第135話 聖果実ラームの秘密

 俺は、妖精族のミリィをセルー島から連れて来た責任上、ラームはどうしても育てる必要があると覚悟していた。それが、どうしたことか、上手く育ちすぎてラームが大量に生ってしまった。いや、さすがにハウス栽培を導入してるんだが、出来過ぎ。


 ハウスと言ってもビニールがないので真空膜フィールドを使ってみた。

 これなら熱は逃げないし変な害虫も入って来ない。真空膜ハウス栽培だ。嵐が来ても大丈夫。

 次に、ラームの栽培に絶対に必要なのは魔力場だ。これが普通は手に入らなかった訳だが、真空幕フィールドを張るために魔力を使ってるので十分だ。あとは、セルー島と同等の環境だが、これも普通は実現出来ない筈なのだが、もちろん疑似環境栽培キットでクリアした。


 こうして出来た大型セルー島BOXを王城の中庭に置いてみたのだが、これが上手くいってラームがガンガン育ち始めた。二か月もすると、収穫が始まり、ミリィが食べる量をはるかに超えるほどになった。


 出来たラームを見てミリィ大興奮!

「マスターやったね~っ。すご~いっ! だい好き~っ」こういう時の大好きは当てにならないのだが悪い気はしない。


 ラームが王城で採れるようになったので、ちょこちょこと食べるようになったのだが、ちょっと神力のコントロールがしやすくなったような気がした。


「これ、ラームの効果?」嫁達にも聞いてみた。

「確かに、ちょっと物を取り寄せるとき軽くなったような気がします」これはセシル。

「言われてみればそうかも? 微かに気が付く程度だけど?」ニーナにはあまり効かない?。

「細かい加工が楽になった気がする」とミルル。そうそう、そういう所だ。

「私も、部屋の家具の模様替えが楽になりましたわ」セレーネには絶大な効果あり? てか、そんなに模様替えするんだ?

「姉さまのいう通りです。お手伝いで疲れないようになりました」アルテミスにも効果あり? というか模様替えし過ぎ!

「確かにのぉ。ケーキを楽に運べるようになったのぉ」お前、それはヤバいだろう。どんだけ運んでるんだよ。あ、揺らさずに運べるからか。だよな。たぶん。信じてるぞ。


 そういや、元王女三人組は神力を控えていたから、神力制御は下手だったはず。それが、大きく改善されたのか? 神力制御をやりやすくする効果があるのか? 魔力はどうだろう?


  *  *  *


 免許は取れたものの制御がいまいち得意ではないH&Hズに試しにラームを食べてから魔力を使ってもらった。


「こ、これ凄いですマスター」とヒスイ。

「ヒスイさん、すご~い!」ミリィに誉められた。

「私も~、ほ~ら、すごーい」ヒラクもすいすい飛んでる。

「ヒラクさんも、凄いです~。もう私と一緒です~っ」ミリィと同等なら本物だろう。ラームはもともと魔法を使う妖精族のものだからな。魔法にも効くと思った。

「そうか、これは魔法の適性を向上させる効果があるってことか?」

「確かに、そのような効果があるようですね。しかも、効率も上がってるようですね」ポセリナも興味津々である。

「効率も?」そうなのか? まぁ、俺は神力沢山あるから、効率とか気にしないから気付かなかった。


「はい、なんだか以前より疲れない気がします」とヒスイ。

「そうそう。息切れしなくなった感じ」ヒラクも実感しているようだ。

「そか。強化リングとはちょっと違うのかな? 魔力を効率よく使ってるのかも?」

「そうですね。パワー自体は同じで長時間使えるような感じですね」とポセリナ。

「燃費が向上したのか! これは使えるな!」

「そうですね。これは、さらに研究させてもらいます。上手くすれば魔法がさらに使い易くなるでしょう」とポセリナ。

「まぁ、魔力の使いすぎで悪影響が出るかも知れないから制限は必要だろうけど、魔法使えなくて泣いてる人もいるからなぁ。少しでも適性が改善されたら喜ばれるよな?」

「またまた、新しい発見ですね!」一緒に見ていたネムも気になるようだ。ネムは免許を持っているが更にうまく使えるようになるかもしれないからな。

「魔法を使いやすくする効果が確認されたら、魔法ドリンクに始めから入れてしまいましょう!」ポセリナさんがやる気なので、すぐ出来るかも。とりあえず、みんなで効果を検証しよう。


ぽっ


 そこで、女神オリス登場。

「これは、とってもいい効果かも? ラーム一つ貰ってもいい?」オリスさんも、試してみたいようだ。

「勿論、沢山ありますから。大事な研究とか作業の時に使ってください」


ぽっ


 さらに女神クリスも登場。

「これは、ちょっと私も興味があるな。ひとつ貰おう」

「あれ、クリスさんもですか?」

「うん、これ神力制御も上手くなるんだよね? 細かい制御しやすくなるなら試したいな」

 確かに、研究者って細かい作業するから、「制御出来る」のと「制御しやすい」のとでは大違いだったりするよね?


