第131話 南方諸国へ-「三島同盟」-
次の訪問先であるプロソン島に向けて出発する前に、ちょっと問題が起こった。
鉢植えのラームに異変が生じたのだ。
「わしの、可愛いラームが!」
元気のなくなった自分の鉢を見てペリ君が嘆く。
「ああ、砂漠でこれを食べる日を夢見ていたのに」
こちらはピステル。そんな具体的な日を思い描いてたのか。
「やはり、日頃の行いが出ましたか?」
ネムの鉢は元気に育ってる。何気にトゲがないか?
「ワタシのは大丈夫ね!」
ミリィのも元気だ。
「俺のも、まずまずってところだな」
「どうして? 何がいけないの?」
アリスの鉢は元気がない。だが、アリスの鉢はともかく、豊穣の女神イリス様の鉢まで元気がないのは腑に落ちない。
「変ね?」
ここは、やっぱあれだろう!
「久々に『名探偵オレ』の登場か?」
「そういうのいいから!」
自分の鉢も元気悪いので、美鈴ご立腹。
「まずは現場百回……」
「魔法共生菌じゃない?」とネム。
いきなり解決か? ネム、ワト〇ン君じゃなかったの?
「どゆこと?」
「ほら、上手くいってる人を見ると、ミリィは魔法共生菌と共生してるし、私は無害化魔法共生菌を持ち歩いてる。リュウジはミリィを肩に乗せてる!」
ネムが推論を語った。なるほど、確かに日頃の行いですね。
「それよっ!」
美鈴も飛びつく。
「おおおっ。確かに、それなら納得じゃ!」納得のペリ君。
「そうだよ!」とテル君。
「確かに」ナエル王は確信した模様。
「じゃ、対策は?」と美鈴。
「無害化魔法共生菌をボトルに入れて近くに置くとか?」とネムが提案する。
「やってみましょう!」と美鈴。
さっそくネムに散布用の無害化魔法共生菌を小分けして貰った。
まぁ、魔法共生菌の被害が出ていないので少量散布すれば十分だから問題ない。
翌朝、元気になったラームの鉢を携えて、俺達は三島同盟の島に向かうのだった。
どうも、ラームは妖精族と魔法共生菌との三者で依存関係だったようだ。どれか一つが無くても上手くいかない。そりゃ、失敗するわな。
* * *
モザ島から南に五百キロメートルほど飛ぶと『三島』のうちの二島、プロソン島とナス島が見えてきた。
さらにその先にはミゼル島がある。この三島は互いの距離が三十キロメートルと近く、『三島同盟』と名乗ってはいるが盟主を首長の持ち回りで選んでいて殆ど一つの国らしい。
俺達はまず、モザ島とほぼ同じ大きさで最大の島、プロソン島に降り立った。
「妖精の国の次は、おとぎの国かな?」
もう、代表役を諦めたのかピステルはそんなことを口走った。
「おとぎの国ではないですが、キノコの国とは言えますな」
ミモザ国王が律儀に答えてくれた。
「キノコが沢山採れるんですか?」
「そうではなくて、家がキノコのような形なのです」
おとぎの国は、別に特別な人が住んでるわけでは無かった。亜熱帯で高床式なので、家は全体に高くなるのだが、屋根の形がキノコっぽいとのこと。
いつものように、首都の周りを一周してから、少し離れた広場に着陸した。
着陸して待っていたら、代表者と思われる十名ほどの一団がやって来た。
キノコの家から迎えに来たのは美男美女ばかりだった。というかアリスちゃんぽい人々だった。おとぎの国はアリスちゃんだらけ。男も女もアリスちゃん。どうなのこれ?
ー 何よそれ。
ー だって、そうじゃん。
ー まぁね。
要するに魔法共生菌の悪影響がない状態で健美パラメータを変更されたわけだが、元々ここの人は十分健康だったので単純にアリスに似る効果だけが働いたようだ。
まぁ、あくまでも俺の印象だ。妖精族ほど影響がある訳ではないようだ。ただ、セルー島やモザ島に比べて顕著なのは、この島のほうが健康だったということだろうか? 何か健康の秘訣のようなものがあるんだろうか?
