第80話 新しい派閥?

 第一神様が帰った後、俺は談話コーナーのソファにどっかと座って一息入れた。驚きの連続だったからな。


「しかし、なんとかなって良かったよ。どうなるかと思った」そう言って、ふと見ると女神様達が微妙な顔をしていた。

「俺、なんか不味いことした?」

「ええっと、とりあえず。丸く収まって本当に良かったわ」とイリス様、どことなく落ち着かない様子。

「うん。そうだね」アリスも、こっちを真直ぐ見ないようにしている。何かおかしい。


「そうそう。七人の侍女隊、頑張ってくれてたわよ」アリスが侍女隊を誉めた。

「そうなのよ! あれから、またあの執行官が捕縛隊を増やして来たけど、侍女隊が完全にブロックしてくれたの! ふふ、悔しそうに顔真っ赤にして帰っていったわ!」とニーナ。


「おおっ、ほんとか! 凄いなお前たち」

「はい、お役に立てて嬉しいれす」とミゼールが胸を張る。が、ろれつが回ってない。

「やったよ~っ、マスタ~!」とシュリ。

「やりましたわ~っ! マスタ~」とミリス。

「「「「マスタ~っ」」」」うん、こっちも全員顔真っ赤だな。

「お、お前ら。本当によくやってくれた。よく、守ってくれた。お手柄だ!」


「「「「「「「は~い」」」」」」」


 みんな、集まって抱き合った。ちょっと前までは、危なっかしくて使い物になるのか怪しいと思っててごめん。


「ホントに、頼もしい子たちでわたくしびっくりしましたわ。これからも、後宮の警備にあたってくださいね」セレーネも感謝しているようだ。

「はい、畏まりました」とミゼールが嬉しそうに応えた。

 七人の侍女隊は、後宮の警備でいいな。でも、酒はほどほどにな!


 ちなみにアリスも頑張ってくれてたらしい。そういや、ニーナと練習したよな。その後、全然使って無かったみたいだけど侍女隊のフィールドを強化してくれてたらしい。


「捕縛隊が、一点突破して来ようとしたとき、アリス様が抑えてくれたんです」とミゼール。

「もう、私も破れかぶれよ。とにかく、あのマッチョに捕まりたくなかったし」とアリス。生理的に受け付けないという顔だ。


「そこで、ウリス様が空き瓶投げつけて、捕縛隊が目を回して倒れたのよね」とニーナ。

「やれば出来る子なのである」と胸を張るウリス様。

「エリス様は、目からビーム出そうとするし~」とミルル。

「なに? ビーム出したのか?」


「もう少しだった」残念そうに言うエリス様。

「やろうとはしたんだ」そんなの俺にも出来ないぞ。てか、出来たら怖いぞ。


「やっぱり、使ってないとダメね。担当神に求められてはいないけど、覚えておかないとね。今なら神化リングがあるから効果も大きいし」とアリス。

「わたくしも、少し覚えておこうかしら」とイリス様。

「我も、後で教えてもらうのだ」ウリス様も?

「絵からビームとか出せないかな? 筆からビームとか?」エリス様、なんかヤバそうな事言ってるんだけど。エリス様の絵はマジで神力込めてるからなぁ。ビーム出せるかも。


  *  *  *


 それから俺は、神界評議会で惑星リセットの請願が取り下げられたことや、うちの女神様を評議会から追い出した神様にペナルティが下ったこと、執行官が降格になり研究所関係も元通りになることを説明した。


「やっり~!」

「やったわね!」

「ざまぁ、なのである!」

「もう、おしりぺんぺんよ!」いや、エリス様。それ、俺の影響じゃないよね? しぐさが可愛いけど。


「これで一件落着かな?」もう安心していいんだろうか?

