神聖アリス教国建国編

第37話 神託は〇〇でね!

 朝というと、普通は穏やかに目覚めるものだと思う。消えゆく夢の余韻を楽しみつつ、静かに目覚めるものなのだ。それなのに、いきなり頭の中で声がするって言うのはね、精神衛生上よろしくないと思うのですよ。人間としては。


ー ねぇ、ねぇ。

 なんだろ~。最近女神様、妙に馴れ馴れし過ぎじゃないかな? というか、気軽に呼び出し過ぎな気がする。

ー ぽん、ぽん、ぽん、ぽ~ん。ただいま、留守にしております。御用の方は後ほどお掛け直しください。

ー 何よそれっ。

ー だって、寝てたのにぃ~。留守電にしたい。

ー あんた、時々電話とか言ってるけど、それって何?

ー あれ? 知らない? 俺の居た世界で、個人で連絡し合う時に使う機械だけど。っていうか、スマホも電話だよ。

ー えっ? あれって、本じゃなかったの?

 もしかして、スマート本?


ー あ、本に近いのはどっちかっていうとタブレットのほうだな。スマホっていうかスマートフォンは本来は電話なんだよ。あ~、少なくともネーミングは電話だな。相手からの呼び出しに出られないときは拒否ったり出来るんだ。

ー 誰かを呼び出すときはどうするの?

ー ああ、1個ごとに番号付いてるんだよ。その番号で呼び出すんだ。

ー それ、いいわね! 神界にも欲しい。

ー 欲しいって。神界は、神力で直接会話できるじゃん。

ー そうだけど、それは私と使徒とか、私と上位神とかだけだから。直接依存関係ない神様とは話せないのよ。

ー え~っ。まじか。完全な縦割りか。それ、不便そう。横のつながりも大事なのに。

ー そうなのよ。ねぇ、あんた、それ作れないかしら。

 あれ? これヤバいフラグ立ってる?


ー あ~っと、何かなぁ? 最近、物忘れが激しくなってるなぁ。

ー 何言ってんのよ。だから、神界の電話よ。

ー 深海にふか~く、沈めよう。

ー だめだめ、蜘蛛の糸で引き上げるから。

ー 諦めが肝心です。

ー 使徒のくせに、なに初めから諦めちゃってんのよ?

ー いや、だって神界のことは神界でやって貰わないと。

ー 違うでしょ。あんたは、もう半分こっちに来てるんだから、他人事じゃないのよ。こっち来た時使いたいでしょ? 嫁と話せなくていいの? じゃ、そういうことで開発よろしくね。こっちの神様が必要だったら協力して貰うから。


 まずったなぁ。ま~、欲しいっちゃ欲しい。けど、いくらなんでも無理だよなぁ。まぁ、こっちのプロジェクトはうまく進んでるからいいんだけど。でも、魔道具とか大変なんだよなぁ……あれ? そういや魔力と神力って似てるから、魔道具で作れば神道具としても使えるのかな? もしかして簡単に繋がる? あ、ちょっと面白いかも。ミルルに相談してみるか。


 それにしても女神様、何の用で連絡して来たんだろ? まったく、おっちょこちょいなんだから!


  *  *  *


 で、携帯電話もどきを作るとしたら、まず電波をどうするかだ。たぶん、電波じゃ神界まで届かない。そもそもこの世界じゃ電気を使ってないから電波を使うのは無理だろう。

 となると、電波の代わりに使えそうなものを探すしかない。電力の代わりはやっぱ神力だよな。神力の周りには神気があって、電気の周りに磁気があるのと似てる。もしかして電波のように飛ばせたりする?

 魔力も同じように神気みたいなフィールドがあればいいんだが。魔気とか。魔力で電話作れたら魔力フォン、神気で電話作ったら神力フォンだよな?

