第110話 南北大陸へ-水の国ナステル王国-

 ストーン砂漠の遺跡を飛び立って大陸の南端を海沿いに真直ぐ東へ進路を取った。

 この大陸は南北は長いが東西はあまりない。縦長なのだ。東へ七百キロメートルも飛ぶと、次の目的地ナステル王国の首都ミセルに到着した。

 ここは既に東海岸である。


「大砂漠の隣が水の国ですか」


 眼下に広がる湿地帯を見て、さすがにピステルも驚いた表情を見せていた。

 北から流れて来た大河が大陸東側の海へと流れ込む小さな湾のほとりに首都ミセルはあった。


「ロキー山脈の東西で差が大きいな」


 同じ湿地帯とは言っても寒冷な西岸同盟とは違い、ここは熱帯雨林のような様相を呈している。


 首都ミセルは、そんな湿地帯の中でも高台に位置していた。今は晴れているが、昨日まで雨が降っていたような水たまりが見えている。


  *  *  *


 俺達の訪問については大いに歓迎された。

 黒青病についてはカンタスよりも少なく、あまり危険視されていなかったようで俺達の話を聞いて驚いていた。

 それでも、遠路遥々やって来て特効薬の提供をしようという人々を無下にするようなことは無かった。その危険性を理解してくれたようで真剣に聞いていた。

 そんな事情もあり、今までの訪問国とはやや違った雰囲気で大陸連絡評議会加盟セレモニーが開催された。

 つまり首都ミセルは、まるでお祭りのようになった。


 夕方の歓迎の宴では水の国らしく、ハスの根のような野菜が出て来た。俺としてはちょっと懐かしい。


「こう水が多くては野菜の栽培もままなりません」


 ナステルの老王ホバンズ・ナステル国王がため息交じりに言う。確かに、出来る物は限られるのだろう。


「もう少し上流に遷都するようなお考えはないのですか?」俺は聞いてみた。

「いや、上流に行ってもそれ程改善しないのですよ。ここに居れば漁も出来ますからな。また、なかなか都合のいい土地もありません。直ぐに山がちになることもありますが、土があまり良くないのです」


 何か、成分の問題なんだろうか?


「昔はこんなに酷くはなかったようです。千年ほど前に山が大噴火して大陸の西へ流れる大河を堰き止めてしまったのです。それで、その水が、こちらに流れてくるようになったと聞いています。その噴火さえ無ければ、この地も住み易かったのにと、ご先祖様がいつも嘆いておりました」


 それは古都ストーンの話だろうか?


「その堰き止めた河というのは、ストーン砂漠に流れていた河のことでしょうか?」


 俺は気になったので聞いてみた。


「おや、ご存じですか。はい、言い伝えではそう聞いています。聖都ストーンの繁栄を憎む悪魔の所業だとか」


 ああ、確かにお話になり易そうな話だな。


「なるほど、その噴火でロキー山脈の両側の民が苦しめられたわけですね」

「はい、小さな山ですが、我らにとっては大き過ぎる山です」とホバンズ老王。


 うん? 小さな山?


「リュウジ、その山吹き飛ばしてくれない?」


 俺が言う前に言われてしまった。誰かと思ったらコリスだ。


「お前、何言ってんの?」

「ははは。面白いお嬢さんですね。小さいと言ってもそこは大自然の山、到底人の力の及ぶところではないのです」とホバンズ老王。


 ま、普通そう言うわな。


「あ~、出来ますよ」

「はい。えっ?」


 今、何を聞いたんだろうという顔のホバンズ老王。


「そうなんです。このリュウジ、山を吹き飛ばす趣味があるんです」


 ニーナ、何言ってんの? 誤解を招くようなことを言わないでほしい。


「そんな趣味はない。って、何だよそれ変な奴みたいじゃないか!」

「変な奴は合ってるのである」ちょっと、ウリス様。面倒くさくなるので黙っててください。

「うん、確かに合ってるな」ピステルお前もか!

「ええ?」


 どう応えていいか困惑するホバンズ老王。


「ほら、疑われてる」

「りゅ、リュウジ殿。その話、真ですか?」とホバンズ老王。


「いや、見てみないと何とも言えませんが」

「そ、それはそうでしょう」

「まぁ、婿殿に吹っ飛ばせない山はないでしょうな」


 ヒュペリオン王まで調子にのって言い出した。周りで煽るような言い方はどうかと思う。


「王様まで」

「お主も王様じゃ」

「そうですけど」

「そこ、話を面倒くさくしない!」ニーナが突っ込みを入れる。


「ちょっと、整理しよう。何でコリスは水を砂漠に流したいんだ?」

「私は、聖都ストーンを復活させたいのよ」


 なんで、そんなこと思ったんだろ? それこそ趣味なのか?


