第95話 神界の鬼教官現る1

 ついに来た。神界教育神高等教官様から連絡があったのだ。もちろん頭の中に。


 それで、指定された時刻に執務室で待っていたのだが……来ない! いや、教官なんだから時間厳守でしょ普通。電車遅れてないよ?


 今日は来ないのかと思ったら、一時間くらい過ぎてから来た。


 ぽっ


「ごっみ~ん、待った?」何こいつ。そりゃ、待ってるよ。

「いえ、今来たことろ……のわけないし。俺んちだし」

「だよね~っ。ごめんって」


 なんだろう、妙に馴れ馴れしい。ま、いっか。


「はいはい。じゃ、始めてください」


「了解。はいこれ。神界ルールブックと教化ドリンク」

「教化ドリンク?」魔法ドリンクなら知ってるが。神界って、なんでもドリンクにするの流行ってる?


「別に流行ってないよ」何故、心を読める?

「教官だから」

「特権なの?」

「うん。今だけね」

「了解」


「で、まずは教化ドリンク飲んじゃって」

「これ、怪しいものじゃないですよね?」

「教官を疑うの?」

「だって、思いっきり疑わしい教官だし」


「なになに? 遅れてきたら?」

「いえ、ゴスロリだから」

「あれ~っ? そなの。これ君に合わせて着たつもりだったんだけど変?」


「あ~、それってタブレット見て来たってこと?」

「そう、それで遅くなっちゃって」


 それ、単にアニメ見てて遅れただけなんじゃ?


「なんだ、アリスも言っといてくれればいいのに。あ、それと、あの中にあるからと言って俺の趣味とは限りませんからね? 単に、集めてただけなので」

「あ、そうなんだ。ふ~ん。これ、嫌いなの?」

「いや、そういうわけでは」

「好きなんだ」

「もういいから、始めてください」


「だから、早くドリンク!」

「分かりました。ぐびっぐびっ。ふ~、まずい~っ。二度と飲まない!」

「うん、思いっきり不味いよね」


 何で不味いままなんだろ。クレーム入れないからか?


「二度目はないから安心して」


 そう言うことね。新米神を労わる気持ちはないのか? まぁ、そのあと数千年も神やるから、そのくらい何でもないのか。


「ドリンクを飲んだところで、まずは私の紹介ね。名前は;あlsk23。どう? ちゃんと聞こえたでしょ?」


「あ、はい。でも、;あlsk23って、ああ、言える。でも、なんか変だな」


 これ、ドリンクの効果なのか?


「うん、神界標準語だからね。こっちの言葉では、ちゃんと発音できないし」

「こんな言語知らなかったなぁ」


 っていうか、発声しない言語なのか? 脳内パターンとか言うべきかも。

 これはたぶん感情も表現するっぽい。言語で感情を表現するのは難しいが、これなら表現できるようだ。まぁ、そりゃ音声にならないな。つまり、脳の左右両方を使う言語ということだ。嘘をつくことが難しいという意味では、神に相応しい言語かも知れない。


「君は多言語の世界から来たんだよね? でもこの言葉は人間の言葉じゃないから発音出来ないんだよ。頭の中の会話でしか使えないようなものなんだ。一応疑似的に発声できるようにしてるだけ」


「なるほど。こう言うことだったんだ。これなら、系統以外の神と会話しない意味がわかる。音声だけでは、不十分な訳ですね。神としては」


 人間じゃないというか、動物でもない気がする。もとは宇宙生命体の言語だったとか?


