第42話 特効薬

 聖アリステリアス王国の王様はカーレース以降もずっと俺の館に滞在していた。

 もう、完全に来た目的忘れてるんじゃないだろうか? 特にお気に入りなのか女神湯にはよく入っている。ま、王様は使徒じゃないので女神様は現れないんだけど、入浴後はすこぶる機嫌が良い。


 ガラスの姿見を見たときは、映った自分に向かって何度も「何奴!」とか言って盛り上がってたし。もしかして、アミューズメントパークと勘違いしてる?


「いや、この露天風呂というやつは、病みつきになるのぉ。夏の暑いときでも気分よく入れるから最高じゃな」


 などと言って上機嫌だ。特に夏の露天風呂が気に入ったようだ。


「そうですね。それがこの露天風呂の醍醐味です」


 俺も付き合って入っている。もう、ハーレムスケジュールは終了してるしな。


「しかし、冬は逆に寒かろう」と王様。


「流石に天候の悪いときはダメですね。でも、外壁を立ててお湯を熱めにしてやると大抵は気持ち良く入れますよ」


「ほう」


「雪の降った後に、雪見酒しながら入るのもいいです」

「なんと。風呂で酒を飲むのか!」


 王様、妙に食いついて来た。好きなのかも。王都に帰ってから作りそう。


「しかし、お主には驚かされてばかりじゃな」


「すみません」

「いや、お主はこの世界を救ってくれた英雄なのじゃから何も悪いことなどない」


 さすがに、このヒュペリオン王は身内になるので、神聖アリス教国の建国計画だけでなく女神様や使徒の話は全部バラした。とても隠しきれないからな。


「それにしても、ここに来る前にいろいろ驚いておったので、流石にもうないと思ったが、さらに輪をかけて驚くことになるとは思わなんだ。まだまだ、わしも修業が足りんということじゃな」


「恐れ入ります」

「なに。気にすることはない」


「はい」

「リュウジ殿。娘たちを、どうか良しなに」

「お任せください」

「うむ」


 そんなところへ外から声が掛かった。


「リュウジ、リュウジ」


 ニーナの声だ。


「なんだ、ニーナか? 今、王様と一緒だ」

「うん、分かってる。とりあえず、一報を入れとこうと思って。特効薬、見つけたよ!」


「なに! マジか~っ。やったな~っ!」

「うん! 詳しくは、後で」

「おう。分かった。ありがとー」


「婿殿! やりおったな!」

「はい、王様!」


「それがあれば、この世界は救われるのだな? 魔法共生菌からも、神界からも」

「はい、その通りです!」


「うむ。これで一安心じゃな」

「はい、王様。まだ、第二第三の特効薬の開発も必要でしょうが、これは最初の一歩です」


「ううむ。なるほどのぉ、これで終わりではないのじゃな。用心深いことじゃ。いや、確かに薬とはそうした物やもしれん」


「はい。でも、本当に大きな前進です」

「婿殿、聖アリステリアス王国は全力で支援すると約束しよう。期待してよいぞ」

「はい、ありがとうございます」


「そうなると、忙しくなるのぉ。神聖アリス教国の建国は早めたほうがいいじゃろう。王城も作らねばな」


「そうですね。大陸全土に薬を送るなら、信頼を得ないといけませんからね」

「そういうことじゃな」


  *  *  *


 風呂から上がったら、ニーナ、セシル、ポーリンを中心に嫁達みんなが談話室に集まっていた。


「やったなニーナ! セシル!」


 俺が声を掛けたら。二人とも駆け寄って抱き着いて来た。おお、最高の気分だ。俺の嫁最高!


「お前ら、本当に良くやってくれた」

「何言ってんの、ししょ~のおかげじゃん」

「そうですわ。リュウジさまの指示通りですわ」


「いいや、お前らが遅くまでしっかり調べてたじゃないか。お前らの手柄だ。もう、心配したぞ。でもこれで、堂々産休だな!」

「はい、ししょ~」

「はい、ダ~リン」

「えっ?」


「アニメのセリフだそうです。ちょっと言ってみろってアリスさんが」

「ああ、びっくりした。何教えてるかなぁ?」


 っていうか、女神様なかなかいい趣味だな。でも、これ言わせるならニーナのほうだと思うけど。


 ちょっと可愛かったのが、二人の後ろからポーリンが抱き着いてるところだ。


「ポーリンさんも、ありがとうございます」

「ふふ。産休前に滑り込みセーフですね!」


 このひと……この使徒、絶対アリスとタブレット見てるよね。

あと、「この使徒」って言うと江戸弁に聞こえるな。って、どうでもいいこと思い付いてる俺だった。


「本当によくやってくれた。わしからも礼を言う。これで、この国は、いやこの世界は救われるじゃろう」


「王様。ありがとう御座います」とニーナ。

「もったいのう、ございます」とセシル。


「お父様。これがわたくしの『新しい姉妹』ですわっ」ここでセレーネが胸を張る。

「姉妹かなるほど、そうかも知れんな」と王様。

「わたくしの、誇らしい姉妹です」とセレーネ。

「そうですわね」とアルテミス。

「そうじゃの」とリリー。


「私、セレーネは私の嫁だと思ってるわ」とニーナ。

「まぁ、それも素敵ですわ」とセレーネ。

「はい、素敵です」とアルテミス。

「いいのぉ」とリリー。


 ニーナの旦那グッジョブ!


  *  *  *


 ニーナチームが見つけた特効薬は非常によく効いた。

 抗生物質だから乱用はまずいが、おそらく他にも色んな病気にも使えるだろう。

 まずは魔法共生菌の撲滅に使うのが優先だ。主な患者が幼児なのでシロップタイプの薬になるだろうということだった。

 そういうポーリンも興奮気味。セシルも涙浮かべてる。これで安心してみんなで子供を育てられるってもんだ。そりゃ、あんなヤバイ細菌がいて世界が終わるかもって状況で子供を育てる決意はなかなか出来ない。その心配が、大きく軽減されるんだから喜びもひとしおだ。


 まずは、薬の安全性を確認して……と思ったが、これ神様のお墨付きがあるのか? なら、いきなり量産していいんじゃないか?

 ポーリンに聞いてみたら「はい、大丈夫です」とのこと。よし、いける!


  *  *  *


 薬の量産体制を敷くのは、開発するのとは違った苦労があると思う。

 町長に頼んで、医薬品生産プロジェクトを立ち上げて貰うことにした。

 特に衛生面に気を付けないといけないので、この時代では結構コストが掛かるはずだ。誰か良い責任者をと思っていたら、ネムがぜひやりたいと言ってきた。ニーナやセシルと仲がいいので適任かもしれない。


 医薬品生産は、立ち上げに成功したら生産は王都などにも広げるつもりだ。

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