第47話 高速神魔動飛行船-就役-

 神魔力融合現象によるエネルギー革命が始まった。

 ただ、地上界でエネルギー革命を起こすには、ひとつ問題があった。今まで存在しなかった神石をどこから供給するかということだ。地上で神力を込めた石を供給するとしたら、神力の元となる信仰を集めている教会が最もふさわしい。そこで、神石は教会から供給することにした。

 勿論、神父には事情を話した。女神様も了承済みである。


「やはり、そうでしたか。神界は思ったより近かったのですね」神父は薄々察していたが、打ち明けてくれるのを待っていたようだ。やっと心のしこりが取れたというような晴れ晴れとした表情が印象的だった。もっと早く話すべきだったかもしれない。神父には悪いことをした。そりゃ、分かるよな。


 これで神石の問題も解決したので、堂々と神魔モジュールを製造することが出来るようになった。


  *  *  *


 最初に作ったのは神魔フォンのバッテリーだ。魔石と神石を一緒にしたモジュールで、見た目は角型の電池に近い。まぁ電極っぽいのは、プラス極とマイナス極じゃなくて神極と魔極なんだが。どこかで、壮大な名曲が流れそうな端子だ。

 この神魔モジュールには二つの種類が存在する。神力主体の神力モジュールと魔力主体の魔力モジュールだ。地上で使うのは魔力モジュール、神界で使うのは神力モジュールという訳だ。神力モジュールは神様と使徒用なので俺の周りはみんなこれだ。神力を流し込めるのは俺達だけだからな。


 次に作った神魔モジュールは大型のものだ。用途は自動荷車の神魔力版、つまり神魔動車だ。神魔モジュールの開発と並行して神魔動車の開発も進められた。

 神魔動車に内燃機関のようなメカニカルなエンジンはない。駆動装置だけだ。魔力で車体を直接加速するからだ。爆発音がしないので石炭エンジン・マニアは残念がっていた。

 この神魔動エンジンの特筆すべき点は、車体が浮いても加速に問題がないということだ。通常の車と違い、地面から浮いても加速できるからだ。つまり、オフロードの荒い斜面でも平気で駆け上がる事が可能だ。


 当然のように、王様大喜び。「ちと、エンジン音が寂しいところじゃ」とか言いながら、山道で「ぬぉおおお」とか叫んで遊んでいる。近衛兵に言って引き取ってもらおうかな。てか、この人、居付いちゃってるんだけど、大丈夫なのか聖アリステリアス王国。まぁ、帰りたくない理由は分かるんだけど。


 それはともかく、神魔動車が無音と言っても全く音がしない訳ではない。実際には、加速を加えたときにちょっと高音の振動が発生する。「キーン」という感じの高い音がするのだ。ちょっとジェットエンジンっぽい。良く言えば、未来的な音と言えなくもない。リリーはこれが気に入ったみたいだ。

 ただ、安定期とはいえ身重なので、さすがに乗り回したりはしていないけど、乗りたくてうずうずしてるようだ。


「これじゃ~っ、これこそがわらわのカスタムモデルにふさわしいエンジン音じゃ~っ!」

「まぁ、メカニカルなエンジンはないけどな」

「エンジン音じゃ~っ」

「だから、駆動装置が振動してるだけで……」

「うるさいのぉ。エンジン音じゃ~っ!」

「そうですね」

 まぁ、力学的エネルギーを生み出していることは確かなのでエンジンでいいのだが。

 ともかく、神魔動エンジンの完成である。フライホイールとかはありません。


 で、こうなってくると次はお待ちかね、大型飛行船だ。原理的には飛行艇をデカくしただけなので、作業は多くなるが比較的簡単だ。むしろ、喫茶室やシャワー室、洗面所など水回りに時間が掛かった。

 飛行船というと、ヒンデンブルクを想像してしまうが、こっちの飛行船はガスで浮くわけではないので、ガスの部分が全部客室や倉庫になる。ま、あそこまで大きい必要はないので、飛行船と旅客機の中間的なフォルムになっている。


  *  *  *


「あんた、またこんなとんでもない物を作って」高速神魔動飛行船のお披露目にやって来たマドラーばあちゃんが、呆れ顔で言った。それでも、ちょっと楽しそう。

「マドラーばあちゃんの弟子だからね」

「何言ってんだい。じゃ、乗ってみるかね」

「おばあちゃん、リュウジに腰の治療して貰った?」とミルル。ミルルはまだ出来ないからだ。意外と難しいようだ。

「ああ、もうぴちぴちさ」いや、それはないです。


 教会前広場の端、街を見下ろす場所に高速神魔動飛行船は着陸した。まだ正式な発着場はないので、暫定である。飛行船からタラップが下されると、集まっていた人々が吸い込まれていった。今日は、最初の公開飛行なので無料で住民を招待したのだ。


