第38話 バッテリー無いじゃん!

 魔力フォンと神力フォンの可能性だが、電波の代わりは見つかった。魔力波と神力波、どっちもあった。と言うか作れた。

 で、この2つ、たぶん別物として機能する。つまり、混信しない。周波数が同じでも混信しないで両方使えるのだ。つまりバンド2倍あるのと一緒。プラチナ回線2倍ですよ! って、俺キャリアかよ。神界ネットワークと地上界ネットワークが並行して存在することが出来るわけだ。

 到達距離は、まだ実際に作ってみないと分からない。ってことで、早速具体的な開発が始まった。


 魔動回路設計など具体的な物はミルルチームに任せるとして、問題は電源だ。魔力フォンは魔力だから魔石でいいんだけど、神力フォンで使う神石ってのが存在しない。つまりバッテリーがない。神バッテリーなのに「ない」って、どゆこと?

 神界に魔石を持って行ってもいいのかもしれないが、神力だらけの場所で魔石はないよね? ってことで、神石の開発は俺の担当になった。魔石も大量にあるわけではないので出来れば人工的に作りたい。


 で、魔石のエキスパートと言えばやっぱりミルルしかいない。神魔研究所に行って聞いてみた。


「そもそも魔石は、魔力を充填した物なんだろ?」

「たぶん。よく分かってないけど魔法共生菌が結晶石に溜め込んだんだと思う」ミルルも予想でしかないようだ。

「結晶石?」これは聞いたことないものだ。

「うん。透明な結晶で、魔力を溜めると魔石になるって言われてるよ。魔石は黒いけど、魔力を使い切ると透明な結晶石になるから」なるほど。

「それ、手元にある? 実験したいんだけど!」

「うん、おばあちゃんとこにあるよ」


  *  *  *


 それで、早速マドラー魔道具店に来てみた。


「結晶石かい。ああ、あるよ。ちょっと待ちな」


 マドラーばあちゃんが結晶石を探している間、ひさしぶりに工房のテーブルで待っていた。ここに初めて来たのって、ずいぶん前のことのような気がする。


「あった、あった。これだよ」そう言って、マドラーばあちゃんは麻袋から取り出した結晶石を作業テーブルの上に並べた。

「魔道具に使えるかと思って仕入れたんだけど、結局使ってないんだよ」そう言ってばあちゃんは大小様々な大きさの結晶石を見せてくれた。本当に透明度が高くガラスのようだった。

「魔法使いが魔力を溜めたりしないんですか?」

「魔法使いそのものがいないからね。いても買うのは魔石のほうさ」

 なるほど、自分で溜めるほど魔力がないもんな。


 俺は小ぶりの結晶石を手に握って神力を少し込めてみた。すると、結晶石の中に神力が吸い込まれていった。神力は白い筋となり毛玉のようにぐるぐると纏まっていく。


「これで、出来たのかな?」

「へぇ。魔力は黒いけど、神力は白いんだね。驚いたね」俺の手元にある結晶石を覗き込んだマドラーばあちゃんは、目を丸くしていた。


 実は、マドラーばあちゃんにはミルルの完全使徒化の時、俺たちが使徒だってことはバラしている。「そんなこったろうとは思ってたさ」マドラーばあちゃんの反応は、これっきりだった。やっぱり、俺の行動がバレバレなんだろうか? 気を付けないと。


「はぁ~っ。神石なんて、初めて見たが綺麗な石だねぇ。長生きはするもんだ!」


 確かに。白いというより、ちょっと銀色が混じった毛玉が水晶の中に浮いてる感じだ。


「どれ、ちょっと試してみるかね」そう言って、マドラーばあちゃんは俺が作った神石を温風扇、つまり魔力ドライヤーにセットした。普通は魔石を入れるところだ。おもむろにスイッチを入れると勢いよく温風が吐き出された。


