第116話 神魔動飛行貨物船はリゾートへ飛ぶ

 南北大陸から帰ってしばらくすると一時の高揚は収まったが、これとは逆に南北大陸との交易を求める声が高まって来た。各国と情報を共有したり持ち帰ったものを分配したりしたので、現実味が増したせいだろう。


 ただ、大陸連絡評議会で話したように交易を目的とする場合、飛行船ではちょっとコストが掛かりすぎるのが問題だ。

 今の飛行船では、エネルギーコストは低いのだが人件費は高い。運搬する積載量に比べてスタッフが多く、荷物とは関係のない人件費が掛かってしまうからだ。


 これに比べると商船による輸送はコストが安くていいのだが、南北大陸と中央大陸を隔てる海が荒いため航海が難しいのだ。

 例えGPSが使えたとしても、丈夫な船を用意するためのコストは安くはない。無理をして難破すれば逆にコストが高くついてしまう。


 そんなわけで、荒い海を前提に安全で安価な輸送手段が求められた。


  *  *  *


 この状況を受けて、俺は私的に高速飛行貨物船開発プロジェクトをスタートさせた。

 俺の世界でいう平積み船でもいいのだが、荒い海なので断念した。こうなったら折角なので魔法の利点を活用した船にしたい。


 まず、総合的なコスト削減のため、現在ある港をそのまま使うことにした。

 つまり船として港で荷物の上げ下ろしが出来る飛行船ということだ。これなら、現在ある施設がそのまま使える。もちろん、陸上にも着陸できるものとする。

 これを基本として、あとは純粋に輸送手段としての性能を追求することになる。


 まず、航海術は神魔動通信のGPSを使うことにした。

 GPS地図のコース上のみを航行する。これなら、特別な訓練が必要ない。


 次に、高速を得るために真空膜フィールドを展開して飛行する。

 これなら、風や波に影響されず、運休することが無い。


 さらに、低コストを得るために海上では低空を飛行し、速度は外周エンジンの効率が最も高くなる時速七百キロメールとした。


 また、貨物を簡単に分離できる構造にした。

 港に到着したらカートリッジのように荷物を交換可能だ。これなら、港や陸上のターミナルに停止する時間が少なくて済む。


 こうして、飛行船であるにも関わらず輸送費は商船と同等となる貨物船の構想がまとまった。


 この神魔動飛行貨物船が完成すれば、港を含めて全大陸対応の輸送手段となるだろう。


  *  *  *


 俺は、飛行船ドックに建造中の神魔動飛行貨物船を見に行った。

 海上に浮かべる船の形をした物を、海のない神聖アリス教国で作っているのが可笑しいが、飛べるのだからおかしくはない。


「もう、ここまで出来ているのか!」


 俺は、その巨体を見上げて改めて驚いた。


 この手の貨物船は運用コストも当然だが初期コストも抑えたい。

 つまり、簡単に作れる物がいいわけだ。

 外周エンジンはマッハ神魔動飛行船で作ったものを簡略化したものだ。モジュール化してある。制御装置は同じものが使える。あとは、乗組員用の施設だが、これも飛行船で開発済みだからすぐ作れる。


