第81話 新生

 神界の派閥抗争も落ち着き、やっと平穏が返ってきた。あと気掛かりなのは嫁の出産だけである。

 執務室に居ても何も手につかないので後宮に行くのだが、あんまり俺が行くと煙たがられる。それに、今の時期の後宮には人の出入りは少ないほうがいいとのこと。確かに、無駄にバイ菌が入るからな。まぁ、俺は自分を滅菌できるんだけど?


 そうこうしている内に、まずニーナが産気づいた。使徒テイアも居るし助産婦さんも居る。その他万全の体制で待っているので問題はないのだが、なんかうろうろしてしまう。終いには邪魔だとダメ出しされて後宮から追い出されるし。しまった、後宮に俺の控室を作っておくんだったと思ったがもう遅い。

 ニーナでバタバタしていたら、さらにミルルとセシルも産気づいた。こういうのって伝搬するのかな? 急遽スタッフの増員となった。いや、二人までは想定していたようだが、三人同時に産気づくとは思わなかったようだ。設備としては問題ないのだが。


 明け方には次々と生まれてきた。

「ニーナさん、生まれました。元気な女の子です!母子ともに元気です」

「ミルルさん、生まれました。元気な男の子です。母子ともに問題ありません」

「セシルさん、生まれました。女の子です。二人とも元気です」

「おおおお、まじか~っ。よっしぁ~っ」

 俺は、浮足立ってるが、何していいのか分からない。ふと見たら、本当に浮いていた。おっと、いかんいかん落ち着かないと。てか、着地しないと。


ぽっ

「おめでとう、リュウジ」アリスが早速降りて来てくれた。

「ありがとう、アリス」


ぽっ

「おめでとう。リュウジ」イリス様も来てくれた。

「イリス様、ありがとうございます」


ぽっ ぽっ

「リュウジ、我も居るのだ」

「私もね」

「ウリス様、エリス様も、ありがとうございます」


「王様、準備できました。おいでください」やっと迎えが来た。

「あら、会えるのね。じゃ、行きましょう」とアリス。

「なんか、思いっきり緊張するな」


 俺は女神様を引き連れて、生まれたばかりの子供に会いに行った。まぁ、絵的には凄いことになってるんだろうが気にしない。なんて思っていたら、第一神様まで顕現して来た。いや、さすがにいいのかなぁとは思ったけど、そんなこと考えてる余裕もないし。というわけで、嫁と赤ん坊の周りは神様だらけというとんでもない状態に。まぁ、嫁も使徒だし仲間内と言えば仲間内。


 どうでもいいけど、俺とかかわった神様って妙にフットワーク軽くなってないか? 別に気にしてないけど。っていうか、責任取れないけど?


  *  *  *


 さらに二週間ほどで、セレーネ、アルテミス、リリーと出産した。ニーナたちが遅れ気味だったので、こちらのほうが普通らしい。もう無事に生まれてくれれば何でもいい。母子ともに健康なら万々歳だ。

 セレーネは男の子、アルテミスとリリーは女の子だった。この時も女神様を始め第一神様まで来てお祝いしてくれた。他の神様に思いっきり嫉妬されそうだけど、知らないからいいか。てか、出来ないか。

 それにしても、生まれた子供達、超人とかになってないよな? 生まれてすぐに周りが神様だらけだから気になる。絶対なんかある気がするけど、お断りするわけにもいかないし。後で知るのが怖い。そんなこと言ってたら、お前も神だとアリスに突っ込まれた。そうだった。


 一応、スマホで神様が大集合してる記念写真撮っておいた。これ、国家機密? というか、神界機密かもしれない。ま、神様には子供が出来ないので、出産祝いに集合した写真なんて前代未聞らしいけど。


 あと、なんでいつまでもスマホが使えるのかと思ったら。神魔道具の神様にお願いして神力充電器というのを作って貰ったそうだ。でも、ケーブルないし、これ充電じゃなく、直接分子を移動させてるよね? まぁ、劣化しないからこのほうがいいか。あと、俺に返す気はないらしい。


  *  *  *


 ところで出産ラッシュで大騒ぎしているのは宮廷だけでは無かった。急成長した上に、首都アリスとなったこの街は人口が爆発的に増えていた。さらに、食糧事情の大幅な改善と明るい世相による勢いもあって、こちらも出産ラッシュになっていた。

