第136話 妖精と南の島

 エリス様謹製ビデオ「妖精と南の島」王城上映会は、大好評のうちに終了した。

 だが、それだけでは済まなかった。今、一番関心の高い南方諸国派遣の報告だったからだ。


「これ、一般に公開しない手はありません。ぜひ公開すべきです。美術館で公開したいくらいです」上映会に来ていた元老院議長のマレスが絶賛した。


 気持ちは分かるが、さすがに音声付の作品を美術館で公開するわけにはいかない。音響的にもダメだしね。


「そうじゃの。我が国でも是非公開したいものじゃ」ペリ君も絶賛。いや、それより帰ろうよ。

「そうですわ、これは絶対にみんなに見てもらいましょう。いえ、これは見せる義務があると思いますわ。場所は、劇場はいかがかしら? この作品には劇場がふさわしいと思います」さすがに、セレーネは分かってる。劇場版だよな。

「おお、それは素晴らしい。その通りですな。では、さっそく劇場を手配いたしましょう。一定期間抑えたほうがいいでしょうな?」マレスがその気になってるので後は任せることにしよう。

「そうね。みんなが見たいって言うでしょうから、公開期間については追加も出来るようにしたほうがいいですわ」セレーネは自信満々である。まぁ、俺もそう思う。


「ああ、これの上映方法だけど。複製して各国へ配付することも出来るけど、同時配信でもいいかな? 各大陸の時差があるから時間帯を三つ用意して配信すればいい。同時配信ならいつものスタッフで出来から簡単だよ」

「おお、なるほど。今そのことを考えておりました。そうですな、それならば何とかなりそうです。各国にもそう伝えましょう」とマレス。


 もちろん、編集機を使えば複製は簡単に出来る。でも、配った挙句、再生のスタッフが用意できないなら中止になってしまう。それなら、いつもの通り配信したほうが早いし確実だ。まぁ、何度も繰り返すから配信するスタッフの増員は必要だと思うけど。


  *  *  *


 各国に配信された「妖精と南の島」は、見てない人がいないほどの大評判となった。上映期間も追加に追加をしたが足りなかった。整理券を発行するために名簿として戸籍を作ったら、あっという間に戸籍が完成してしまったとのこと。マレスほくほくである。

 まぁ、確かに無声映画でも大騒ぎになるところを、いきなりVRレベルだからな。さらに、女神様が作ってるし。熱狂しないほうが可笑しい。


 大好評になったのは中央大陸と南北大陸だけではなかった。当の南方諸国でも熱狂的に支持された。自分の島は知っていても他の島は知らないし、自分の島でも上空から見たことはないなど驚きの連続だからだ。自分たちの国が全世界に紹介された誇らしい気持ちもあるだろう。


 さらに、熱狂はこれだけに留まらなかった。これに続けてビデオ制作の一大ブームが巻き起こってしまった。


「私、ビデオ製作の為に生まれて来た気がするのよね~最近。何処かに、編集とか教えてくれる人いないかしら?」

「そうなのよ! あと、そもそも、綺麗な映像をどうやって撮るかも大事よね? どうやって勉強すればいいのかしら?」などという声が聞こえて来るのだった。


 勿論、新しい技術で作る映像やビデオ制作に関する学校などない。大体、絵画などでは師匠に弟子入りする世界だ。美大もないし、専門学校もない。ってことで、マレスに相談した。


「左様ですな。需要もありますし新たな学校として検討いたしましょう。魔法学園の話もありますし文芸学園として設立を考えてみましょう。出来れば、教育の女神様のご指導を頂ければと思います」

「そうだね。分かった。連絡しておく」

 話は、次から次へと発展していく。


 エリス様~っ、影響力半端ないっす。あとタイトルだけど、「妖精族」ですよ。「妖精」じゃないよ?


  *  *  *


 ビデオ製作熱があっても、必要な機材がなかった。


 ビデオ編集機の生産が需要に追い付かないのだ。神魔動飛行貨物船などの大物以外に、ドライヤーのような小さい魔道具工房もあるのだが、注文が殺到して工房レベルでは間に合わないと判明。編集機工場を設立することになった。

 同時に汎用の簡易編集機の設計も始まった。ビデオ製作を商売にするわけではないが、神魔フォンで撮った映像を個人で編集するためのものだ。これは自然な成り行きだろう。


 一方、上映場所として使われていた劇場だが、座席の位置などがパノラマ映像を投影するには不向きだったり、構造上不都合な点も多々あった。出来ればスクリーンに合わせて円形の空間が欲しいところだ。

 そこで、ビデオ上映を前提とした劇場の改築が進んだ。また、ビデオ上映を専門にするビデオ上映館という施設も登場した。


「わたくし、あの疑似浮遊装置付きのシアターに感動いたしましたわ!」

「まぁ、あの体感シアターですね? そんなに素晴らしいの?」

「ええ、音響効果も、こうズズズンって体に響きますのよ。びっくりしましたわ。あれは、癖になりますわね」

「まぁ、大変。でも、疑似浮遊?ってもっと凄いんでしょ?」

「ええ、話題の作品『私の飛空艇』を、あのシアターで見ると、本当に飛空艇に乗ったように感じられますのよ。わたしく、飛び上がりそうになりましたわ」

「まぁ、それでは、すぐに飛空艇の操縦が出来るようになるかも知れませんね!」

 案外、いけるかも。


 ちなみに、癖になるという音響設備は勿論魔法を使った重低音スピーカーである。これを床につけ、通常の魔法スピーカーを壁につけると、とんでもなくリアルな音響設備になってしまった。流行る筈だ。


 なんにしても、ビデオ作品そのものが新しく、これにまつわる環境も含めて手探りで作っていることもあり話題が尽きない。実験的なシアターも建てられて、タイアップした作品も作られているようで面白いことになっている。


 ちなみに戸籍登録と同時に作った住民票は魔法強化リングと同じ指輪形式になった。というか、強化リングで個人特定する部分は出来てるから、そのまま流用したわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る