ぽっぽっ


 女神カリス、女神キリスも登場。

「ふむ。これは興味深い効果ですね。とりあえずラーム貰いますね」と女神カリス。

「うん。これはいいかも。しかも、美味しいし」と女神キリス。

 この二人は南方諸島で食べているので、実はもうある程度体感してるのかも?

「ラームジュースを売ってもいいし必要な成分を抽出して長期保存とか出来たら便利だろうな」


 あれ? もしかして、これって神界でまた旋風巻き起こしちゃう?


ぽっぽっぽっぽっ


 女神研究者四人組に加えて、いつもの女神隊も集合した。


「たぶん、神界がまた大騒ぎするわね」と言いつつ一つ摘まむアリス。

「神化リングを付けるとパワーアップするけど、ラームはパワー同じで神力少な目か! 同じようで同じじゃないね!」俺も、やっと分かって来た。

「そうね、神化リングは感覚的にパワー十倍とかになるけど、ラームは感覚は同じで消費神力が小さいって感じ? しかも精度が上がるし。細かい作業をするときに便利ね。気にしないで使えるのがいい」女神キリスは凄く気に入ったようだ。

「そういう事なんだ! いいわね!」アリスもか。

「これは、便利ね。神化リングは要注意だけど。ラームは気安く使えるから」と言ってイリス様も一つ摘まむ。確かにそうですね。

「なるほど。我も分かったのである」とウリス様。何故か二つ摘まむ。何かする気か?

「私は、むしろこれを待ってた。これは凄い! リュウジ怖い!」エリス様は三つ摘まんだ。

「お疲れ様です」


 効果は分かったけど、原理は全然分からない。


 俺は、沢山あるラームをみんなに配った。今では毎日沢山採れるからな。王城で好きに食べられるように談話室に置くことにしよう。ついでにレポートも書いて貰おう。

 ってか、また神界評議会に呼び出されたりしないよな? 第二神って言ったよな?


  *  *  *


「なんじゃこれは!」談話室でラームを見つけたペリ君。まだいたの?

「こ、これは! こんな効果があるとは! 直ぐ教えて欲しいのじゃ!」

「そうだよ。ペリ君の言う通りだよ」ピステルも、まだいたんだ。

「そうじゃの。テル君もそう思うじゃろ?」

「テル君……。はい」

「いや、これはまだ効果が実証されてないんですよ。王様たちに試してもらうのは、まだちょっとお勧めしません。危険かもしれませんよ?」

「そんなの構わんのじゃ!」

「そうだよ! 構わないよ! 飛べることが大事だよ!」そうなんだ。いや、王妃様怒ると思うけど?

「とりあえず、ラーム食べて魔法教習受けてみるのじゃ」

「やりましょう!」


 大丈夫かなぁ。そういえば、自分たちの鉢植えを早々に諦めて俺に渡してきたので、その後食べてないから効果は知らない筈だな。


 このあと王様たちは魔法免許に受かって歓喜の雄たけびをあげていた。あ、でも俺が横から言って仮免にして貰った。ラームの効果は実証されたけど、まだ有効期間とか安定性が不明だし、魔法ドリンクとして完成するまではドーピング扱いだ。

 それにしても、ラーム入り魔法ドリンクが完成すれば、全員とはいかないまでも、かなりの人間が魔法を使えるようにるだろう。


 こうしてラームの隠された有用性が明らかになり、大量の需要も見込まれた。これを受けて、俺は農場に大きなラーム園を作ることにした。嵐にも強い巨大な真空膜ハウスになる予定だ。これでラームを切らす心配はなくなるだろう。


  *  *  *


「これ美味しいね」ある日、ミリィが俺のおやつに手を出した。

「おいおい、お前、そんなの食べても大丈夫なのか?」妖精族がラーム以外のものを食べて大丈夫なんだろうか?

「平気だよ。ラームが一番好きだけど、他のものもおいしいよ」

「そうなのか? なんだ、他のものも食べられたのか」

「うん。ラームは必要だけど。ラームだけじゃないよ?」

「え? いままで、食べてなくても大丈夫だったのか?」

「ときどき食べてたよ?」

「あ、ちょっと一口って言ってた、あれか?」

「そう。マスターには一口でも、私にはおなか一杯だから」いや、俺には一口にも見えなかったけど? 味見してるだけかと思った。

「そうか、悪かった。これからは、ちゃんと用意するよ」

「えっ? でも、あれ以上は要らないよ?」

 確かに。

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