第130話 南方諸国へ-「モザ島」-

 翌日、隣の島「モザ」に渡った。

 ここでも、ミリィとアリスの効果は絶大だった。っていうか、一発でバレる。


「もう、ミリィとアリスを代表にしようよ」ピステルが僻んでるし。

「まぁ、まぁ」ナエル王が宥めていた。

 そういえば、ペリ君が静かだなと思っていたら、見ると何か別のことを考えているようだった。

「そうじゃ、モザ島を飛行艇で飛ぶのはどうじゃろう?」ぱっと明るい顔になって言った。名案を思い付いたという顔だ。相変わらず乗り物関係だけど、悪くないかも。この島は中央に高い山があり、全体を見渡しにくいのだ。

「おお、上空からご覧になるのですか? それでは私がご説明いたしましょう」モザ王国のミモザ国王がその気になってくれた。


ん? もしかして、ミが名前でモザが姓? ミ・モザ? セルー王国の国王マセルって、名前はマなのか? 姓がセルなのか?


ー そうみたいね。というか、姓と合わせて名前にするみたいね。


 アリスがそっと教えてくれた。なるほど。名前の一部にするんだ。一文字だから珍しいが、組み合わせることはネーミングとしては可笑しくない。これだと、何世とか言ってないだけで同じ名前を継承してるのかも知れない。


  *  *  *


 ともかく、ミモザ国王を伴って飛行艇に乗り移った。「おお、天馬に……」などと感激している。あ、天馬一号はこれじゃないから。っていうか、マッセル国王と反応が似てる。


 神魔動飛行艇は周囲の驚愕の声とともに上昇した。今日のパイロットはミゼールだ。首都モザは島の東岸中央に位置している。対岸にセルー島があるわけだが五十キロほど離れている。

 ここから発進して、まずはモザ島を北上した。


「見ての通り、モザは港としてはあまり使えないのが難点です」

確かにモザ島の東岸は、ほぼ直線の海岸なのでちょっとした小舟を係留するにも苦労しそうだ。島が接近していて海流が緩やかなので、なんとか使えているというところだ。


 海岸線を三百キロメートルほど北上すると最北端に到達する。ここの対岸が、丁度セルー島の首都ラースになる。ラースは小さいながらも湾になっているのだが、こちらは残念ながら断崖絶壁だった。


 最北端をぐるっと回って今度は西側を南下する。東西は最大で四百キロメートルほどの縦長の島で中央に山が連なっていた。

「こちらは穀倉地帯です。水が豊富なので、穀物以外にも多彩な作物を作っています」

確かに、大河ではないがいくつか川が見えた。海までの距離は短いので流れは速いだろうな。

「ただ、水が豊富なのはいいのですが嵐もまた多く水害も多いのが難点でして」

 なるほど。この辺りはスコールが多いのだろうが台風のような嵐もあるのだろう。

 セルー島と同等の大きさのモザ島だが、セルー島とは半分ほど南にずれているので最南端は熱帯というより亜熱帯になっているようだ。最南端まで来れば、作物もだいぶ違っているだろう。


「御覧の通り、この国の利点は地形であり、難点もまた地形という訳です」

 なるほど。生産性はあるが生産した物を売れない環境なのだ。近くの島に売れるだけでも景気が良くなるだろう。さらに南には別の島があるが、百キロメートル以上離れているので、せめてセルー島と交易をしたいところだろう。


  *  *  *


 モザ島の遊覧飛行から戻ると、すぐに大陸連絡評議会加盟のセレモニーとなった。承認するというか、すべて女神様のいう通りという感じですんなり話は終わった。そのため、評議会加盟宣言と侍女隊のデモンストレーションが終わると首都モザはお祭り騒ぎになった。もともと黒青病の被害は無かったし気楽なものだ。というか、女神様降臨だからな。騒がないほうが可笑しい。


「それでは、これからは貴国から飛行船が定期的に来てくださると言うことですか?」夕刻、歓迎の宴でミモザ国王が驚いた様子で言った。

「はい、まだ準備段階ですがぜひ交易したいと考えています」俺は、テーブルに置かれた南国フルーツの山盛りを眺めながら言った。セルー島と同じものもあるが、ちょっと柑橘類が多いようだ。それはそれでいい。

「おお、素晴らしい。ありがとうございます。これも、女神様の思し召し。あ、おいででしたね。まさに、女神様の御威光ここに極まれりでしょうか」


 うん、まぁ、そうなんだけど。こちらの意見を丸のみにしちゃうのは問題だな。もう、話し合いとかの状況じゃないからなぁ。逆にこっちが責任重大になる。調べるの大変なんだから、何か事情があるなら話してもらわないと。