 飛行船は、速いと言っても長距離飛行が前提なので長時間搭乗する。その間、着陸ができないので、客室の他に医務室や洗面所、展望室、喫茶室、貴賓室などが用意されている。

 飛行船客室は下方の景色が見える下層の席が人気だ。展望室にもなっている。上部にも展望室はあるのだが視界が制限されるので、あまり人気がない。


 今日の公開遊覧飛行は、聖アリステリアス王国を一周する予定だ。王国最北端のここキリシス地方を出発して王国西端を南北に走るロズ山脈に沿って南下。海を臨む南国リゾート地ピラールで進路を反転、東の湾港都市国家シュゼールを迂回して北東に抜け、王都を遠望しながら森林地帯まで行く。ここで北西へ変針、出発したキリシス地方に戻るというコースだ。


  *  *  *


 乗客は、旅行という習慣のない人たちばかりなので大騒ぎだ。下層展望席に陣取って、弁当片手に見るもの全てに大興奮である。ぷかぷか浮いてあまり動かない地球の飛行船と違って、高速神魔動飛行船はあっと言う間に山を越えていく。


「すげーっ、もうキリシスの山が見えないぞ~っ」

「おい、あれっていつも雲を見て天気を予想してる山だろ?」

「ああそうだ、あんなんなってんのかぁ。あの山の裏側なんて初めて見たぜ」

「おい、あの山の裏側って、平原みたいになってんだなぁ。蛮族アブラビとか怖い奴らがいるんだろ?」

「そうそう。山の向こうで良かったよ。あの山は越えちゃぁ来れめぇ」


 街の住民は、もちろん初めて見る景色だ。旅をする商人でも上空から見ることはないので驚きの連続である。写真もない世界なので、来れなかった人に口で伝えてやろうと食い入るように見ている。きっと、何倍にも膨らませた話になるんだろう。それがまた面白いんだが。


  *  *  *


 貴賓室は重要である。特に、うちの場合は。


 まず、王様がいる。

「婿殿、これは絶景じゃのぉ。長く続くアリステリアス王家でも、王国を上から見渡したのはわしが初めてじゃろうな。わははは」

「まぁ、あなたったら。女神様達の前で恥ずかしいですわ」と使徒テイア。

「そうですわ、お父様」とセレーネ。

「ほんとうに」とアルテミス。

「なのじゃ」おい。

 嫁達も、安定期だし振動もないということで乗っている。後宮にずっといるのも飽きるしな。

「おお、そうじゃった、そうじゃった」女神様と懇意にしている王様、余裕の笑み。


 普通なら王様がトップなのだが、ここではさらに上がいる。調子が狂ってしまうのも仕方がない。王様の奥さんも使徒だしな。


 使徒と言えば、俺の嫁達もいる。

「自分でも飛べるけど、こんな高さには来ないから、これはこれでいいわね」とニーナ。

「楽でいいね~」とミルル。

「はい、気分転換になります」とセシル。

 さすがに、空を飛べる使徒組は余裕だ。


 最後は何と言っても神様席。神棚とかじゃありませんよ? そんな形ばかりの神様席じゃありません。実際来てるし。乗ってるし。ソファーにもたれて、お酒飲んじゃってるし。おまけに使徒を顎で使うし。


「リュウジなにしてるの? こっちきて、説明してよ」

「いや、俺より詳しいでしょアリス。担当神なんだし」

「だから、景色じゃなくて、この飛行船とか飛行コースの話よ」

「どんな?」

「ほら、ここが最初に降りたサバンナです。そのあと、召喚をキャンセルして帰ろうとしましたとか」

「うっ。だって、召喚条件書いてたんだし」

「あら、凄いわね。さすがリュウジね」とイリス様。

「ほう、大胆なのだ」

「えぇ~、リュウジって怖いんだぁ。気を付けよう」すみません、エリス様。何に気を付けるんでしょうか? 鏡に映った後光に気を付けるんでしょうか?

「バラすわよ。リュウジ」とアリス。俺の考えたことが聞けるのは、上位神アリスだけなので、他の神様には聞こえていない。

「なになに? 教えるのだ!」いや、ウリス様、なんでも興味示すの止めましょう。っていうか、ウリス様も一緒にいたんだけど。もしかして、ウリス様って、いつも確率操作して遊んでるんだろうか?

「そう、ウリスは確率操作して、いたずらすることしか考えてないわね」とアリス。

「あ、バラしてはダメなのだ」とウリス様。

 本当なんだ。運命のいたずら。


 この高速神魔動飛行船の完成により、薬剤を含め大量の物資の高速輸送が可能になった。この世界を一段と成長させる、新たな可能性の誕生である。女神アリスに約束した「ゆっくり回復する世界」をはるかに凌駕した「急速に発展する世界」になってるが、気にしない。


 ちなみに神界のエネルギー革命については、実際に神化リングを渡しちゃったので、大騒ぎになってはいるようだが、前代未聞の出来事なので簡単には結論が出ないようだ。とりあえず神界の力を大幅にアップさせるということで、好感をもって話されているとのことだ。

 ただ、神界がこの世界に依存してしまうので警戒されるかもだけど。まぁ、結論を急ぐ必要はないだろう。

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