第121話 神魔ストリングレコーダー出来ました

 ある日の女神湯、今日は何故か俺とアリスとイリス様で入っていた。夏なので夜だが長湯をすることはあまりない。


「ねぇ、リュウジ」

「なんだね。アリス」

「そろそろ、タブレットみたいに、映像を記録出来てもいいんじゃないの?」

「作れってこと?」

「うん。だって、もう何度も見返してるし」飽きたんだ。


「いや、それ、記録出来たとしても……まぁ、言いたいことは分かった」しょうがない、女神様のお願いだしね。

「あら、記録出来るようになるの? 素敵ね」イリス様も興味が?

「速攻で開発いたします。イリス様」

 横で、アリスがガッツボーズ。謀ったな~っ。


  *  *  *


 と言うわけで、神魔科学の女神カリスと神魔道具の女神キリスに登場願った。もちろんミルルも一緒。


「要は、神魔フォンで通信している信号を記録・再生できればいいわけですね」さすがキリスさん。話が早い。

「はい。そうです。できれば、途中からでも再生できるのがいいです。映像を見ながら、記録場所を探すときがあるので」

「ああ、なるほど。確かリュウジさんがいた世界だと、磁気や電気で記録してましたね」

「はい。回転する円盤に場所を移動しながら記録とかしてました」

「回転? あのタブレットって回転するもの入っていたかしら?」ふと、女神カリスが不思議そうに言う。

「ああそうか。そういう装置があったんですが、あのタブレットやスマホでは使ってないですね。非常に細かい網の目みたいな構造のものに直接電気を封じ込めたりしてましたね」

「網の目?」

「はい、交差したところの情報を読み書きするんです」

「なるほど、細分化して記録する訳ですね。でも、魔力や神力の信号だとさっき言ってたように繋がっているほうがいいかも知れません」あ、女神カリスは、昔の螺旋状のディスクドライブを連想したようだ。まぁ、いいか。

「なるほど。魔力パターンや神力パターンの場合は、やはり魔力あるいは神力をそのまま記録する必要があるでしょうね」女神キリスも同意らしい。そういうものなのか。


「結晶石に取り込むように、信号を細い糸のように閉じ込められないでしょうか?」俺は結晶石に神力を封じ込めた時のことを思い返して言ってみた。

「ああ、なるほど。確かに、素材としては結晶石と同じ成分がいいでしょうね。ただ、ディスク形式は難しいかも知れません」と女神キリス。

「確かに」女神カリスも。回転させるのは無理か?

「あっ、別に回転しなくていいです。メカ的に大変なので」ディスクを生産する工場を想像できないしな。


  *  *  *


 結局、ディスク形式はやめた。原理は良く分からんが球体の結晶石の中に神力や魔力の細い線をぐるぐると入れたような物になった。この線に情報を記録するらしい。これ、昔あったエンドレステープに近いかも。初めと終わりがつながっているので、延々と再生出来るような構造だ。中で絡まないのが不思議。まぁ、糸を巻いてるわけじゃないからな。もしかして内部構造としては二重なのか? 芯の魔力だけ動いているのか?


 まぁ、原理はともかく、後はポジショニングさえ出来ればいいわけだ。これは等間隔でマーキングしたらいいって俺が言ったので、すんなり決まったらしい。これで、頭出しが出来るようになった。シャトルも出来る。って、まんまビデオテープだな。