「素直な気持ちを話されるといいと思いますよ。そこを含めて交易相手と調整することになります」

「おお、そうですね。私どもの気づかいなど所詮は人の考えの内、初めから全て打ち明けるべきなのでしょうね。ただ、私たちの至らぬことは、恥じ入るばかりですが」

 ああ、なるほど。恥ずかしくて言えないってこともあるのか。そういえば、「難点も地形」と言っていたが。


「やはり、港が最大の懸案事項でしょうか?」

「はい、そうですね。港さえあればと、いつも思っておりますが、こればかりは……」

 他の大陸と交易を始めるにしても、セルー島との交易を増やして全体にレベルアップしておいて貰いたいものだ。

「作りましょうか?」

「はい?」

「港を作りましょう。モザの前の海でいいでしょうか?」国王、ちょっと逡巡したようだが意を決して言った。

「そのような、お願いをしてもよろしいのでしょうか?」

「いいですよ。こちらへ来る前にもヨセムという街で港を作ってきました。まぁ、海流の関係もあるので上手くいくか分かりませんが」

「おおおおお。あがりがとうございます」国王、伏してしまいました。それだけ大きい課題だったんだな。

「大丈夫ですよ。大した手間じゃありません。明日、さっそく作りましょう」と言って俺は笑った。


  *  *  *


 翌日、俺たちは首都モザの東岸に立っていた。

 モザの前の海岸は断崖ではないがすぐに深くなるようだった。深くとは言っても海溝でもないし、たかが知れているのだが商船運航には都合がいい深さだ。これなら防波堤だけあれば底を攫う必要もないだろう。俺はさっそく近くに転がる岩を集めて浮かし、溶かしてブロックを作った。


「「「「「「「「「「おおおおっ」」」」」」」」」」


 岸辺には、多くの住民が期待を込めて集まって来ていたが、思わずどよめきが起こった。なんか、見世物っぽいな。


 まぁ、中止するのも悪いので、とっとと作ってしまおう。ブロックの置き場所を平たく攫い、岩を集めて溶かしブロックに成形して、設置する。ポンポンポン。

 よく考えたら、俺だけがやることないんだよな~っ。ちらっと美鈴を見る。


「あ、そうだね。そのやり方でいいんだよね」やっと気が付いたようで、反対側の防波堤を作り始めた。ミゼールたち侍女隊も参加した。神化リング持ってる人は余裕なんだよ。ポポポポポン。


「「「「「「「「「「うぁあああああっ」」」」」」」」」」


 また違ったどよめきが起こる。「この人たち全員ただ者ではない」という驚き。そう、可愛いだけじゃないんです、うちの嫁。


「す、すご~いっ。マスターの妃さん達って凄いんだね~っ」肩の上でミリィが驚いている。

「ああ、そうか。まだ説明してないけど、あいつら全員俺の使徒だから」

「そうなんだ。私も頑張れば出来る?」

「あ~、まぁ、出来なくもないと思うけど魔力切れ起こすかも。後で教えるから、今日は様子を見てろ」

「うんっ」素直な妖精で良かった。あ、違う。素直な妖精族で良かった。


 防波堤の港は、あっという間に出来た。岸がちょっと高めだったので、船着き場と降りる階段も石造りで作る。


「本当に何から何まで、なんとお礼を申し上げてよいか分かりません。この御恩、一生忘れません」ミモザ王、感激頻り。特効薬は必要無かった分こっちが感謝された。これで、セルー島との交易も活発になるわけだしな。


「これより、南方の島に向かわれるのですね。もし、よろしければ私もお供いたしましょうか?」とミモザ王。

「それは助かります。ではよろしく」ピステルは、肩の荷が下りたという顔。


 若いので好奇心旺盛なようだ。ミモザ王が、一緒ならこの先も話が早いだろう。


  *  *  *


 ミモザ王が同行することなったので準備もあり、その日はモザ島に留まることになった。

 夕食も終わり。最後にお茶を飲んで寛いでいた。


「ピステル殿は、普通の人なのですね」と安心したように言うミモザ王。

「はい。普通の人間ですよ」とピステル。

「私も、普通の人間ですぞ」とナエル王。

「おお、左様ですか。さぞ大変なのでしょうね」とミモザ王。

「いえ、まぁ、驚くことばかりで楽しいですよ。それに、お陰様で国が急速に繁栄しています」とピステル。

「それについては、異存ありませんな。感謝しきれません」とナエル王。

「このような天翔ける神々の神殿に付き従うのは簡単なことではないでしょう。お察しします」とミモザ王。そうか。天翔ける神殿に付き従ってるように見えるのか。

「なるほど。長くリュウジ殿と一緒にいるために、あたりまえになっていましたが、確かにこの飛行船。普通じゃないですからね」ピステルは改めてそう思った。

「左様。海にも潜ったそうだからな」とナエル王。

「な、なんと。それは真か? この神殿は意のままに何処へなりと行けるのですか?」

「はい。私は、一緒に海に潜りました。海の中で獲った魚を食べましたが、格別です」ピステル、なぜか自慢げ。

「ほう」とナエル王。

「……」ミモザ王はちょっと違う想像をしているかも知れない。

「あ、先ほど一緒に乗った飛行艇も海に潜れますよ」とピステル。

「そうそう。それは私も乗せて貰いました。いや、あの海底探検は驚異の体験でした。信じられないことの連続で……」いや、そっちの話はミモザ王には言えないでしょ?

「……」

「!!!」

「???」


 三者三様の思いで言葉を失う人たち。共に心ここにあらず。ピステル、虐めは良くないよ。


 ともかく、王族の友情が生まれたようである。

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