「聖都の復活ねぇ」

「おお、それは素晴らしい。そうなれば、こちらから移り住む人も出るでしょう」素晴らしいんだ。


「いいんですか?」

「もちろんです。もともと、ご先祖様の一部は聖都ストーンに居たと聞きます。それに、こちらに来る水が減れば、この地も住みやすくなります。少なくとも洪水はずっと減るでしょう」


「なるほど。聖都ストーンの復興は約束できませんが、川の流れは何とかしてみましょう」

「おお、それは願ってもないこと。是非お願いいたします」

「そうですか。あ、うちのコリスが聖都復興とかいろいろやりたがっているのですが、あの地で自治区を作っても問題ないですか?」


「はい、自治区でも国でも好きに作って下され。大いに結構です。仲間が増えれば、こんなに嬉しいことはない。もともとここは陸の孤島でしてな。文化も何も伝わりません。隣の国が出来るなど夢のような話です」


 なるほど。相手次第ですが、コリスが作るなら大丈夫か。


「わかりました。では、なんとかやってみましょう」


 一応この地の覇権を主張しそうな相手には断りを入れておく必要がある。

 神力フォンを渡したカンタス自治領にもその旨を伝えて了解を得た。契約書無くても神様相手に破棄は出来ないからね?


  *  *  *


 翌日、俺達はさっそく大河マソンの上流へと向かった。

 大河マソンを六百キロメートルほど遡ると大きな湖があった。周囲を高い山に囲まれたこの湖は秘境と言うべき場所のようだ。

 以前、秘境の湖の流れを変えて迷惑かけたことがるので下流の様子も調べた。


 見ると、確かに湖から途中で途切れている川の跡らしきものがある。ずいぶん昔の話なので、殆ど見分けはつかない湿地のようになっているが上空から見ると確かに山の反対側にある枯れた河に続いていたようだ。


 これは、この飛行船の先端部からエナジービームを発射するいい機会だな!


「よし、先端部からエナジービームを撃つぞ。船体をあの小山に向けろ!」


 インターカムで操縦席に連絡し、俺は俺専用の特別室へ向かった。


「お、リュウジがついにアレを撃つのね!」


 アリスも興味津々で特別室へ。

 すると面白がって女神隊や嫁達、侍女隊まで入って来る始末。


「お前ら何やってんの? 狭いだろ~。もう、入ってくんなよ」


 はっきり言って、ぎゅうぎゅうである。


「だって、こんな面白い場面見逃せないわよ」


 ニーナは何か勘違いしてないか?


「操縦桿を渡せ~っ」アリス、何言ってんの?

「いや、操縦桿なんてないから」


「対閃光〇御~っ」いや、だからエリス様、違いますって。

「いや、そんなのないから~っ」


「発射装置はどこ?」えっ? イリス様も?


「お前ら、アニメの見過ぎ。大体、この船に大砲なんてないだろ?」


「じゃ、どーすんのよ」とニーナ。

「しょうがないな。いいから、見てろよ」


「先端ハッチ、オープン!」


「わくわく」

「どきどき」

「ころころ」

「おい、何か転がってるぞ」

「ぷにぷに」

「クレオ、ほっぺたつつくな」

「にんにん」お前か~っ。


「極大エナジービームっ!」


 ハッチから腕を突き出して、思いっきり発射した。


 ズッッッドッッッッッーーーーン


 目の前の小山は、山裾から完全に吹っ飛んで両脇に小さいコブが残るだけになった。


「まっ」

「おおお~っ」

「怖~い」

「手動なのね」とアリス。

「そゆこと」


 神力砲「俺」みたいな。

 主砲「嫁」副砲「侍女隊」もある。

 まぁ、俺以上の巨砲なんて造れないしな。これでも抑えてるんだ。本気出すと大陸が吹っ飛ぶから不味いのだ。

 思えば、副砲で十分だったな。


 見ていると、水はゆっくり大陸の西方向に流れ始めた。

 それでも、一発ではちゃんと繋がっていなかったので、ロキー山脈の西側まで流れるように修正した。


 俺は作業完了と新規の開発に着手する旨をカンタス自治領とナステル王国に伝えた。

 どちらの国からも驚きの声と感謝の言葉を貰った。そりゃ、隣が砂漠なのか普通の国なのかでは大違いだからな。


「で、コリス一人でやるのか?」

「そんなわけないでしょ。女神に何が出来るって言うのよ」


 何故か自信たっぷりに自虐する。


「いつも誰かにやらせようとするな。昨日やっただろう。成せばなる」


「あ~、手伝ってくれないんだ」コリスは他力本願なことを言う。


「お前、自分で言いだしといて、いきなりそれはないだろ。助けを求めるのは、やるだけやってからだ。あ、でもケリスをおまけに付けよう」

「なっ」とケリス。

「ありがとう」とコリス。


「あと、使徒くらい自分で何とかしろよ~っ」

「あ、そだね。その手があった」

「忘れてたのかよ。あ、召喚は止めとけ」


 椎名美鈴が苦労した訳が分かった。

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