第122話 カクテルの女神様?

 香水を作るために蒸留器を作ったが、酒を造るためにも作ることになった。こっちはかなり大型になるので、少々躊躇っていたのだが一部で強く要請する人間がいて踏み切ったのだ。なにしろ香水とは量が違うからな。いや、のんべがいるからじゃなくて香水とは基本的に必要な量が違う。まぁ、のんべがいるからでも間違ってはいない。

 ともかく、金属の精錬が盛んになったので大型でも作れるのが幸いした。


 そういうわけで、酒の女神サリスさんの指導の下、蒸留酒の製造が始まった。この世界にある醸造酒から蒸留酒を作ろうという訳だ。

 当面、作るのはワインを蒸留したブランデーとビールを蒸留したウィスキーだ。

 ワインはぶどうを潰した酒なのでほぼ同じ物なのだが、ビールはちょっと違うようだ。麦芽を使うところは同じだが同時に漬け込む植物がホップとは微妙に違うらしい。まぁ、酵母菌も違うのかも知れない。

 それと、ステル王国から持ち帰った米の酒を使って試しに焼酎も作ってみた。輸入して作ることも出来るが、ヒスイに教えたらステル王国で試してみたいと言っていたので任せることにする。香水でも蒸留器を使うから、都合がいいかも知れない。


 それはともかく、俺は酒については全くの素人なので、全て女神様にお任せなのだが、セシルが女神サリスに付いて回ってお世話してる。そういえば、教会って地球でもリキュールとか作ってたよな? 相性がいいのかな?


  *  *  *


 そんなこんなで、蒸留酒が出来たと連絡が入った。試飲会に呼ばれたのだ。早すぎるだろうと思ったら、単に蒸留しただけだそうだ。出来立てだから、これから熟成させるんだろうけど、そのまま飲む酒もあるらしいので味見をさせたいらしい。


「さすがに、出来立てばかりだと、みんな透明だね」

「あら、詳しいわね。そうなのよ。蒸留酒は熟成する過程で色が付くのよね」と女神サリス自ら解説してくれる。

「出来立てだと、殆どはアルコールと水ですからね。あと少しの香り成分」そんなことを言いながら、渡されたコップに口を付ける。

「うわっ。やっぱり強いなぁ」俺は酒は弱いので軽く口を付けただけだが、口の中にアルコールがわっと広がった。

「くぅ~っ、これじゃ~っ!」あ、約一名感動してる奴発見。

「は~~~っ、これは凄い!」ひーはーいいながら喜んでる奴、一人追加。

「テルちゃんどうじゃ?」

「テルちゃん?」

「テル君でも、テルちゃんでもいいじゃろう?」

「じゃ、ペリちゃんでいいの?」

「そ、それは、帰ってからよ~く考えるべきじゃな!」

「じゃ、ペリ君で。これは凄いよ」

「そうじゃろう? 婿殿、また新しい世界を開いたのじゃな!」

『また』って何でしょう? てか、開いたの女神様だし。

「うん、ペリちゃんの言う通りだよ!」

「だから、ペリちゃんじゃなかろ~っ?」

「じゃ、テル君にしてよ」

「仕方ないのぉ」

「おおお、こっちの酒も凄いのじゃ!」

「は~っ、ペリちゃんのいう通りだよ」

 もう、好きにしろよ。


 とりあえず、ビールっぽいものからウィスキーっぽいものが、ワインからはブランデーっぽいものが出来た。どっちも、出来たばかりで強烈だ。


「もうちょっと弱いのはないんですか?」と聞いてみた。

「あら、リュウジさんには強いかしら?」

「そうですね。水割りにしようかな」

「リュウジ殿、水割りとはなんじゃ?」とペリ君。

「えっ? あ、強い酒に水を加えて飲み易くすることです。ジュースで割ってもおいしいですよ」

「そう言うと思って用意してありますよ。みんな強いからね」さすが酒の女神様ですね!

「そうか、強い酒ばかりだから、カクテルが出来るように用意したんですね?」

「そう。私はどっちかって言うと、このカクテルの女神かな?」

「あ、そうなんだ」そうか、酒の飲み方も色々あるからね。神様もそれぞれいるわけだ。


「これいいわね!」強い酒ばかりで敬遠ぎみだったニーナはこっちの方がいいらしい。

「ほんとだね~、おいしい~っ」ミルルにも好評なようだ。

「そうですね。私、こういうお酒の飲み方があるなんて驚きました」セシルは相当気に入ったみたいだ。

「わたくしも、これは気に入りましたわ」とセレーネ。

「ええ、姉さま、私もこれ好きです」とアルテミス。

「うむ。わらわも気に入ったのじゃ!」とリリー。

「お前のそれ、ただのジュースだから」

「バレたのじゃ」

 よしよし! まぁ、俺も限りなくジュースだけどな。


 これだけ騒ぐと、ただののんべも興味が出るらしい。

「ほう。これはこれでいいもんじゃのぉ」とジュースを少し入れたペリ君。

「なるほど。出来立ての強い酒も、こうして飲めばいいんですね!」とテル君。

「自分の好みに出来るからのぉ」

「まさしく、その通りですね!」

「いや、二人ともほとんど原酒だけど」と突っ込む俺。

「それでもじゃ」

「それでもだよ」そうですか。


 これは、これからカクテルも流行るかも。あ、そういやシェーカーとか作ったほうがいいのか?

 俺達は、女神サリスが作ってくれたカクテルを飲んではカクテル談義を始めるのだった。


 ちなみに、ペリ君とテル君は蒸留酒の試飲会と聞いてわざわざやって来た。まぁ、飛行船に乗るだけだけど、いいんだろうか? テイアさんはともかく、ピアスさんは泣いてる気がするんだよなぁ。まぁ、知らせた俺の責任もあるからなぁ。後でピアスさんに何か贈ろうか? あぁ、でも他人の奥さんに下手に気づかいするとまずいか。

 あ、そうだ。いいこと思い付いた。


「テル君」

「て、テル君……」まだ、諦めてないの?

「ピアス妃とウチの女神湯に入りなよ」

「うん? それは有難いが、何かあるのか?」

「そう。あそこは豊穣の女神イリス様が祝福してるんだよ」

「おお、本当か? それは有難い。では、直ぐに呼び寄せる!」


 これで何とかなる……かな?


  *  *  *


 酒の女神様サリスさんの指導により酒蔵が用意され、酒樽が置かれた。気付いたらいつの間にかネムも参加していた。薬の製造とかと近いものがあるのか? 蒸留酒造りとしてはこれからが本番だと思う。


「ネムは、お酒が好きなだけね」とセシル。

「ちょ、セシルさん!」そうなんだ。

「ち、違います。あ、違いませんけど。セシルのお手伝いがしたかったのも本当です」とネム。

「うん、セシルとお酒と両方好きなのは良く分かった」

「え~っ?」

「ふふふっ」

「別に、いいと思うけど?」

「いいんでしょうか?」とネム。

「えっ?」

「えっ?」

「???」


 さすがに、ネムとセシルが酒造りに取られてしまうのは困るので専用のスタッフを用意して貰った。というか、用意した。よく考えたら、俺がいろいろ私財で用意してるから俺の会社になってるんだよな~いろいろと。ってことで、いつの間にか財閥ぽくなってたりするんだけど、これどうするべき? 財産貯め込む神様って気持ち悪いよな? まぁ、地上にいる神様ってのも普通じゃないからいいのか? 別に貯め込んでるわけじゃないか。あ、ストーン砂漠関係で散財すればいいか。


  *  *  *


 とりあえず、酒蔵は作ったからもういいだろう、と思っていたら全然足りなかった。のんべ多すぎ!

 これは後になっての話だが、水道を掘ったときに近くに放置しておいた溶岩を再利用して酒蔵を大量に造ったのだが、これが貯蔵に都合がよかったらしく大評判になってしまった。女神サリスにアドバイス貰ってるから間違いはないんだが、予想外に一大産業になってしまうとビビる。銘柄として「イエルメス」と名打ったウィスキーとかブランデーが次々と出荷された。

 まぁ、なんだかとっても強そう。

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