「凄いわね。みんな綺麗な人ばかりね」
「アリスが言うと、自画自賛になっちゃうよな」
「そうだけど」
「ほんとに。ただ、個性がないんじゃない?」と美鈴。
まぁ、美鈴は個性的な美人だからな。
「ふむ。あまり強そうではないな」とミゼール。
いや、それ要らないだろ? あ、男のほうか? 女もか?
ー そういえば、健美パラメータをいじった影響で今、美男美女でも、子供たちは元に戻るよね?
ー あ、そうね。
ー それって、どうなの? 気付くの?
ー たぶん、気付かないと思う。というか、個性の内になると思う。
ー ならいいか。
代表者の一団に説明するためにミモザ国王が先に話に行った。
代表者の目が、俺の肩の上のミリィ、アリスといって最後に俺を見る。もう、驚愕の三段活用である。というか全員跪いた。
やっぱり、こうなるよな。
「わたくしプロソン島の首長コモロ・プロソンと申します。こ、この度は、私どもの島をご訪問いただき、まことにありがとうございます」
ミモザ国王を連れて来たのって失敗だったかな?
ちょっと、やりにくい。が、もう遅い。でも、そういえば、この南方諸国のセルー島には百年前に神様が降臨してると言うから、すんなり信じるのも当然か。隠しててもすぐにバレた可能性が高いし、これで良いのかも?
* * *
首長コモロ・プロソンはプロソン島の首長であり、三島同盟の盟主でもあった。
訪問理由を説明すると、すぐに了承された。まぁ、神様が来てるのに難癖付けるわけないんだけど。
魔法共生菌は、ここでも問題になっていなかったが、後顧の憂いを断つと感謝された。ただ、三島の同盟なので、三島を飛行船で周ってそれぞれの首長の了解をとってから、正式に大陸連絡評議会加盟セレモニーを行うことになった。
ここまではそつなく進んだのだが、この後実際にコモロ首長と他の二島を巡り大陸連絡評議会加盟セレモニーを行ってみると、いつも以上の大騒ぎになってしまった。
三島で示し合わせてセレモニーは同時に開催したのだが、三島のカメラで撮った映像を一つに纏めたせいか良く分からない熱狂が生まれていた。
たぶん、何を見せられたのか分かってないし、神様降臨とか言ってたので神託と勘違いしている可能性すらある。やばいかな?
* * *
歓迎の席では、初めての試みとして他国で撮った映像を披露してみた。
出立前に急いで撮ったものなので神聖アリス教国と聖アリステリアス王国の街の様子くらいなのが残念だが、出発のときのパノラマ映像には中央大陸と南北大陸の映像なども入っていたし雰囲気は伝わったと思う。
おまけに来る途中の海底探検の映像もあった。
「なんと、素晴らしい。夢のような世界ですな」とコモロ首長。
「ほんとうに、これほど多くの国があるのですね。これからが、とても楽しみです」
ペルーナ・ナス女首長が素直な感想を言う。
「ええ、本当に。それに、交易が始まれば、この世界を旅することも出来るのですね?」
カユリ・ミゼル女首長は既に未来の自分を想像しているようだ。この人、ちょっと気になるな。
* * *
翌日、二人の首長をそれぞれの島へ送り届けるついでに、それぞれの島に人工港を作った。
と言っても、この三島の場合は港はあったので改良する程度だった。
その後、さらに飛行艇で海底探検サービスもした。
「きゃ~っ、すご~い。きれ~い」
一番喜んでいるのはミリィだった。
まぁ、そりゃそうか。妖精の森の外には出なかった筈だもんな。色んな魚を見つけては展望室の窓を飛び回ってる。
「こ、これが、海底探検ですか。なんとまぁ、美しい。実際に自分で見るのはまた格別ですな」とミモザ国王。
「まさにおとぎの国のお話みたい」
おとぎの国のペルーナ・ナス女首長におとぎの国認定されてしまった。
「おお、あのように堤防を築かれたのですね。海中から見るとまた違いますね」
俺達が作った防波堤を海の中から見たカユリ・ミゼル女首長の感想だ。
なかなか有能そうな首長発見。
「こ、これは。おお、旨そうな魚が」
コモロ首長は食い気ですか。
ちなみに、元気を回復した聖果実ラームは、その後も問題無く育っている。
飛行船内部は南国の気候とは全く違う環境なのに元気に育っているので、ラームは意外と育て易い植物なのかも知れないという嬉しい発見もあった。まぁ、果実が生るかどうかは分からないが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます