第120話 ヨセム復興計画

 カセーム王国ピステル王の肝入りで、ヨセム復興計画が実行に移された。まずは、滅亡に至った原因の除去と将来の繁栄のための追加策が練られた。


 滅亡の原因

 ・水不足

 ・港が無く、海運業、漁業がない

 ・蝗害


 つまり主体の農業に壊滅的な被害を受け、これをカバーする方法が無かったということだ。このうち、蝗害については俺が焼き尽くした後、発生していないとのことで除外。あとは水不足と港だ。どっちも、普通は簡単ではない。


「水不足についてだが、魔道具を使おうと思っている」ピステル自慢の魔道具だ。

「パタンで使ってる海水から水を作る魔道具か」これを使って野菜を作ったと聞いた。

「そう。ただ、これだけでは足りないだろう」とピステル。

「農業用水として常用は無理だろうな。コストが掛かり過ぎる」副菜程度の栽培には使えても、穀物生産に使うほどではないということか。

「そうなんだよ」

「アブラビのような人工降雨山は、砂漠じゃ無理かもな」

「いや、砂漠じゃないよ。カセームに近い。それに、山も低いけどある」

「あるんだ。じゃ、多少は雨も降る?」

「そう。ただ、もう雨季なんだけど、あまり降ってないらしい」

「ああ、それだったら多少改善させられるかもな」

「そうか、ぜひ試してほしい。もう無人だから今なら何をやってもいい」どこか、とんでもない事をやるようなニュアンスがあるが?

「わかった。後は漁業だけど、漁港を作ればいいか?」これは、地球の知識を使って案はある。

「なに? 作れるのか? 漁港だぞ?」

「絶壁だと難しいが」

「ああ、普通の浜もあるよ。ただ、波が荒い」

「そうか、なら防波堤でなんとかなるだろ」俺は、防波堤で囲った港を思い出していた。

「ぼうはてい?」

「あれ? この世界にはないのか? 波を抑えるための置き石みたいなものだ」

「ほう。それ、パタンでも試してもらえないだろうか?」

「やってみるか?」

「ぜひ。うちも港が欲しいからな」そういえば、カセーム王国にも港がないな。

 状況はカセームもヨセムもあまり変わらない。ただ、カセームのほうが他の国に近いというだけのようだ。


  *  *  *


 港を作るにあたり上空から神眼で確認した。港が出来上がった後の設備を用意できる環境かどうかだ。その後、船をつけられる水深か測定したり、桟橋の設置位置等を確認した。


「じゃ、ここから防波堤を立ち上げる」

「よろしく頼む」


 防波堤は二本用意する予定だ。もちろん海水で簡単に削れないような大きさの必要がある。海底を平たく攫って岩石集め、この岩石を溶かして固めたブロックを並べていく。岩の硬さも十分にあるようだ。ぽんぽんと並べていった。二百メートルほど強固な防波堤を築いて、もう一つも同様に作った。まずまずだな。


「初めて見たけど、君ってやっぱり凄いんだな。さすがに神様だけはある」呆然と見ていたピステルが言った。

「あ? こんなの使徒の時から出来るよ?」

「いや、そんな神様と使徒の力の違いなんて俺には分かんないけどさ。凄いよ」

「うん。まぁ、そうかもな。貰った力だけど」

「普通、貰えないよ」

「まぁな。普通とは言わない」

「だよな」


「で、これでいいか?」

「ああ、十分だよ。波が随分静かになった。これなら船を留められると思う」

「よし、じゃ、ヨセムもこれでいくか」

「うん。頼む」


  *  *  *


 まずは、ヨセム跡に行って、パタン同様に防波堤で港を作った。立方体ブロックなので防波堤になると同時に船着き場にも出来る。


「よし。港はとりあえずこんなもんだろう」

「これ以上は、住民にやって貰おう」とピステルも満足気だ。


「次は水対策だな」

「どうするんだ?」

「あ? あの低い山を高くする」俺はそう言って、北に見える小山を指差した。

「な、なんだって?」

「俺は、別に山を吹っ飛ばすのが趣味な訳じゃないからな」

「山を作ることもあると。ま、吹っ飛ばすほうが多いけど?」

「まぁな。で、どのくらい高くするかだが」

「うん」

「どのくらい、水が足りないんだ?」

「ああ、確かに必要量ってものがあるな」

「そうだ。あまり正確にじゃないけど、何日雨が降ってたのが何日に減ったとかの情報が欲しいな」

「なるほど。ちょっと、住民に聞いてみよう」


 聞いてみたら、徐々にではあるが雨の日が半分程になったとのこと。雨の量としては四分の一くらいになったらしい。元は雨季の一週間で三日は降っていたそうだ。確かに、それだけ減れば大打撃だろう。

