第49話 建国宣言、そうだ迎えに行こう!-出発-

 神聖アリス教国建国の本来の目的「特効薬を大陸中に配布し魔法共生菌を根絶すること」を効率よく実行するために、信頼できる国として認知してもらわなければならない。このための具体的な方法を考えている。

 立派な王城を立てて国力を誇示するというのは今更無理だし、この場合あまり効果がないと思う。そもそも、ただ待っていても誰も来てくれない。それで俺は、嫁達に加え聖アリステリアス王国の王様も交えて建国宣言成功のための策を相談した。


「見ず知らずの奴が、いきなり建国するからって呼び出しても来てくれないよな。親書出してもだめだろう? 最悪、いたずらと思われて無視されるだろうな」俺は談話室のソファにもたれ掛かりながら、正直なところを言ってみた。

「うむ。わしから紹介出来る国も限られるしのぉ。自国の事で手一杯の国も多い。そもそも国交がない国ばかりなのじゃ。衰退して消滅してしまった国もあるじゃろのぉ」王様はお茶を飲みつつ、遠い目で言った。

「それも、どうかと思いますけどね、この世界。これを機にホットラインくらい作っときましょう」

「うんっ? ほっとらいん?」と王様。

「はい、今度作った神魔フォンを各国に配布して、国家間ネットワークを作るんです」

「なんと、壮大なことよ」王様は、俺の話を聞いてから一呼吸おいて驚いた顔で言った。

「ま、仲良くするも喧嘩するも好きにしたらいいけど、連絡だけはつくようにしときたいですね」

「しかし、大陸中に連絡など出来るのかのぉ?」王様はピンと来ていないようだ。

「はい、お任せください」

「そ、そうか。頼もしい限りじゃ」と王様。でも、半信半疑な顔だ。


 神界局からの呼び出しになるんだけどね。出なかったら、神罰下ることにしようか? って、冗談でなくなりそうだから止めとこう。


「じゃ、仕方ないから、こちらから高速神魔動飛行船で迎えに行きますか。あれで行けば、こちらの力量も分かるでしょうし下手なことはしてこないでしょう」俺は提案してみた。交通手段の発達していない世界では、他国は遠い。高速な移動手段が出来たことを示せば、世界はもっと近く感じるようになるだろうしな。

「蛮族などから攻撃されるやもしれんぞ」王様は、心配そうな顔で言った。確かに、見慣れぬものが来たら蛮族でなくても攻撃するかも知れない。

「あ、防御フィールドを張るんで攻撃されてもびくともしません」しっかり、その辺は用意している。

「なんと、そうであったか。それは安心じゃな」王様も納得したらしい。てか、何故か嬉しそう。

「じゃが、あれで長旅が出来るのかのぉ?」なんだか、興味が湧いて来たようだ。

「ああ、普通の客席だとダメでしょうけど、王族を乗せるなら貴賓室を増設すれば大丈夫でしょう」

「おお、そうか。それは楽しそうじゃ。ならば、わしも付き合うぞ。わしのカスタムモデルを載せていってもいいかのぉ?」あれ? 王様、別の目的見付けてる?

「そのくらい、かまいませんよ。でも、王様一人で大丈夫なんですか?」

「うん? そーじゃのぉ。流石に国外で、しかも王族と会うとなると近衛は必須かのぉ」

「ですよね~。まぁ乗せるくらいは出来ますが。あの近衛自動乗用車隊で大丈夫ですか?」

「そうじゃの、それとウィスリムくらいかのぉ」と王様。従者はカウントしなくていいんだけど?

「あ、あの紳士な従者の方ですね。最近見ませんでしたがお元気ですか?」

「うん? ああ、そうか。あやつ、実は従者ではなく宰相なのじゃ」

「そうだったんですか。腰の低い出来た人物のようですね」

「うむ。あやつのことは信頼している」

「でも、宰相なら忙しくて来れないのでは?」

「そうじゃの。宰相だが、外交としてなら出られるだろう」と王様。なる程、聖アリステリアス王国は神聖アリス教国を紹介する立場になるのか。

「なるほど。そうなると、町長くらい連れて行かないとダメか。あ、元老院議長だった」

「それはそうじゃろう」

「済みません。まだ、国の意識が薄くて」

「まぁ、予定した行事でもないし目的にあった人間を連れて行けばよかろう」

「そうですね」


「よし、世界中を走り回って来るぞ」王様、完全に趣味全開モードだ。それを、隠そうともしていない。いや、もちろん最大の目的を忘れてなんかいないと思うけど。たぶん。

 ちなみに、最新の王様カスタムとは、カスタムモデル2神魔動乗用車である。


「父上、ずるい! わらわも行くのじゃ!」リリーがいきなり割り込んで来た。

「いや、お前はダメだろ。身重なんだから」と俺。

「全然平気なのじゃ。わらわは最後だからな」と言って胸を張る。

「いやだめだ、お前絶対車に乗ろうとするだろ」

「む、無理は絶対しないと誓うのじゃ」絶対乗らないとは言わないんだ。


ー リュウジ、連れてってあげなさいよ。妃も必要なんでしょ?

 神界から見ていた女神アリスから声が掛かった。

ー でも、リリーに何かあったら困る。

ー イリスも見てるから大丈夫よ。

ー イリス様が? そうか。わかった。ありがとう。

ー どういたしまして。


「わかった。女神様が見てくれるって。でも、無理はするなよ」

「本当か? リュウジ、大好きじゃ」

 こういうときの「大好き」は信用ならん。けど、可愛いから許す。


  *  *  *


 神聖アリス教国の建国宣言に合わせ、各国の代表を高速神魔動飛行船で迎えにいくなら、相応の準備が必要となる。また、応諾してくれたとしても、それぞれの国情などもある。早めに迎えに行く必要があるだろう。出産ラッシュが四月頃からとして、遅くとも三月には建国宣言したい。となれば、二月には各国へ向けて出発しなければならない。一か月では一国あたり四日程度しかない。俺は一月中の出発を目標に準備を進めた。


 高速神魔動飛行船は、上層展望室の天頂部に飛空デッキ(リュウジ専用)を追加。貴賓区画は左右5区画を追加。また、外壁には絵師神エリス様にお願いして女神アリスの肖像画を描いてもらった。これはそのまま神聖アリス教国の紋章とする予定だ。


  *  *  *


 一月の末、なんとか神聖アリス教国代表団の派遣準備を整えた。

 まず最初に目指すのは「ナディアス自治領」とした。ここは、遥か昔に聖アリステリアス王国が自治を認めたらしいのだが、その後の交流が殆どなく今に至るとのこと。つまりナディアス自治領は国ではない。国ではないが、いきなり大国を相手に交渉というのも心もとないとの意見で、最初の交渉相手に決まった。


「国の外交をやることになるとは思ってもいませんでした」

 町長改め、神聖アリス教国元老院議長マレスは緊張した様子で言った。この国では首相を兼任している。内政については今までと変わらないと言っていたが、流石に外交となると別らしい。

「あまり、固く考えなくてもよろしいでしょう。外交も結局は人づきあいですから」王様の指示で急遽やって来た宰相のウィスリムが言った。頼もしい。出来ればマレス議長を指導してもらいたい。

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