第111話 南北大陸へ-パルス王国にて待つ-
山を吹き飛ばしたあと、俺達は湖から流れ出した河の流れを確認してからストーン砂漠を後にした。
女神コリスと女神ケリスは水の流れを見届けると言っていたが神界からのようだ。
そりゃ、まともに流れたとしても海まで到達するには時間が掛かる。下流までの水量や砂漠に染み込む量などを考えると来年の雨季まで海には到達しないかも知れない。気の長い話なのだ。あ、女神コリスの場合はルセ島に帰ったのかも知れないな。
ともかく、まずはパルス王国の王妃たちを送り届けなければならない。
「素晴らしい体験でしたわ。ありがとうございました」マレイン妃、ご満悦。
「何もお構い出来ませんでした」
「いいえ、私、いままでの人生を考え直さなければと思いましたわ」
マレイン妃は、王様と同じようなこと言い出した。何の事だろう? 山を吹き飛ばした件か?
「いい事であれば良いのですが」
「はい、新しいことを始めたいと思っています」
なんだかちょっと不安だ。
「フィスラー妃は如何ですか?」
「はい、私も大変勉強になりました」
「それは良かった」
「フィスラー。私、もっとあなたと話し合わなくちゃいけないと思いましたわ」
マレイン妃は、いつもよりちょっと優しい眼差しで言った。
「はい?」
言われたフィスラー妃がちょっと面食らっている。
「リュウジ殿の奥方様の仲のよろしい事。本当に素晴らしいと思いました。私、つまらないことに拘っていたかも知れません。ごめんなさいねフィスラー」
「マレイン妃、いいえ、いいえ。私が至らなかったのです」
「いいのよ。みんなそう。みんな至らないものよ。知っていたのに」
マレイン妃は優秀だから、優秀な人は完全主義に陥り易いってことなのか?
ー 良かったね。あれは、本物よ。
ー そうなんだ。じゃ、安心だな。新しい嫁は見つからなかったようだけど。
ー フィスラー妃が言ってたのと違うけど、マレイン妃が自分の嫁を見つけたんじゃない?
ー あ、ニーナみたいに?
ー そう。
ー なるほど。
見ると、ニーナも嬉しそうに見ていた。
「ん? なに?」とニーナ。
「なんでもない」
マレイン妃はニーナ2かも。
* * *
俺達はストーン砂漠の中央あたりから出発したので、カンタス上空を抜けると直ぐにパルス王国へ到着した。一時間ちょっとだからな。
しかし、待っている人がいるとは思わなかった。
ステル王国首長の孫で長女ヒスイ(十七歳)と西海岸同盟モレス王国第四王女ヒラク(十五歳)が俺の帰りを待っていた。なんで?
「いや、ピステルだろ。なんで、俺なんだよ」
「ああ、嫁の話が出たので、俺より君のほうが入りやすいだろうと言っておいた」
「なんでおまえ余計なこと言ってんの? 団体さん一名追加じゃないんだからな」
「だんたいさん?」
「お前の嫁はどうなんだよ」
「俺は国に居るよ」
「何人?」
「ひとり」
「王族としては足りないだろ。ちょうどいいから持ってけよ」
「いや、俺の国では侍女とか周りに沢山候補が居るんだよ。あまり他民族からは入れないしきたりだしね」
「いや、しきたりどころじゃないぞ。俺なんて、いつ人間終了になるか分かんないんだ! 子供を期待されても困るんだよ」
「あぁ、なるほど。そういうこともあるんだね君の場合」
「仕方ない、ここはヒスビス国王の嫁候補ということで……」
「リュウジ、それは無理よ。本人たちがあなたを頼ってきてるんだから」
「そうだよね」とピステル。
「何が、そうだよね……だよ。お前の一言のせいだろ?」
「だって、本当の事だから」
「むっ」
「とりあえず、二人に会ってあげたら? わざわざ来たんだから」とニーナ。
「だって、会ったら断れないし」
「そうよねぇ。ししょーは断れないよねぇ。私の時もそうだったし」
「いや、別に誰でもいいわけじゃないぞ」
「わかってるわよ」
「リュウジは、幸せにしてくれるオーラがでてるんだよ~っ」とミルル。
「あ、ミルルそれあるかも」とニーナ。
「おお、そうじゃのぉ」
「なんだよ、その怪しい後光」
「あ、ホントにそういう後光かもよ」とアリス。
「そんなわけないだろ!」
「だから、そういう神なのよ」
「ああ、もしかするとあるわね」とイリス様。
「え~っ? 俺、もの凄く怪しい神様にされそうなんだけど。っていうか、それなら直ぐにクビになるような気がする。あ? それはそれでいいか。寧ろその線でいくか?」
