第119話 酒の女神サリス

 H&Hズと香水を作る話をしていて、俺が蒸留の話をしたら不思議な顔をされた。


「じょうりゅうですか?」不思議そうに言うヒラク。

 そういえばこの世界には蒸留という概念が無かった。

「そうか、この世界には蒸留器がないのか」

「それ、花の香りを取り出すのに使うんですか?」

「うんそう。圧搾機で絞ってもいいんだけど、蒸留すると香りの成分だけが取り出せるし、長持ちするんだよ」

「え~っ、それ絶対欲しい!」


 それで、蒸留器を作ってみることにした。


  *  *  *


 最近は金属が自由に手に入るようになったので、窯と長いパイプを使って記憶にある蒸留器を作ってみた。これを使って、なんとか花の香りを抽出できたので、二人に披露した。


「きゃっ、これ凄いですマスター。きょーれつな香りそのものです」とヒラク。ドライフラワーを作っていたヒラクだけに驚きも大きいようだ。

「これは、香水と言って、ちょっとだけ使うんだよ。沢山の花から香りの成分だけを集めてるからな。ほんのちょっと使うものだ」

「なるほど。一滴で花百本分とかになるんですね?」

「そういうこと」


「これ、何の香りですか?」見てたヒスイはちょっと慎重に香りを嗅ぐ。

「これは、中庭に咲いている赤い花だよ、きっと」とヒラク。

「おっ、ヒラク正解」

「ああ、あの香りのいい花ね! でも、強くなるとちょっと違いますね」とヒスイ。彼女も、香りには敏感のようだ。

「ああ、ほんのちょっと使うのがポイントだよ。香りのバランスもちょっと違ってるけど」

「でも、いい香りには違いないですね」ヒスイも気に入ったようだ。

「こうして香水にしてしまえば、花が咲いていない季節でも、その花の香りを楽しめるわけだ」


ぽっ


 そこに、女神オリスが登場。

「私も興味あります。ちょっといいかな?」

「はい。どうぞ」と女神オリス。一人で登場するのは珍しい。

「うん、これ凄くいい香りね!」治癒師の女神が食い付いて来るとは思わなかった。

「うん?」

「あぁ、香りを使って治療することもあるんです」女神オリスは、不思議そうに見る俺に説明してくれた。アロマテラピーとかかな?

「なるほど。じゃぁ、蒸留して成分集めたりしてるんですね」もしかすると、治癒目的に普通の香水とは違うものも作ってる?

「はい、やってますね」


 その後、俺の手作り蒸留器は女神オリスの指導で、さらに高性能な香水製造機になった。これなら西岸同盟の新しい産業に使えるだろうと、ヒラクも熱心に抽出方法を勉強していた。


  *  *  *


 香水作りがうまくいったので、その後談話室で披露していた。


「まぁ、蒸留酒がないから蒸留技術はないとは思ってたんだよな。やっと出来てほっとしたよ」

「ん? 婿殿、蒸留酒とはなんのことかのぉ?」とペリ君が食いつく。

「うん、そこ詳しく」とテル君も食いつく。

 あ、のんべに教えちゃいけない情報だったかも。


「ええっと、なんだったかなぁ?」

「いやいや、もう誤魔化してもだめなのじゃ」とリリー参戦。

「なんでリリーまで。お前、酒飲まないだろ~?」

「ちょっと、面白そうな気配がしたのじゃ」

「あ、女神隊集合」ニーナまで食い付いて来た。


ぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっ


なんか、連続音になってるし。


「あ~っ、いや、これは思い付いてないから。思い出しただけだから」

「でも、トンデモ話なんでしょ?」とニーナ。

「いや、この世界にはないけど、別に珍しい話じゃないよ。蒸留酒なんて」

「ああ、蒸留して作った強いお酒のことね?」イリス様は知ってる模様。

「なに! 強い酒とな!」とペリ君。

「おお、面白いですね」とテル君。

 この王様二人、のんべ仲間っぽいな。

「はい、アルコール成分が濃縮されるので、キツイというか酔いやすくなります」

「ほほう。ぜひ、飲んでみたいものじゃ」とペリ君。

「いいですね。私にもぜひ飲ませて欲しいものです」とテル君。

「そうは言っても、蒸留の仕方くらいしか分からないからなぁ。香りのいい樽に詰めて熟成させるとかしないと……あ、酒の女神様なんていないよね? 普通に酒の神ならオヤジだよね?」

「いるわよ」とアリス。

「いるんかい」

「酒の男神も居るし、女神もいるわよ。だって酒の種類も世界の数だけあるんだし、全てをカバーしてるわけないわよ」とアリス。

「ああ、なるほど。そういうことね。じゃ、この世界担当の酒の女神様とかいるんだ」

「もちろん!」


ぽっ


「わたしです。あstfr6です」早っ! もしかして見てた?

