第132話 南方諸国へ-「大アマデ島」-

 三島同盟のプロソン島を発進して東へ向かい、海上を三百キロメートルほど飛ぶとその島は現れた。他の南方諸国の島々から一番離れていて、一番大きな島、アマデ島である。アマデ島もそのままアマデ国であるが、島の西岸にある首都はラスと言うらしい。


「さすがに、この地まで来ることはないので殆どアマデの事は伝わっておりません」とミモザ王。


 そう言えば、なんでこの人、付いて来たんだろ? モザに送ろうとしたら一緒に来たいと言ったのだ。やはり好奇心が勝ってるのか? まぁ、こちらとしてもモザに戻るよりそのままのほうが楽なんだけど。


「言い伝えによりますと、彼の地は騎馬民族が支配しているとのことで、昔に伝わったアマデの絵画を見ましても勇猛果敢な巨人族として描かれております。交渉はなるべく慎重にされるのがよろしいかと」


 どうも、巨人族を見たかったようだ。でも、殆ど孤島の民族が勇猛果敢に何と戦っていたのかは謎だ。まぁ、一応心づもりだけはしておくか。俺の世界でも昔は水不足で村同士が諍いを起こすなんてよくある話だったらしいしな。


 飛行船は首都であるラスと思しき街をゆっくりと一回りしたあと、街の外の荒野に降りて様子をみることにした。


  *  *  *


 着陸してしばらくすると、噂通りに土煙を上げながら騎馬民族の一団がやって来た。確かにデカい! この島は巨人族の島なのか?


「いや、巨人と言うか……」確かにデカいのだが、それは馬に対してデカいだけだった。ってか、馬が小さい。馬、かわいい。


 島の真ん中に三千メートル級の山がデンと居座っているので、山の周りを素早く移動するためには馬は必須なのだろうが、なんでロバなんだよ! いや、正確にはロバではない。ロバよりしっかりした体躯をしているようだ。でも小さい。


「おのおのがた、何処よりまいられた?」代表者らしき人物が前に出て言った。江戸時代っぽい。ってか、分けわからん島だ。

「ここよりはるか彼方の地、中央大陸より参った」とピステル。

「面白い話し方をしますね」

「お前に合わせたんだよ」

「あれは冗談です」とりあえず、悪い奴等ではないらしい。ただ、巨人族ではなく変人族だった。荒くれ者って設定どこ行った。


「我ら、ラス一族は遥か昔からこのアマデの守護者としてこの地を治めております」

 はい。

「この馬を駆ってアマデの隅々まで走り回り、島を一つとすることが我らの務め」


 この男、ギル・ラス首長というらしい。名前はギルなどと強面なんだが、色白のイケメンで、いまいち凄味はない。まぁ、これも魔法共生菌が無害なせいでアリス化しちゃったんだろうけど、こっち方面の人達がアリス化しちゃうと目も当てられないな。あ~、まぁいいか。


 そんな感じで話していたギル首長だが、ふと俺の肩に目を止める……しばし、逡巡。


「もしや、そなたのその肩に乗っているのは、言い伝えにある妖精ではあるまいか? セルー島の妖精では?」

「あ、はい。そうですね。ミリィ達のことを御存じですか?」ミリィを見ると、ミリィは恥ずかしそうに笑った。

「おおお。まこと……」そう言ったところで、俺の隣のアリスを見る。おお、二段目まで行ったぞ。


「気が付いたみたいね」そんなことを言いながら、アリスは俺に引っ付いて見せる。おい。俺は恋人でも何でもないぞ?

「おおおおっ」三段活用来た~~っ!

 ギルさん、いきなりひれ伏してしまった。なんで、アリスが女神だって分かったのかな?


ー どうも、美鈴のメッセージを受け取った人がいたみたい。絵があるのよ。

ー ここまで伝わってたのか。凄いな。てか、南方諸国ではバレバレだな。


「この度は、我らアマデをご訪問いただき、まことにありがとうございます。この上ない喜びに御座います」


 まぁ、いい感じの人達で良かったよ。


 そんなわけで、訪問理由についても問題無く、簡単に話がついてしまった。ここも魔法共生菌の被害はないが、念のため無害化魔法共生菌の散布も希望するとのこと。

 俺達はいつものように大陸連絡評議会加盟セレモニーを実施した。ここでも、七人の侍女たちの無害化魔法共生菌散布飛行は熱狂的な盛り上がりを見せたのだった。うん、しょうがないよな。ごめん。


  *  *  *


 セレモニー後、日もまだ高いので島を案内しようと言われたのだが、それならといつものように飛行艇を使おうとしたのだが……。


「婿殿、この地の馬の街道は実に広くて走り易そうじゃ。一つ神魔動乗用車で走らせてやってくれないか?」なんて言い出したペリ君。ひさびさの発言だと思ったら、それかい。近衛神魔動車隊の出番がないので腐ってるんだろうけど自分も乗りたいようだ。


「それは、どのようなものですか?」とギル首長。

「ああ、ええと、人が乗る魔道具で、っていうか見たほうが早いですね。じゃあ、近衛神魔動車隊に出てもらって」


 待っていたのか、貨物のドアを開けると、颯爽と近衛神魔動車隊が出て来た。

「な、なんと奇天烈な」なんか、言ってるけど? 表現がいちいち面白い。ま、孤島だし近衛兵なんて見たことないよな?


