」


 そんな風に言われると、もっと早く呼んであげたかった気もする。


「そんなことないだろ、今までも遺跡とかあったし」

「でも、関心なさそうだったじゃない?」

「まぁな」


 女神シリスは初めての女神湯をきょろきょろ見ていたが、満足したのかうーんと伸びをして寝そべるように体を湯船にあずけた。メガネは掛けたままなんだ。


「今回は、なんだっけ。レジャーランドにしようって話からだっけ?」


 シリスは湯船の縁に頭を持たせて空を見上げたまま言った。


「うん? そうそう。神界のレジャーランド。ルセ島が手狭になってね。あそこが代わりの場所になるんじゃないかって」


「ふうん」

「でも、もともとが荒地じゃなぁ」

「確かに、厳しいかも~っ」


 俺は、評議会で私的な復興計画として報告したけど、各国を誘った大計画としてぶち上げなくて良かったなぁと思った。

 しかし、宇宙に行こうとしてたって何でだろ? なんでそんなこと考えたんだろう?


 そんなことを思いながら、俺はシリスと同じように岩風呂の縁に頭をもたせ掛けて夜空を見上げていた。

 空には青い月が浮かんでいた。

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