「あ、始めまして。リュウジです。アリスが呼びました?」

「いえ、この世界も担当なので見てました」やっぱり。なんか、この世界ちょっと注目されてる? されてるよな、やっぱ。


「そうなんだ。あ、じゃぁ、酒の神でサリスさんって呼んでいいですか?」

「はい、酒でサリスなんて、ぴったりですね。ふふ」あ、ネーミングルールも御存じなんですね?

「たまたまですけど。それで、蒸留酒の作り方とか教えて貰ったり出来ますか?」

「もちろん、いいですよ。沢山作って、みんなで頂きましょう!」あ~っ、やっぱりのんべなんだ。

「いいわね! わたしも楽しみよ!」とアリス。アリスもかよ!

「アリスさん、みなさんもよろしく!」あれ? これ眷属にする流れ?


ー そりゃそうよ。あんたの要請で出て来たのよ。

ー そうだけど。俺、知らないし。

ー 私が知ってるし、イリス様も知ってるから大丈夫。

ー 了解。


「じゃ、サリスさんも俺の眷属でいいですか?」

「はい、お願いします!」

 いや、もう眷属にするのはボタン一つで簡単だ。以前は、ない筈の能力なのでキスとかしてたけどね。あれはあれで、良かったなぁ。


ー 良かったんだ。

ー だから、盗聴禁止!


 ちなみに、今でもキスで眷属に出来る。七人の侍女隊も、これで眷属化したし。あれ? やっぱり、俺の能力ってちょっと変かも?


「あ、リュウジはキスで眷属にしたいそうです」

「ちょっ。あ~、嘘です。もう眷属にしました」

「あ、はい。ちょっと残念?」と女神サリス。えっ?

 こういうのは、さらっと流しちゃおう。っていうか、嫁にするのとは違うんで。


「あら、わたしも残念」あ~イリス様なら全然OKです。アリスGJ。もう一度眷属にしましょう。


ー もう無効だから。

ー わかってるって。アリスの嫉妬が飛んでくるもんな。

ー 分かってるんじゃない。

ー 自分で、けしかけた癖に。

ー 残念でしたっ。

ー からかう為か。


「我も、ちょっと残念である」

「まじですか?」

「冗談なのだ」

「やっぱりか」

「わたしには聞かないの?」

「いや、誰にも聞いてないし」

「聞いて?」

「いいっ」

「どうして?」

「キスが怖いっていうから」

「バレてるし」

 やっぱりか!


「じゃ、みんなで女神湯ね!」

 だよね~っ。


 ちなみに、女神サリスは見た目、酒飲みそうもない清楚な感じだ。もしかすると、ザルタイプではなく、いい感じに酔うタイプかもしれない。そうだよな。酒の神様なのに酔えないなんてあるわけないよな? 飲んで楽しくなる神様だよな?


「あ、露天風呂で飲んだりして」

「何それ、知らない! お風呂でお酒飲むの?」女神サリスも知らないのか。こういう習慣は、地域性が出るのかな?

「えっ? そうですか? まぁ。弱い酒限定ですけど、この世界の酒は弱いのでちょうどいいかも」

「いいわね! それ!」妙にアリスが楽しそう。


 で、一同で女神湯へ。

「うふふふ。念願の女神湯でお酒飲めるなんて、嬉しぃ~っ。このお酒のお舟もいいわね」何故か桶が女神サリスに受けてる。

「あ、そうですね。この桶だけ古風な形で残ってますね」

「そうなの? なにか、お酒の樽みたいでいいわねっ? 香りもいいし」

「はい、どうぞ」

「ありがとう。はい、お返し」

「どもども」なんか、いきなり仲良くなってる。


「リュウジ、アリスが睨んでるわよっ」イリス様が教えてくれた。

「あ、アリスごめんなさい」と女神サリス。

「いいのよ。今日は初めてだし」次回はダメなのか?


 そうは言っても、結局みんなでわいわいお酒飲んでお湯に入ったのだった。みんな神様なのでお風呂で酒飲んでも危険はないので気楽だし。


 ちなみに、ペリ君とテル君は入れません。あ、別に風呂作るか? って、あっても楽しくないか。

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