 そんなことを言ってるうちに、近衛神魔動車隊は調子に乗ってビュンビュン走り出した。

「こ、これは素晴らしい。あのような早い乗り物は見たことがありません」はい、うちらの中では超遅いんですけどね。


 舗装されていないが広い道で多少凹凸があってもジャンプして超えてしまう。

「おおおおっ。なんですかあれは~!」

 まぁ、そうなるわな。見ると眼をランランと輝かせている。あ、ペリ君の仲間発見!


「如何かな? 実はわしも持っておるのじゃ」自慢げに語るペリ君。

「あ、あの神魔動乗用車をお持ちですか?」とギル首長。

「見たいかのぉ?」

「是非に」

「仕方ないのぉ」仕方ないのは、あんたのほうだ。ヒュペリオン王は自慢のカスタムモデルを持ち出して、颯爽と乗った。ってか、この南方諸国では初めてなので嬉しさ爆発して満面の笑み。

 キュイーンっという神魔動モーターの音を響かせて走り始めた。なんだか、無駄に音が大きい気がするが?


 ひとしきり走り回ると戻って来て言った。

「どうじゃ?」

「おおおおおっ。ヒュペリオン王。ぜひ、ぜひ私にも乗せてくだされ」

「よかろう。ちょっとだけじゃぞ」

「はい。どうかお願いします!」いつの間にかギル・ラス首長はペリ君の子分みたいになってるし。


 見てたら、ただ走るだけでなく、Aボタン飛翔装置を繰り返し使ってる。そういえば、近衛神魔動車隊の車体を改造したとき、追加したんだよなこの装置。あれ、最大で五分も飛べるんだよ。もう、車じゃないだろ。飛んだり走ったりで分けわからん。

 てか、島を案内してくれるんじゃな無かったのかよ。


  *  *  *


 すっかり意気投合したペリ君とギル君。終いには、俺に港を作ってやれと言い出した。


「このまま孤島では可哀相じゃ。飛行船が来るにしても、この南方諸国同士で交流も必要じゃろう?」まぁ、そうだけど。

「私からも、お願いします。ぜひ、交易したい」ミモザ国王からもお願いされては仕方ないな。

「いいでしょう。じゃ、ちょっと作りますか」

「おお、かたじけない」

 なんか、自由な言語ですね。


 俺と美鈴、七人の侍女隊で作ろうと思ったら、女神様が作ると言い出した。飽きたの?


「なんと、女神様が我らのために力を使ってくださるのですか?」

 もういいから、さっさと作っちゃってください。


ー 私たちも、たまには練習しないとね。

ー 無理しなくていいからな。

ー わかってる。


 この辺りの海は、岩場ではなく白い砂地なのだが、これを掬い上げてから溶かしてブロックを作り防波堤を作っていった。白い砂から作っているので真っ白な防波堤になり、綺麗だ。


「おお、さすがに女神様の作る港は美しい。ありがとうございます」とギル首長、感激しきり。


 とりあえず四人顕現してるので直ぐに出来てしまった。ただ、口では平静を保っているようだったが、汗流しっぱなし。どうも、女神様はアリス一人と思っていたらしい。それが、みんな女神様らしいと気付いたようだ。もう五段活用しちゃってるに違いない。まぁ、侍女隊は違うんだけど、同じことは出来るからいちいち訂正しないことにした。


  *  *  *


 その夜の歓迎の宴は、妙な熱気に包まれていた。


「ギル殿、わしは普通の人間じゃぞ。安心召されよ」とヒュペリオン王。

「おお、まことか?」

「俺も、普通の人間ですよ」ピステルもギルを元気づける。

「私も、人間です。気持ちは分かりますよ。私も、このことを知ってからまだ日も浅いのです」ナエル王は来る途中だったからな。

「おお、皆さん。良かった。安心しました」

「私も、驚きの連続ですよ」ミモザ王だ。

「ミモザ殿、これからは交流も増えるでしょう。どうぞ、良しなに」

「こちらこそ」

 人間の王族同士が仲良くなるのはいいことだな。


 まぁ、ショックを受けたままなのも可哀相なので、この南方諸国の派遣で撮ったそれぞれの島の映像を見せた。孤島だったアマデが、これから交流する相手だしね。

 ただ、中央大陸の映像も見せたら、更に驚いていたけど。


 とりあえず、この派遣も大成功だな。

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