 ちなみに、記録再生ヘッドは魔力と神力が引き合う性質を利用しているとのこと。


「これよ。これなのよ」プロトタイプの神魔ストリングレコーダーを見てアリスが感激して言った。

「これ、頭出しっていうの? 探しながら映像がちょこちょこ見れて探し易いわね!」

 そう、シャトル機能でビュンビュン先送りしながら、埋め込まれた映像を時々表示しているので探しやすいのだ。

「だろ? まぁ、これは経験がものを言う世界だからな」まぁ、仕事で使ってたし。

「これは素晴らしいものが出来ましたね。さすがに、出来上がった時のイメージを持ってる人がいると違います」実際の神魔道具として仕上げた女神キリスも納得のようだ。


「この記録は、どのくらい保存出来るんでしょう?」あまり考えていなかったのか女神キリスは、ちょっと考えた。

「まだ実績としてはないので保証は出来かねますが、魔力ストリングは非常に安定しているので強力な魔力場に晒されなければ消えたりしないと思います」と女神キリス。

「つまり、結晶石の保存期間くらいってことですか?」

「上手くいけば」

「それは素晴らしいです。これ神力でもそのまま動きますか?」

「はい、対応しています。神界用には神力ストリングレコーダーになりますね。両方対応しているので、どちらの記録結晶石でも使えます」

「さすがですね。もう、千年とか一万年とか保存できそう。あ、神界で採用されるかも」


  *  *  *


 こうして、神魔フォンに神魔ストリングレコーダーを付けるられるようになった。会話の記録も出来るしビデオも撮れる。まぁ、スマホのビデオ機能とほぼ同じことが出来るわけだ。しかも、こっちのほうが映像は綺麗だし、全周パノラマも使える。なかなか使い勝手もいい。


 ということで、今日はルセ島でビデオ撮影会だ。

「リュウジいくわよ~っ」ニーナを始め、嫁達大はしゃぎ。


 手振れ補正機能も付いてるので、最高の映像が撮れると思う。まぁ、取っただけだと他人には見せられないので自分たちが楽しむためだけの映像だけど。


 ところが、後で再生して分かったことだが、手振れ補正機能が半端ない上に映像が超綺麗で音声もリアルと物凄いことになっていた。特に全周パノラマにすると超リアルでやばい。もう、頭の上にカメラをセッティングして生活してみたくなるレベル。ま、実際にやると間抜けなカメラマンになると思うけど。「xxxさんの一日みたいな他人の生活の疑似体験」なんてことも可能かも。


 まぁ、これだけリアルな映像を記録できるとなったら、俺の世界だったら大騒ぎなってしまうだろう。みんな記録映像を残そうと必死になること請け合いだ。俺も、嫁達の若い映像を残しておこう……あれ? ちょっと待て。嫁たちは使徒だから年とらないじゃん。若いままじゃん。じゃ、要らないか。あ~でも、神格化する前の人間だった頃の映像とか貴重かもな~。よし、映像残そう!

 ってことで、いきなりカメラマンになる俺。もう、浜辺で撮りまくりですよ。って、よく考えると俺自身もそうか。まだ人間だった頃の俺とか……ま、考えても仕方ない。撮るだけ撮っとこう。


 しかし、こうなると次に必要なものは編集機だな。


  *  *  *


「ビデオ編集機ですか?」編集機の製作を神魔道具の女神キリスにお願いしてみた。

「はい。神魔ストリングレコーダーのおかげて超リアルな素晴らしい映像が撮れるようになったんですけど、同時にどうでもいい余計な映像も撮れちゃうわけです。必要な映像のみを切り出して一つの作品に纏めたいんです」

「なるほど」

「今の神魔ストリングレコーダーでも一応可能なんですけど、そうすると編集するときにノイズやゴミ映像が入り易いんです」と何とか説明する俺。

「わかりました。ちょっと考えてみます」


 その後、俺は地球にいた頃に経験した編集機の知識をなんとか伝えるのだった。

 これでなんとかなりそうだ。ほっと、一安心する俺とエリス様だった。実は、途中からエリス様も参加している。何故かと言うと、映像作品の女神様ってエリス様だったのだ。動画の女神様って別にいてもいいような気もするが。今までなかったものなので兼任するようだ。もしかすると、これから誕生するのか?


「ねぇ、リュウジ」女神キリスにお願いして部屋を出た後、エリス様が何気なく言う。

「やっぱりリュウジと私は深い関係になる運命なのね?」と妙な言い方をするエリス様。

「エリス様、その誤解を生むような表現は止めてください」

「そう? 神同士の深い関係なんて、別に問題ないよ?」

「それはそうだけど」

「ふふふ。リュウジ、やっぱり怖い子」

 やっぱり?


 深い関係はともかく、これで映像作品を作ることが出来るようになったのだった。

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