「まずは、そうでしょうね」とイリス様。

「大丈夫よ」とアリス。

「大丈夫なのだ」とウリス様。

「平気平気」とエリス様。

 そうか。女神様がそう言うなら、安心出来るな。


「でも私、リュウジの同列神になったのよね~」アリスが感慨深そうに言った。

「あ、それってどういう意味なの?」第一神様に聞けなかった。

「えっと、一応リュウジの眷属なんだけど、配下というより兄弟のような同列の神ということね」

「ふーん、やれることとかは、俺とほとんど同じってこと?」

「そうね」


「ふふ、リュウジ、それって神の世界で言う結婚みたいなことよ」とイリス様。

「なんだって~?」

「ああ、違うわよ。あえて言えばってことよ。人間の結婚とは違うの。同列つまり、かなり近い存在ってだけだし。特に何かあるわけでもないし」アリスが慌てて説明する。


「ふふ。そうね。これで、アリスもリュウジと同じ第一神様の直属の眷属扱いになるわね」

「なるほどそういうポジションなんだ。ん? ちょっと待て。俺、第一神様の使徒だよな?」

「違うわよ。同列神って言ったでしょ? 第二位の神よ」

「神? なんで? またまた~、ってか俺、聞いてないし」

「……」

「……」

「……」

「……」

「マジで?」

「まじよ」とアリス。

「なにこれ、何かの陰謀? 俺じゃまずいだろ。俺、嵌められてる? なんか、ヤバい気がビシバシするんだけど。ドツボにハマってる気がするんだけど」


 すると、イリス様がちょっと可愛い考えるしぐさをしてから言った。

「ううん、どうかしら。結局今回の騒動は第一神様直下の神々の派閥争いみたいなものだったのね」


「神界の派閥争いか。あれ? もしかして今回、そこに新しい派閥が出来ちゃったり?」

「ん~っ? そうかもね」イリス様は周りの女神を見ながら言った。

「やっぱりか」


「でも、第一神様が弱って眠りについちゃったからこそ、勢力争いが起こってたんだけど、どうも第一神様が復活しちゃったみたいじゃない?」とイリス様。

「そうね。不思議ね」とアリス。

「そうなのだ。びっくりなのだ」とウリス様。

「私、もう会えないと思ってた」何気に凄いこと言うエリス様。


「そうだったんだ。いや、神化リングをちょっと貸したら、パワーアップしたみたいでな」


「「「「え~っ!」」」」


「あ~っ、そういうことなのね。もう元気一杯だったものね。神化リングにそういう効果まであるとは思わなかったわ」とイリス様。

「そういうことだったんだ。それで第一神様がリュウジを眷属にしたんだ」とアリス。

「なるほどなのである」とウリス様。

「リュウジ、やっぱり怖い子」とエリス様。


「でも、そうなると、リュウジは第一神様復活の功労者ってことよね。これは大変なことよ」とイリス様。

「そ、そうなんですか」

「それはそうよ」とアリス。

「当たり前なのだ」とウリス様。

「リュウジ、怖過ぎ」うん、俺もちょっと怖い。が、いまいち実感がない。てか、既に眷属にして貰ったし、嫁達も助けて貰ったけど?


「でも、どうしてリュウジが第一神様を知ってたのかしら?」とイリス様が不思議そうに言った。まぁ、そうだよな。


「あぁ、たまたま会ったというか、もしかして運命?」ちらとウリス様を見る。

「我は関係無いのだ」

「いや、神界に転移したあと、全体を見渡せそうな場所探して高原台とかいうところに行ったんだ。そしたら、たまたまそこに第一神様がやって来たんだよ」

「……」

「……」

「……」

「……」


 あれ? みんな、何故か目を丸くして絶句している。


「リュウジ。それ、たまたまじゃないわよ。そこ、第一神様の住処よ」

「なに?」

「畏れ多くて、普通誰も行かないわよ」とアリス。

 イリス様や他の女神様達もあっけに取られている。いや、そんなこと言われても、知らないものは知らないし。別に立ち入り禁止になってなかったし。


「えっ。じゃぁ、俺いきなりボスの家に押し掛けたのか?」

「ボスって。ま、まぁそうね。まぁ、あんたが、こういう奴だって分かってたわよ」とアリス。

 さすがに微妙な顔。そんな顔されてもなぁ。大体、家なら家らしくしといてくれよ。どう見ても公園だろアレ。まさか、石像が動き出すとは思わないし。


「でも、どうして高原台に行けたのかしらね」さすがイリス様、気が付いた。

「ほんとだ。使徒には行けない筈よね」とアリス。

「こっちのほうが、不思議なのだ」とウリス様。

「人知れず、神になったリュウジ」とエリス様。

 そういや、神様の誕生って、どうなってるんだろ? こういうもんなのか?


「上位神の私も知らないのに。いつの間に神になったの?」とアリス。

「いや、俺に聞かれても困る。運命?」ちらりとウリス様を見る。

「我は何もいじってないのだ」とウリス様。

「気が付くと神」とエリス様。なにそれ? 何かのキャッチコピー?

「やっぱり、リュウジは変!」とアリス。

「不思議ね」とイリス様。

「運命というより謎なのだ」とウリス様。

「ナゾ~」君、古いアニメ見たよね?


「ふふ。でも、お陰で一安心ね。第二神だもの」イリス様は、いつものやさしい表情に戻って言った。

「そうね、リュウジ。もう大丈夫」とアリス。

「そうなのだ。何も心配ないのだ」

「リュウジ、イケイケ」あれ? それ、新バージョン?


 それにしても、今回は流石にまいった。魔王化して神界に殴りこんだと思ったら、神になって帰って来るとかわけ分かんないし。っていうか、神って知らない間になるもんなのか?


 あ~、でも暢気なこと言ってられないかも。神界って確か超ブラックなんだよな? これ、喜んでる場合じゃないかも。かなりマズいのかも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る