第93話 神聖アリス教国一周年建国祭1

 二月も最後の週となり、いよいよ神聖アリス教国の建国祭が間近となった。


 高速神魔動飛行船を使い各国から続々と王族たちが集まって来ている。

 今回は王族以外にも通商担当者などを含む各国使節団という形になっていて前回よりも賑やかだ。この一年でどの国も活力を取り戻しているので意気込みが違う。

 さらに将来へ向けた動きを加速するべく、いろんな分野の代表たちを引き連れて売り込みに余念がない。

 こうなってくると、定期便の増便も考えるべきか。


「お久しぶりです、リュウジ王」


「また会えて嬉しいです、ピステル王」


 カセーム国王が到着した。

 もう、すっかり王様も板についている。


「聞きましたよ。また物凄い飛行船を作られたとか」とピステル王。


「おや、耳が早いですね。つい先日処女飛行したばかりです」

「後で、ゆっくりお話を聞かせてください。あ、そうそう。今回は隣国ヤスナ王国の王子をお連れしています。大陸連絡評議会に加盟希望の国です」


 後ろから若者が現れて挨拶した。


「ヤスナ王国の第一王子セイピル・ヤスナです。以後お見知りおきを」

「神聖アリス教国のリュウジ・アリステリアスです。お話は聞いています。良くおいで下さいました。歓迎いたします」

「ありがとうございます」


 他にも、新しく大陸連絡評議会に参加希望の国があった。

 アイデス王国の隣国で北海首長国連邦からも代表が来ていた。


 この中央大陸も盤石になって来たな。そうでなければ、他の大陸へなど行けないのだが。


  *  *  *


 三月に入っていよいよ建国祭が始まった。


 今年の建国祭のイベントは各国にも任せることにした。

 主催はもちろん神聖アリス教国だが、少し趣向を変えようということだ。去年はこちらで全部用意したものを見せるだけだったが、今年は各国にブースを提供することにしたのだ。これで、見る側の楽しみも加わったわけだ。どの国も、自国の売り込みをしたかったようで思惑が一致した形だ。


 まずは各国の物産展。王城前広場は人で埋め尽くされていた。

 この日のために飛行船で持って来た物なので特産品や多少値は張るが簡単には手に入らない物などが並べられ、見ているだけでも楽しい。


 それから各国の芸能活動などを紹介する特設コーナーも併設した。ここではダンスなども披露している。


  *  *  *


 四日目の建国記念日には、王城の上空をホワイトインパルスが虹色のスモークをたいて駆け抜けた。

 いよいよ大陸全土をビデオ配信で接続した壮大な舞踏会が始まる。

 王都上空のパノラマスクリーンには、昼もまだ明るいうちは建国の祝辞や建国エピソードなどを紹介していたが、日が傾き始めるとボルテージも上がって来て早々にダンスが開始された。


 各国の首都がある町の会場でも大きなパノラマスクリーンが表示され、舞踏会の音楽も大音量で流れている。

 遠く離れた国でも舞踏会に参加できるという趣向だ。

 配信のセッティングなどの手順は既にレッスンの時に確立したらしく手際もいい。


 見るとセシルがアナウンサーみたいなことしてた。まぁ、レッスンからずっとなので慣れたもんだな。というか、意外な才能発見?


 舞踏会は、一か月以上の準備期間を掛けただけあって参加人数も多かった。

 スクリーンには神聖アリス教国王宮の様子だけではなく各国の様子を切り替えて投影して、見てても飽きさせない。それぞれの街では民族衣装などで踊っていたりして、これはこれでまた別の楽しみがあった。


  *  *  *


 俺は、嫁達と順に踊った。

 あんまり多いから連続で踊っていると止まるたびに世界がフワフワする。


「意外と様になったわね」


 俺の踊りを評してニーナが言う。


「そりゃどうも。ニーナだって上手くなったじゃないか?」


 二人とも練習ではさんざんアルテミスを困らせたからな。その二人がこうして普通に踊っているのだ。アルテミス様様だ。


「そうね。私が舞踏会に出るなんて夢みたいだし」

「そうだな」

「しかも、女神様と一緒に踊れるなんて普通ないわよね」

「そうだな。お前も、普通じゃないけどな」

「そうね。あ、そういえば、さっきアリス様に聞いたけど、三月四日ってリュウジを召喚した日なんだって?」

「うんそう。分かりやすいだろ?」

「召喚されて二年で建国なんて、大したものね」

「うん、まぁ、人間のままならな」

「そだね」


 まぁ、神力パワーがあってのことだ。


 次に踊るのはミルルだ。


「リュウジ、よろしく~」

「こちらこそ」

「わたし、小さいから小さいステップでね」

「了解」

「うわ~、やっぱ遠心力が気持ちいいね」

「そう来たか」


「リュウジ様。私、ドレスが派手過ぎじゃないかしら?」


 続くセシルは、服装が気になっているようだ。


「うん? いや、大人しいくらいだろ? 綺麗に似合ってるよ。セシルらしくて可愛いね」

「まぁ、リュウジ様が、そういうこと言うなんて思いませんでした」


 セシルはちょっと頬を染めて笑った。


「たまにはいいだろ?」

「はい、時々でもいいです」

「善処しましょう」


 セレーネが優雅に挨拶した。さすが王族だ。


「リュウジ様。今日は本当に素敵ですわ」

「いや、セレーネのほうが素敵だよ。やっぱりお姫様だな」

「あら、本当かしら」

「うん、別格だよ」

「ふふっ。でも、アルテミスが元気になって良かったわ」

「うん? 元気無かったのか?」

「あら、あなたのためになりたいってだけです」

「そうなのか。なら今日は十分だな」

「そうですわね」


 アルテミスが颯爽と現れた。


「綺麗だアルテミス。今日のお前は見違えたよ」

「まっ。リュウジ様ったら。でも、ありがとうございます」


 本当にアルテミスは優雅に踊った。

 ドレスは他の嫁と同等なのだが揺らし方が違うのだろうか? 目を引くのだ。


「こんな舞踏会が開けるとは思ってなかったよ。素晴らしい」

「わたし、やっとリュウジ様のお役に立てたのかしら」

「前から役に立ってるけど、今回は本当に大成功だな」


 アルテミスは、ぱっと明るく笑った。


「ふふ。それを聞いて安心しました」

「これからも、舞踏会は任せていいか?」

「はい、もちろんです」

「大きなイベントになるかも」

「そうでしょうか?」

「ああ、民族同士の付き合いが、今始まったんだと思うよ」

「まぁ」


 アルテミスは、それ以上言わなかったが分かっているようだった。やはり、王族だけあってそう言う視点を持っていたのかも。


 嫁の最後はリリーだ。


「お子様軍団をどうするかだよなぁ」


 リリーと踊りながら言った。


「わらわは、お子様ではないぞ」

「いや、身長の話だよ」

「そうか? みんな大きくなっておるぞ? ステップはミルルと同じで大丈夫じゃろ」

「そうか」

「あとでわらわがレクチャーしておくから心配いらん」

「お前も、ずいぶん頼もしくなったよなぁ」

「ん? わらわは、もともとじゃろ?」

「それに、綺麗になった」

「まっ。いきなり、そんなこと言うのは卑怯じゃ」

「ははは」


 リリーの恥ずかしそうにしている様子も可愛い。

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