「そうね。特に、君みたいに系統外の神様や使徒と会話しようとすると不便かもね」


「究極の縦割りか。系統外の神様と話さないんですか?」

「ああ、普通は共通上位神まで遡って話すのよ」


 上位神が中継するのかよ。


「うわっ、そうなると大事な事しか話せないな」

「そうね。三つ上の上位神と話す時なんか、緊張するわよ」

「でしょうね」


「でも最近神魔フォンが出来たから、違ってきたけど」

「ああ、そういえば、そんな事言われたかも。別の神様と話せなくて不便だったって。作ってくれてありがとうって」

「うん、だから、この神魔フォンは革命なんだよ! 私も使ってる。ただ、神界標準語を音声に変換できないところが残念ね」


 教官は、ポケットから出して俺に見せた。

 確かに使い込んでそう。ストラップまで付いてるし。


「疑似的に発声してる名前じゃ通じないんじゃ?」

「ううん、一応通じるよ。疑似音を覚えてるから。ただ、ちょっと分かりにくいよね。音声だと」


 そう言えば、神界用の神力フォンは、改良の余地があるのかも。

 神力で会話できるなら、神力とそのまま接続出来そうだけど、女神カリスや女神キリスが言わないところを見るとなにか難しい理由があるんだろうな。


「俗名流行りそう」

「もう流行ってるよ。ルセ島で特に」まじか。


「あ、そうだ。地上界で遊ぶなら俗名付けます?」

「へ? あ、そうね。うんいいね」

「ええと、クリスの次だから、女神ケリス様で」

「教育の女神ケリスか。わかった」


「あ、それで俺の教育は?」

「うん? 能力は一覧に追加されてるでしょ?」


「あ、なるほど。あまり変化はないっぽいな。あ、『神の継承』って知らない」

「ああ、それは神の能力の象徴だね。眷属を作る力。下位の神ならば配下に、人間なら使徒に出来る。神力リンクの操作や神力の視覚化もこの力ね」


「ああ、『眷属化』は使いました。『神の継承』の機能なんだ。なるほど。使徒の時、これが無かったのに、使徒が作れたのが謎だけど」


「えっ? 本当? っていうか、眷属化も使えたの? ドリンク飲む前に? そんなはずはないんだけどな」

「えっ? だって、『神眼』って表示されてたし。もう、女神様を眷属化しちゃったし」


「え~っ。それ、私が来た意味ないじゃん」

「あ、でも、だから完全じゃなかったみたいです。『神の継承』を知らなかったし」


「なんか、君、変だね? 使徒になる前に既に神の領域に居たとしか思えないんだけど」

「ああ、第一神様も俺を見て『神の筈だ』と言ってましたね」


「そう。なら、そうなんでしょうね」


 女神ケリスは、そういって納得したようだ。いや、俺納得できないけど? それで、いいの? そこから、神界探偵の仕事が始まったりしないのか?


「はぁ」

「あとは大体分かるんじゃない? 使徒を経験してるから見当はつくでしょ?」


 なんか、ちょっとノリが軽い気がする。


「そうですね。基本、バージョンアップなんですね」

「そう。例えば『神の眼』は視野が広がったでしょ?」

「そう! 千里眼は不便だったんですよ」

「でしょ?」


「『神の検索』は、神界情報の参照権限が強化されてる。第二神だから、制限は殆どない筈」

「そうなんだ」


「『神の透視』のスキャンは、あまり変化ないけど。神界の物にも使えるよ」

「おお、なるほど」


「基本、神に与える能力は神界で使うためのものだから地上界ではあまり使えないものなんだけど、君は使徒を経験してるから特別だねっ」


「神様は、普通地上界に顕現しませんもんね」

「そう。担当神はね。これで大体分かったかな?」


「そうですね。あ、神界のルールとかは?」

「それ、既に頭に入ってるでしょ? 本は形式上残ってるだけだから」


「あ~っ。でも、これ読まないとダメっぽいですね」

「それはそうよ。記憶は必ず感情と共に記録されるから。少しずつ読んでね」


「わかりました。あ、あと名前とか」

「ああ、君の場合はリュウジのままでいいって。その名前で神界評議会で話題にしちゃったからだって」

「なるほど。確かにね。じゃ、逆に俺の場合は俗名が空きになってるんだ。かっこいい名前考えちゃおうかな? 二つ名か?」

「あはは。面白い事考えるね!」


「そうですか?」

「そう、君が始めたこと、みんな面白いよね。俗名もそうだけど。南国のリゾートも面白かったよ! サイクリングとか超楽しかった!」

「そりゃ、良かった」行ったんだ。


「これで、もう教育完了かな?」

「そうですか? あと『神の兆』とかありますけど」

「あ、いっけな~い。危なかった。てへぺろ」


 なんだろ~っ、ちょっとムカついた。


「まぁ、勝手に動いてる能力だから、やることないけどね。説明だけ」


「勝手に?」

「そう、危険を感知して自動的に防御フィールドを展開する能力だよ。ただ、絶対じゃない。ビーム攻撃は仮想物質の体にダメージ与えちゃう」


「仮想物質の体は治癒すればいいんですか?」

「『神の顕現』で造る体だから、作り直すだけ。治癒じゃないのよ。神だから当然不死身だし。ただ、修復するまで多少時間が掛かって使えなくなるから守るのよ」


「なるほど。でも、俺の場合はかなり人間だから治癒も必要ですよね?」

「ああ、そうね。両方必要だね! なるほど勉強になるね!」

「教官が勉強してどうすんですか!」

「ふふふ。これで全部かな?」

「そうですね」

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