第94話 神聖アリス教国一周年建国祭2

 舞踏会は続いていた。

 思えば、この世界に転生してからの俺の最大の試練だったかも知れない。うっかりしていた。が、さすがにもう、止められない。


 嫁の後は侍女隊と踊った。


 建国から一周年だが、同時に侍女隊七人も王城に来てから一年になる。

 嫁達の提案で、これを機に婚約を発表した。実際、俺にとってかけがえのない存在になっている。発表が遅いくらいだ。

 そんなわけで、彼女達の国からしたら今回の建国祭での最大の話題となった。

 それはつまり、俺と彼女達の踊る姿が注目されることになる。これは、予想外の展開だった。いや、考えれば分かるんだが。


「わ、我が、ダンスを踊ることになるとは、思いもよらぬことだ」とミゼール。

「こんな時くらい、いいんじゃないか?」と、まだ余裕の俺。

「そ、そうか? 戦士なのにダンスとは」

「ダンスが得意な女戦士は、かっこいいぞ」

「そ、そうか。ならば異存は無い」


 ちょっと、恥ずかしそうに俯くミゼールもいいな。


「兄上から、『でかした』と、誉められました」シュリ・シュゼールだ。

「ああ、ナエル王か。良かったな」

「はい。でも、あとでもっと驚かれることになるんですよね」


 使徒の話だな。


「ああ、そうだな。その時は、俺から話そうか?」


 バラすには、タイミングをみないとな。


「はい。お願いします」

「ふふふ。ちょっと楽しみだ」

「ええ~っ?」


 シュリも、ちょっと楽しそうに笑った。


「わたくし、もう思い残すことは御座いませんわ」とミリス・アイデス。

「おいおい。これからだろ」

「そ、そうですわね。ですが、実家では大変なことになっているようです」

「そうか」

「でも、これからずっと一緒にいられることのほうが嬉しいですわね」


 使徒になった後は長いぞきっと。


「うん、そうだな。よろしく頼む」

「はい、マスター」


「お爺様ったら、何かあったら帰ってこいだって」これはパメラ・ウリウスだ。

「そりゃ、孫は可愛いからな」

「はい。あと、老い先短いんだから早くひ孫を見せろだって」

「そう来たか」

「それよりお爺様が心配です」

「小まめに神力でみてやればいい。俺も、ボーフェンさんには長生きして欲しいし」

「ありがとうございます」


「小さくて、ごめんなさいなの」とクレオ・カセーム。

「大丈夫だよ。それに、一年でかなり大きくなった」

「はい。兄様にびっくりされたの」

「そうか、ピステル王はいい兄貴だな」

「はいなの」


「マナ。ラーセル法王は婚約を喜んでくれたか?」

「はい。おじい様は、こうなると確信していたそうですの」とマナ・オキヒ。


「ほう。そうなのか?」

「なんでも、私が孫の中で一番女神様の肖像に似ていたからだそうです」

「え? その肖像って、飛行船に描いていった、あれか?」

「はい。それで決めたそうです」


 そういうことも、あるのか。確かに、それなら嫌われる筈ないものな。


「マスター、早く踊ろう!」スノウ・ナミアだ。

「ちょっと待て、今ヤバいんだ。くらくらしてる」もう限界。

「ダメだよ~っ、ナミアの皆が見てるんだもん、ちゃんと踊ってくれなくちゃ」

「いや、だから。ちゃんと踊れないんだって」


「じゃ、私がリードしてあげる!」

「お前がリードするのかよ」


 それ、皆が喜ぶか?


「大ジョーブ。足元見えないし、笑ってればバレない」

「ちょっと、まて~っ」


 だから、笑ってられないって~っ。


 次は、女神様だが、さすがに小休止した。


「やっぱり、いいわね舞踏会は。大好き」


 アリスは、そういう世界出身らしい。


「もしかして、アリスは姫様だったのか?」

「ふふふ。どうかしらね」

「なんだよそれ」

「だって、もう遠い昔の話だし」

「でも、ダンスは踊れるんだ」

「そういうものよ」


 そうなのか?


「わたくしも、久々で楽しいわ」眩い笑顔で言うイリス様。

「イリス様、ドレスがとても似合ってます」

「あら、そんなこと言うと、ほらアリスが睨んでるわよ」

「たまにはいいでしょう。今はイリス様を独占です」

「そうね」


「リュウジが、踊れるようになったのは我のおかげなのだ」ウリス様は誇らしげに宣言した。

「やっぱりですか、元々下手だったもんなぁ。ありがとうございます」

「うん、なかなか素直でよろしい」

「もしかして、ウリス様の確率も変えてます?」

「うむ。目いっぱい上げてるのだ」


 ですよね~っ。


「こんなに、素敵な舞踏会を開くなんて、リュウジ怖い子」とエリス様。

「いきなりですか」

「素敵な絵が描けそうで、わくわくする。みんなが楽しんだ後が絵師の楽しい時間」


「なるほど、そういうタイムシフト的な存在なのですね」

「たいむしふと?」

「ああ、楽しい時間が皆とズレてるってことです」

「ズレてはいない。思い出して何度も楽しむの。リュウジはそういう瞬間を作るのがうまい」

「そうですか?」

「うん、忘れない。怖い子」


 なるほど。そういう意味だったんだ。


 さらに休んでから他の女神様とも順に踊った。


 ライブ配信した舞踏会そのものに付いては、各国の会場も盛況だったらしい。来年はさらに凄いことになりそうだ。


  *  *  *


 建国祭後半は、恒例の大陸連絡評議会が開催された。

 同時に、新たに参加希望の二国、ヤスナ王国と北海首長国連邦が紹介され承認された。


 今回の評議会のテーマは南北大陸への使節団派遣についてだが、予備的に評議会を開催していたので正式承認するだけだった。また、南北大陸以外の地域については南北大陸への展開後に検討することになった。これは、情報の少ない他の大陸への進出を慎重に進める為である。


 また、南北大陸への派遣団で使用する新型の飛行船「マッハ神魔動飛行船」が正式に公開された。


 既に公表はされていたが『無害化魔法共生菌の完成』と『音速を越える飛行船』の二つが今年の評議会で最大の話題となったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る