「そんな、細かい調整できるのか?」ピステルは、尊敬するような目で言った。

「いや、無理だな」

「おいっ」

「無理と言うか分からない。調整可能な範囲にあるのかどうかすら分からない。ただ、過去の情報があれば、それを判定する目安にはなるだろ? ダメなら諦めて全く別の方法を考える必要がある。間違って逆効果ってのもあるからな」

「ああ、なるほど。手法が合ってるかどうかの目安か」

「そゆこと」


  *  *  *


 俺達は近くの山まで行った。


「ホントに小さい山だな。まぁいいか、これを三百メートルほど高くしてみよう。足りなかったらまた足せばいい」そう言って、俺は周囲の岩を集めて溶かし、海からの風を受けて効率よく冷やせるような形へと変形させた。つまり、この季節の風の向きに合わせたわけだ。ピステルは防波堤の時よりさらに驚いた顔をしていたが、もう何も言わなかった。


「おおおおおっ、雲が出来始めたぞ」ちょっと呆けていたが、雲が出来始めたら元気が出てきたようだ。

「うん、雨季だからな。雲くらい出来てくれないと始まらない」

「そうか。これが雨になるかどうかだな」

「そうだ。ま、戻って様子を見よう」まぁ、戻っちゃったら普通は雨が降ったか見れないんだけど、俺には神眼があるからな。


 結果から言うと、先週一週間で雨は一日だけで少ししか降らなかったが、この対策後の一週間で三日間纏まって雨が降った。上出来だろう。たまたまかも知れないが悪化はしていないようだ。あとは、これで足りるかどうかだ。今年は雨季ももう終わりだから大量には降らないだろう。多すぎたら来年、山を削ろう。


「今年は足りないだろうが来年は大丈夫だろう。耕作地が、あの山の麓だから雨の水はそのまま地下水になるしな」

「さすがだな。リュウジ殿じゃなきゃ誰も出来ないよ」

「これで、期待通りになればいいんだが」

「そうだな。まぁ、今年は真水を作る魔道具もフル回転させるよ」


 この結果をもって、避難している住民に説明をした。

「ほんとうに。ほんとうに、帰れるのですね。夢のようです。こんなに嬉しいことはありません」

「ピステル王に感謝します」

「いや、感謝ならリュウジ王だよ」ピステルはそんなこと言うが、これはピステルの手柄だろう。

「はい。ありがとうございます、リュウジ王」

「これで、うまくいくことを願っているよ」

「はい。ご支援、決して無駄には致しません」

 彼は、ヨセムの元王カール・ヨセムだ。今は国ではないので王は名乗っていないが、なかなかの人物のようだ。


 *  *  *


 その後、俺達はプロトタイプの神魔動飛行貨物船を使って何度かヨセムとパタンを往復して住民と物資を運搬した。


「このような運搬船があるなどとは思いもしませんでした。夢のようですね」カール元王、さすがに驚いたようだ。まぁ、マッハ神魔動飛行船を遠目で見たりはしてるんだろうけど人や荷物を一気に運べる貨物船は初めてだからな。

「いや、実際のところ俺も驚いてるよ。これは便利なものを作ったな。これが、評議会で話していた貨物船なんだろ?」ピステルも予想以上だったらしい。

「そう。これなら普通の船としても使えるから、港をそのまま使えるんだよ。このヨセムや、パタンの港でも荷下ろしできるぞ」

「おお、それは素晴らしい。しかも、陸にも下せるとは驚きです」

「そこなんだよなぁ。リュウジ殿の凄いところは。普通なら、港が使えます……で、終わらせるところを、陸上でも使えるようにしちゃうんだから」

「まことに」

 あ、うん。だって、うちの国に港ないからな。どうせ作るなら、うちの国でも使いたいし。

「ははは」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る