 いや、うすうす気付いていたから国としてももちろん対策していた。主にマレスやセレーネ達の建国プロジェクトで。しかし、予想と現実は違うもの。あちこちで、てんやわんやの大騒ぎって奴だ。もう、いつもより回ってません。そりゃ、全てを予想出来るわけもなく、その場で対応しなくちゃならないからね。いろいろ滞ってしまってる。みんないつもと違うのだ。

 とにかく、お祝い騒ぎで文句も言えない状況なんだけど、とりあえず子供の世話をしてる分の人手が足りなくなるのは必定。それは勿論女性だけじゃない。となると、これをカバーする方策が必要となるわけだ。


「流石に、ここまで人手が足りなくなるとは思ってもみませんでした」元老院議長のマレスも閉口気味。

「やっぱりな。思った通りだよ」

「流石ですリュウジ様。あんまり心配されるので不思議だったんですが、私のほうが認識不足でした。申し訳ありません」まぁ、俺は出産記念事業を探してただけなんだけど。

「初めてだからな。で、どんな状況なんだ?」

「建設資材が全く足りない上に作業員も手配できません。せめて小児科の医院だけでもなんとか建てたいのですが」と焦った顔で言う。


 医療施設は魔法共生菌の特効薬を効率的に処方する為にもぜひとも必要だ。これを遅らせるわけにはいかない。


「分かった、それは俺が何とかしよう」

「いつもリュウジ様にお世話かけてしまい申し訳ありません」

「いや、やることが出来て俺は嬉しいよ。じゃ、設計した建築家と打ち合わせて病院作っちゃうけどいいな?」

「はい、お願い致します」


  *  *  *


 流石に、神輝石の病院を作る訳にもいかないので普通の白い砂から病院を作った。王城を作った時のように、設計通りに石材を焼き固めて資材として提供する訳だ。図面通りの石材が初めからあるので、すぐに組み立てが出来る。あっという間に完成だ。神輝石ではないが、真っ白い壁の病院らしい建物に仕上がった。

 横で見ていた建築家もあっけに取られていた。半信半疑で呼ばれて来た内装や水回りの職人も呆然としてる。後は、彼等に任せればいい。


「じゃ、内装は頼んだぞ」

「あ、はい、王様。ありがとうございます。全力で作ります」と職人の一人。

「うん。じゃぁな」

「あ、王様。銘をお願いします」

「ああそうか」俺は壁に『新生記念病院』とビームで書き込んだ。生まれた子供全員を祝うってことでいいだろう。


  *  *  *


 その夜、病院を完成させて大満足の俺は、ひとり露天風呂で寛いでいた。

 

 ぽちゃっ

 そこへ、アリスが顕現してきた。


「お疲れさま」

「アリスか。女神湯は久しぶりだな」

「そうね。神界でもいろいろ大変だったから」

「あ~、全然あっちのこと知らないけど、大丈夫?」

「そうね。なんとか。私の周りとかいろいろ動きがありそう」

「ああ、第二神扱いだもんな」

「他人事じゃないわよ」

「そうだな」


「あ、そうそう。最近神界では、『リュウジ一派』って言われ始めたわよ」

「一派って、俺とアリスのこと?」


ぽちゃっ


「わたしも、一緒よ」とイリス様登場。

「えっ? い、イリス様も」それは、嬉しい。けど、いいんだろうか?


ぽちゃ


「我も、一緒なのだ」とウリス様。マジですか?


ぽちゃ


「私も、一緒」とエリス様も。そりゃ、そうか。


「このメンバーなら、一派って言われても、いいかなぁ」

「あ、リュウジがデレてる」とアリス。

「ふふふっ」

「仕方ないのだ。我がいるのだ」妙に自信満々なウリス様。

「リュウジ、怖~いケイケ」何それ。


 子供達が産まれ、新しい派閥も産まれた。なんとなく明るい未来が見えて来た気がする。神界も含めた未来なのが不安だが、頼もしい仲間も沢山いるし、きっとやっていけるよな?

 俺は世界を楽しみたいのだ。楽しめる世界であってほしいのだ。この温かい女神湯のように。

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