「あまり、苦労はしませんでした。船のようで基本は飛行船ですから」とランティス。


 貨物船というとタンカーのような船を想像するが、陸上に着陸して安定するように双胴船っぽい構造になっている。


「さすがに潜水は出来ないんだろ?」

「三十メートルくらいならなんとか。上昇もやる気になれば三千メートルくらいまでなら上昇できます。あとはコストの問題です」


 なるほど。それほど強力なエンジンは積んでないということか。


「陸上の輸送の時は、上空二千メートルくらいには上昇させるんだろ?」

「そうですね。これについては、大陸連絡評議会で航路と高度を決める必要があると思います」


「そうだな。海上の貨物船を作るつもりで、結局普通に貨物用飛行船になっちゃったからな」

「でも、これって海上で運用すれば、安いんですよね?」

「陸上でも荷物の上げ下ろしが早いから運用コストとしては安いよ。船体の値段もマッハ神魔動飛行船の二割くらいですむ」


「そんなに違うんですか?」

「まぁ、マッハ神魔動飛行船が贅沢な作りだからな。あとエネルギー革命のおかげだ」

「なるほど」


  *  *  *


 そして神魔動飛行貨物船が完成した。

 だが、十分にテストしたと言っても実際に運用してみると不具合が見つかるものだ。

 そんなわけで、今日は実運用を想定して実際に荷物をルセ島に運んでみる予定……なのだが。


「お前らなんで来てんの?」

「私は嫁代表よ」とニーナ。


 いや、ただの貨物船のテストに嫁代表は要らないだろ。


「わたしは開発者の一人だから」まぁ、ミルルはいいだろう。

「あとで、コメントを求められそうなので」


 ああ、セシルはアナウンサーというか広報的な役割か。


「わたくしは、国王の補佐官ですから当然ですわ」とセレーネ。


 そういえば、そんな話あったな。


「早い乗り物って聞いたら、放って置けません」


 いや、そんなに速くないけど。


「面白そうじゃからのぉ」何が?

「私も混ぜてよ」


 美鈴まで。もう、王城に住んでるから情報も早いな。

 てか、俺の嫁って好奇心旺盛過ぎなんじゃないの?


「そういう、リュウジは王様なのになんで居るのよ」とニーナ。

「いや、俺は発案者だし。一番面白いとこ逃すわけなかろ~っ」

「そうじゃのぉ」とヒュペリオン王。

「いや、ペリ君こそ、なんで居るの?」

「ペリ君」

「そうですよ」とピステル。

「いや、ピステルも帰らないと王妃様が泣いてるよ」

「いや、今日は連れて来てるから」

「おいっ」


 なんか、変な常連が出来て来たような気がしないでもないが危険でもないし、行先がリゾートなのでみんなで行くことにしよう。ついでに遊んで来ることにした。


 てか、これ王城の談話室に居た連中が全員来ただけだよな?


  *  *  *


「ほほ~っ、荷物を拘束フィールドで一気に積むのか」


 ルセ島に持っていく荷物の積載作業を眺めながらペリ君、感心している。


「あれなら、簡単に積めますからね」


 積載カートリッジを指して俺は説明した。


「あれに入りきらない大きさならどうなるのじゃ?」


 さすがに細かい突っ込みが入りますね。そういや、これも乗り物関係か。


「さすがにそれは無理ですね。カートリッジに入るものだけです」

「うん? カートリッジを浮かせて積み込むのか」

「そうです」

「ふむ。なるほどのぉ。やはり、近くで見ているといろいろと発見するものがあるのぉ」


 なるほど、現場主義の王様なんだ。


  *  *  *


 浮き上がってしまえば、後は普通に外周エンジンを使った飛行船だ。

 超加速と言っても巡航速は驚くほどではないが、ルセ島までなら一時間ちょっとだし乗っている人間としてはマッハ神魔動飛行船に乗っているのとあまり変わらない。


「やはり、外周エンジンは快適じゃのぉ」


 リリーも、すっかり慣れたものだ。まぁ、うちの嫁は南北大陸まで行って来たのだから、飛行船は家みたいなものだが。


「で、発進してから人数が増えてるのは何故なんでしょう?」


 と後光のある方に聞く。


「謎ね」

「謎だわね」

「謎である」

「謎なので、リュウジ怖い」

「謎だよね~っ」

「謎と聞いては放っておけない」

「謎も魔道具で解決!」

「なぞぉ」


 最後のあんた、古いアニメ見たよね?


「っていうか、リュウジ。一緒に飛んでる七人も入れてあげたら?」


 ニーナに指摘されて窓の外を見たら、横で飛びながらウィンクしてる奴いるし。

 こいつも、アニメの見すぎ。っていうか、本当にウィンクする奴なんて初めて見たぞ。てか、遠くて普通なら見えないぞ。


 ってことで、侍女隊も乗せた。

 仲間外れは良くないよな。ちょうどいいから、南北大陸派遣のご褒美としてリゾートで遊ぶことにした。


 ん? そういや南北大陸へは仕事じゃなく遊びに行った人たちも居たハズだが。てか、女神様はルセ島に直接顕現すればいいのに、何故乗って来た?

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