第123話 神魔動飛行艇で海底散歩

 神魔動外周エンジン採用飛行艇のプロトタイプが完成したというので組み立て工場に見に来た。

 で、実機を見た俺は愕然とした。これっていわゆる円盤じゃね? あるいはUFO? まぁ、アダムスキー型じゃないけどな。超加速した飛び方って、そういえば思いっきりUFOっぽいし。パンケーキのような形で、何処かのアニメで登場してそう。


「外周エンジンを全方向で使えるようにしてみました!」魔道具技師のランティスが自慢気に言うんだけど微妙。

「うん」

 確かに、加速キャンセラーがあるので、どの方向へも行ける。だからと言って人間は全方向を見れないんだよな。


「寧ろ、特定の方向を向いてる操縦席が意味がないかもな」

「あ、そうですね。一応外部スクリーンの方向を向いているんですが」

「これだったら、真ん中に操縦席置いて、周囲を全周パノラマで映し出したほうがいいんじゃね?」

「ああ、なるほど。その場合、操縦者は外向きに座る訳ですね」

「外向きって? 全方向だとどっち見ても外向きだろ?」

「あっ? ん~、ちょっと考え直します。どの方向にも行けるのと、実際に行くのとは別の話ですよね」

「うん。そだね。実運用に適した形にすればいいんじゃないか?」

「わかりました」


 まぁ、UFO型でもいいけどな。無駄に幅が広い気がする。

「これ、運転席は別にして、基本展望室にしたいなぁ。あ~、潜水もしたい」

「なるほど。了解しました」


 俺の要求を取り入れると、飛行遊覧バスになりそう。潜水オプション付きの全方向展望窓のツアーバスだ。なんか、贅沢なバスだな。

「あっ、今思い付いたけど、これマッハ神魔動飛行船に標準装備する方向で頼む」

「えっ? マジですか?」

「うん。上部展望室の代わりにこれを置けないかな? 人員足りなかったら補充もオッケー」

「ああ、なるほど。ふむ……面白いですね! 切り離しとか戻すのがちょっと難しいかも? あとは、ハッチの作り方かなぁ……わかりました。キリスさんやケリスさんと一緒に仕事してる魔道具技師にも声を掛けてみましょう」

 うん。かなり具体的に想像出来てるようだから大丈夫だろう。

「わかった。じゃぁ、頼む」

「了解です」


  *  *  *


 それからしばらくして、新型神魔動飛行艇が完成したと連絡を受けて飛行船ドックに見に来た。当然、マッハ神魔動飛行船に取りつけるものだ。


「お前らなんで付いて来てんの?」

「マッハ神魔動飛行船といえば、我々侍女隊の母船のようなものですから」とミゼール。

「ああ、常に状態は確認したいと」

「はい」

 確かに、侍女隊専用発着デッキがあるこの飛行船は移動基地と言えるかも。


「分かった。ついて来い」

「はい」

「いや、美鈴は違うだろ?」

「えっ? 私、侍女隊の指令だから。むしろ、私こそ居なくちゃだめよ」

「ああ、警備主任だもんな」

「そういうこと」

「もう、専任でいいか」

「「やったっ!」」

 美鈴とミゼールが喜んでる。仲いいな。なら、いいか。


 改修の完了したマッハ神魔動飛行船は、上部展望室がやや膨らんだような形になったが大きくは変わっていない。ただ、従来の展望室は全て無くなって代わりに神魔動飛行艇が収まった訳だ。


「まずは、発着操作がすんなり出来るかどうかだな」

「そうね。停止中はともかく、飛行中に上手く合体できるかだね」美鈴も気になるようだ。

「が、合体?」

「そうでしょ?」

「そう……なのか? いや、普通に発着操作でいいだろ。なんで合体なんだよ」

「ロマンよ」

「知らねーよ」ロボじゃないからな?