「何言ってんのリュウジ。神がそう簡単にクビになんてならないから。降格になるとしても百年単位だからね」
「まじか?」
「まじよ」
「そうか、昼寝で百年だもんな」
「そうよ。大体、神様とか言って楽してると思ったら大間違いよ? 実際は24時間休みなく働くブラック企業なのよ神界って。しかも、寿命が永遠。もう、人間の苦労どころじゃないんだから。常時全開なんだからね? 引退なんて出来ないんだから」とアリス。
言われて気が付いた。そういう視点で神様を考えたことがない。ま、自分がならない前提だもんな。
「あぁ、そう言われてみればそうだな。夜もないし。てか、星の裏側昼間だし。しかも夜も面倒見ろとかブラック通り越してるよな。常に若くて羨ましいと思われるけど、遊ぶためじゃなくて働くためだからな。そりゃ、不干渉主義にもなるわ」
「そうよ。下手に手を出したら」
「手を出したら?」
「こうなるのよ」
「うわっ。俺、悪い見本かよ。もう家族全員で神界に移住してしまおうか?」
思いっきり腰の引ける俺だった。
「リュウジ殿、感動に浸ってるところ悪いんだが」とピステル。
「感動じゃね~よ。絶望だよ」
「うん。とりあえず、神界に移住する前に、二人に会ってやってくれないか?」そうだった。
* * *
「リュウジ王、まずはこれを。首長アスタ・ヒビキよりの親書です」ヒスイ・ヒビキだ。
「私も、アーラス・モレス王よりこれを」こちらはヒラク・モレス。
二人とも国王の手紙を持っている。家出してきたわけじゃないらしい。
当然のように、嫁でなくてもいいから友好の印として側に置いてくれと書いてある。これ控えめに書いてるけど、どう見ても「嫁に貰ってくれ」だよな。
「あら、リュウジ。今回は少なくて良かったじゃない。もっと来るかと思ったわ」
さすが、ニーナの旦那。達観してますね。前回七人だしな。
「おい、そういうフラグみたいなこと言うな」
「ふらぐ?」
後から来たらどうする!
「で、二人はどういうつもりで来たの?」
親の思惑はともかく、本人達の気持ちを聞いておきたかった。
「私は、花とかドライフラワーの趣味を笑わない人と一緒になりたいの」
ああ、あれか。人じゃないんだけど。
「いや、俺はヒラクのこといい子だと思うけど、見ての通り嫁と婚約者で十四人も居るんだよ。これ以上増やせないんだ」
「二十……あ、いえ。もう少し早ければ貰ってくれたの?」
ヒラクは俺の嫁の中に女神様もカウントしてたらしい。そういや、傍から見たらそう見えるか。それでも来るんだ。
「まぁ、そうだな。だから今回は諦めてくれ」
「じゃぁ、もう絶対お嫁さんは娶らないんですね?」
ヒラクは何故か念を押してきた。
「あ? ああそうだな」
「じゃ、近くに居て、もしお嫁さんを娶る時は私も娶ってください」
面白い事を言い出した。ホントなら諦める。ウソだったら自分の責任取れってこと?
「じゃ、私もそれで」とヒスイ。
「どれだよ」
「私も、リュウジ殿がこれ以上嫁を取らぬ決意ならば、諦めましょう。もし、心変わりしたならば娶って頂きます」なにそれ。キューに積むのか?
「いいですか、ヒラクもヒスイも。私の国、神聖アリス教国はとっても遠いんです。簡単には帰れません。中央大陸の中でも奥の奥で寒い国なんです。文化も大きく違います。だから、普通に暮らすだけでも苦労すると思うんです。そういう覚悟は出来ていますか?」
「はい」
「もちろんです」
だよな。二人ともこの世界じゃ成人してるしな。
「リュウジ、もういいじゃない。侍女でいいなら、二人とも連れて帰りましょう」とニーナ。
「分かった。それでいいか?」
「「はい」」
俺としては二人に不満などない。だが、二人に後悔させたくはない。まぁ、これ以上は本人が決めることか。
「そうと決まったら、もう仲間よね! おいで、みんなと話しましょう!」
「「はいっ!」」
あ~。ま、いっか。このまま普通の侍女でも問題ないよな?
ちなみに、このあと女神様の存在を打ち明けられて愕然とする二人だった。
俺の近くで侍女するなら、知らない訳にはいかないからな。もう、この時点で天地がひっくり返ってるよなぁ。帰るなら今だぞ。
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