「こりゃ、全く魔石と同じだよ。驚いたね~」

「やっぱりそうですか。何故か、魔動回路って神力でも使えるんですよね。神魔動回路って言うべきかも」

「確かに、そうだね」マドラーばあちゃんも、感心した顔で言った。


「あれ、こっちの結晶石は?」

「あぁ、そりゃ空になった魔石だよ。見た目、結晶石と同じだろ?」

 俺はテーブルの端に転がっていた石を拾い上げた。

「ってことは、神力溜めれば神石にもできるのかな?」そう言って、俺は空になった魔石に神力を込めてみた。


「おお、出来る。空になった魔石は完全に結晶石ですね」

「やっぱり、そうかい。そういう話は聞くけど、実際に見るのは初めてだよ。まぁ、今回は神石だけどねぇ」

「そうですね」


 出来上がった物を、さっき作った神石と比較してみたが、全く違いは無かった。どっちも温風扇で使えた。


 俺は、調子に乗って別の空の魔石を拾い上げて、充填しようとした。


バキッ


 神力を流そうとした途端に結晶石は大きく割れた。

「なんだこれ?」俺は手の中で割れた結晶石をマドラーばあちゃんに見せた。

「握り潰したんじゃないのかい?」マドラーばあちゃんは、俺の手を覗き込んで言う。

「いや、軽く握って神力込めただけなんだけど」

「ちょっと、待ちな」そう言うと、割れた結晶石と普通の結晶石をテーブルに並べて置いた。


「同じに見えるね。こりゃ、検魔器で見るしかないね」

「検魔器?」

「魔力が残ってるかどうか調べる道具さ」言うと、マドラーばあちゃんは棚から検魔器を取り出し、手際よく割れた魔石を乗せた。


「ああ、まだ少し魔力が残ってるね。見た目じゃわからないがね」どうも、検電器のようなもののようだ。

「なるほど。とすると、結晶石の中で魔力と神力が反発したんでしょうか?」

「さぁ、分からないね。神力を入れること自体、初めてだからね」とマドラーばあちゃん。


「これは、いろいろ調べたほうがいいな。この結晶石全部売ってください」

「そんなもの、タダでいいよ」

「いやいや、仕入れたものは代金払わなくちゃ。それと、これは大量に仕入れられるんでしょうか?」

「ああ、近くに鉱山があったはずだよ。綺麗なものは宝石の代用になるからね。ただ、あまり流通はしてないから、欲しいなら自分で採掘するしかないね」

「わかりました」


 俺は、結晶石と検魔器を貰い、代金を受け取らないので代わりにマドラーばあちゃんの腰痛を治療してから教えてもらった採掘場所へと飛んだ。千里眼とスキャンですぐに場所が分かったからだ。殆ど露天掘りに近い形で大量に手に入る。俺は、持てるだけ持って帰って来た。


  *  *  *


 帰る途中、神魔研究所に寄って、ミルルにも実験結果を教えて結晶石を渡した。神力フォンの開発に使って貰うためだ。


「へぇ、神石って初めて見た~」ミルルは面白そうに手に取って言った。

「神界でも見たことありませんねぇ」ポセリナも興味深そうに見ている。

「神力があれば、簡単に充填出来るね~」ミルルは、さっそく神石を作ってみた。

「うん、神界では神力は腐るほどあるから結晶石は小さくてもいいかもね」

「でも、魔力フォンも同じ構造だよね? 魔力は自分で充填出来ないから小さくは出来ないよ?」とミルル。

「そこは、小さい神石でも使えるようにしておけばいいだろ」

「あ、そだね」

「あとは、外から残量確認と神力の充填が出来るように、窓を開けておくとかかな?」

「うん」


「あ、そうそう。注意点なんだけど、魔力が少し残ってる結晶石に神力流すと結晶石が割れるよ」

「えっ? なにそれ?」

「いや、今日マドラーばあちゃんと実験してて、空だと思った魔石に神力込めたら割れたんだよ」

「見た目は、空の結晶石なんだ」

「うん、検魔器使って初めて分かる程度」

「ふーん。それじゃ、魔力と神力の検出器付けたほうがいいかもね? 検神魔器かな」とミルル。


 検神魔器って微妙な名前だな。神様度とか悪魔度を検出しそうな名前だ。身体測定で「ちょっと神様よりですね」とか「ちょっと悪魔入りました気を付けましょう」とか言われたり……って、アホな空想してる俺だった。神様充填百パーセントとか強そう。


「うん、出来れば検神魔器付きで頼む。あと、これは魔力専用、神力専用って結晶に書いておくとかしてもいいかも。色分けでもいい」

「わかった。そういうの、統一したほうがいいよね?」

「そうだな。よろしく~」


 初めて、規格というものを作ってしまうかも。

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