 ランティスが迎えに来ていた。

「お待ちしてました。リュウジ様」

「どんな具合だ?」

「一通りのテストは完了しています。運用部隊への引き継ぎも完了したので、いつでも使えます」

「よし。じゃぁ、乗り込んでみるか」


  *  *  *


 飛行船内部から飛行艇に乗り移るにはハッチがあるが、それ以外は普通の展望室のようだった。ただし、天井部分に操縦席があるので、この部分の天井が低くなっている。


「操縦は、私たちでも出来るんでしょ?」と美鈴。

「そうだな、操縦方法は他の飛行艇と同じらしい。GPSの地図が付いてるから安心して飛び回れる。母船の位置も分かるから迷子にはならないぞ」

「へぇ~っ」美鈴は面白そうに飛行艇の操縦席を見て言った。

「操縦で違うのは自動発着装置くらいかな?」ランティスに確認してみる。

「はい、飛行艇を有効範囲まで操縦すれば後は勝手にやってくれます。このランプが点けば有効範囲です」

「母船との発着操作を自動化するなんて凄いわね。どうやったのかしら」美鈴も感心していた。

「防御フィールドと拘束フィールドの合わせ技です」ランティスは自慢げだ。

「拘束フィールドで捕まえて、防御フィールドをクッションにします」どうも、防御フィールドを弱く張るとクッションのようになるらしい。

「よし、試してみよう」


  *  *  *


 俺達は、マッハ神魔動飛行船に乗り込んで地獄谷付近で発着テストを繰り返した。飛行艇ベースだが形がUFOっぽいので逆に感覚的にしっくりきて操作しやすい。プロトのときより流線形になったが、まだまだUFOっぽい。

 加速キャンセラーはあるが一応座席にはベルトも装備している。ま、寝る人も居るからな。


「ねぇ、これって潜水出来るんでしょ? ちょっと海まで行かない?」美鈴は海にハマりつつあるようだ。

「よし、ルセ島まで直行しよう」


 ルセ島まで千キロメートル以上あるのに最近の気楽さは何だろう。一時間かからないからな。もう少しで転移を使わなくなるかもしれない。


  *  *  *


「で、いきなり人数が増えてるのは何故でしょう」

「何故なの?」

「何故かしら?」

「何故なのだ?」

「何故かリュウジ怖い」

「ま、まぁいいけど」

 他の女神様は研究が忙しいみたいだ。


 とりあえず、まず俺が操縦席に入った。

「そういえば、この辺りの海に潜るのって初めてじゃない?」アリスが言う。

「あぁ、そうだな。ちょっと、期待してもいいかも」飛行艇の延長なので操縦席は半独立なっている。これだと飛行艇を運転しながら、下の展望席と会話が出来る。中二階みたいな感じになっているのだ。


「よし。出発するぞ。ちゃんと椅子に座ってろよ」

「は~いっ」返事はいいが、全然ちゃんと座ってない。というか、始めから窓に張り付いてるし。もう自由な奴らだ。


 飛行船から離脱したあと軽く水面につけ、ゆっくりと海中に潜っていった。ここはそれほど深くない。既に、海底は見えている。


「おおお~っ。すごーい。お魚いっぱ~い」美鈴が、はしゃいでる。


 チョウチョウウオっぽいのや、クマノミっぽいのとか岩場の魚は多彩で楽しい。


「ほんとだね~。カラフルな魚が沢山いるね!」パメラも感激して見ている。北の海出身だもんな。

「すてき。わたくし、海の中がこんなに明るくて綺麗なんて想いもしませんでしたわ」ミリスもアイデス王国の海だから冷たい海だよな。

「この辺は岩場だからな、沢山いるよ」


 普通の潜水艇なら危なくて近寄れないところだが、真空膜フィールドがクッションになるので気軽に遊び回れる。岩場にはサンゴ礁が広がり、ウニなどもびっしり付いていた。

 神眼や千里眼が使えれば死角がないので、かなり自在に操縦出来る。


「あの魚かわいいですの」とクレオ。

「ああ、あれ旨いよ」おい。

「食べてみたいですの」食べるんだ。

「よし、採ってこよう」スノウ、ちょっと待て。それは……あれ、これ外に出れるのか?

「ランティス、これって外に出れるの?」

「あ~、想定はしてないですね。まぁ、真空膜フィールドを抜けられるなら、出られるとも言えますが。ハッチを開けて拘束フィールドを展開するくらいがいいんじゃないでしょうか?」

 よし。旨い魚ゲットである。


「ねぇ、リュウジ。私も運転してみたい!」えっ? アリスが運転するの?

「まぁ、神眼で周りを見ながら運転すれば、問題ないと思うけど」見ると、やる気満々である。海好きなんだ。確か前に一度飛行艇を操作したことはあったと思う。

「もう、操作方法忘れたんじゃ?」

「そんなわけないでしょ? 記憶調整してるんだから」

「あ、そうか。じゃ、いいよ」


 アリスは、ちょっとふら付いたけど普通に操縦してた。

「ほら、あの大きい魚追いかけるわよ~!」それが、目的かい。っちうか、操縦しながら客席と会話出来るから面白い。みんなでわいわい言いながら、海底を散歩しているようだ。


「普通に、拘束フィールドを標準装備したほうがいいかもね。あと生け簀も」

「了解です」とランティス。


 興が乗ったのか、他の女神様も代わる代わる運転の練習をした。もう、地上界に住んじゃえば?

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