 魔力フォンと神力フォンを繋いだら、神界と電話出来そう。「神託は電話でね!」なんて出来るんだ。やるかどうかは別だけど。あ、こっちの神様ルール的には神託しないんだっけ。


  *  *  *


 神託はともかく、魔力と神力の研究をやっている神魔研究所を訪ねてみた。と言っても、うちの敷地だから直ぐなんだけど。

 神魔研究所・神魔基礎研究班。ここは、神力と魔力の関係、その基本的な性質を研究するチームだ。


「ちわ~っ」

「あ、リュウジさん、いらっしゃい。お~いっ、ミルル~。リュウジさん来たよ~っ」近くにいた使徒ポセリナがミルルを呼んでくれた。ポセリナは研究の指導に来てくれている。

「あれ~? 今日はどうしたの?」ミルルが出て来た。

 俺は、女神様から依頼された神界で使える神力フォンの話をしてみた。ついでに、この世界で使う魔力フォンのことも。


「何それ、おもしろそ~っ。遠くの人と話せるの? 凄いね!」とミルル。うん、君が作るんだけどね。

「でも、後光を通信に使うって、いいのかぁ? 問題ないのかなぁ?」とミルルは心配そうに言う。うん、そう。俺も気になってた。ちょっと問題ありそうだよな?

「それ、面白いです!」横で聞いてたポセリナが言った。あれ?

「それ、別の神の使徒とも話せるんですよね? いいですね! ボクも使ってみたい!」使徒が面白がってるから大丈夫かも。

 食いつてきた彼は、いや彼女かもしれないが、神界から来た純粋なボクっこの使徒だ。神界で魔力の研究者というのも面白い。性別は不明だが、使徒として長く生きているとポセリナのように中性的になっていくんだろうか? ちょっと嫁達が心配ではある。後で女神様に確認しとかないとなぁ。


「面白い? とりあえず、こっちの世界だと魔力を使うので後光に似たフィールドがないか調べたいんだけど」

「ああ、それならありますよ。魔力場って言ってます」あっさりとポセリナが教えてくれた。

「あるんだ! じゃ、神力場が後光?」

「そうなります」

「それって、高速でオンオフすると電波のように遠くまで飛ばないかな?」

「電波? どうかなぁ? でも、神界と繋ぐなら魔力か神力を使うのがいいでしょうね」

「だよね。電波が神界に届く筈ないし」

「はい。無理ですね」やっぱり、無理らしい。


「電波って、どうやって飛ばすの?」これはミルル。やはり技術的な興味があるようだ。

「ああ、アンテナっていう電波を発射する装置があるんだよ。神力場、魔力場も同じ光速だろうから、たぶん同じように使えるんじゃないかな」

「なになに、詳しく教えて……」

 ということで、神力フォン・魔力フォンの開発がスタートした。


  *  *  *


 俺がミルルやポセリナとの話が終わって帰ろうとしていたら、横から声が掛かった。


「あ、リュウジ! いたいた」魔法共生菌特効薬研究班のニーナだ。後ろにセシルもいた。

「ん? どした?」

「うん、特効薬について、ちょっと相談したいんだけど」とニーナ。

「特効薬? いいよ」

 それで、俺は特効薬研究班に向かった。


 特効薬研究班にはニーナとセシルが所属している。

「リュウジに言われた方法で、特効薬になりそうなものを調べてるんだけど難しいのよね~っ。魔法共生菌にダメージ与える成分が見付からないの。何か良いアイデアないかなぁ?」

「魔法共生菌の培養は問題ないよな?」

「うん、そうね。エナジーモジュールの時の方法で、上手く行ってる」

「感染しなかった私の口内環境も調べてみたんですけど、殺菌する成分は見つかりませんでした」とセシル。

「そうか。まぁ、人間は免疫を持ってるからな」

「はい」


「細菌を殺菌するいい薬ってないの?」ニーナが言う。

「う~ん。殺菌かぁ。人間に使える薬だよなぁ。あ~、そういえば俺の世界じゃ抗生物質ってのがあったな」

「なにそれっ!」俄然ニーナが食いついて来た。

「え~っと、なんて言うか、細菌の増殖を止めたり、破壊する成分が自然界にはあるんだよ。たぶん、微生物同士の生存競争でそういう毒みたいなやつを生成するんじゃないかなぁ? 俺の世界では、そういう成分をカビから抽出してた」


 後ろにいた使徒ポーリンが手を打っている。

「なるほど。生物は皆それぞれ自衛手段を持ってますからね。その成分かも知れませんね」知ってはいても下界に手を出さない使徒らしい反応かも。

「あ、あんま詳しくないんで間違ってるかも知れないんですけど、細菌が原因の病気に使ってたと思います」

「ふむ。人間に毒にならないものを探せばいい訳ですね。では、いろいろ取り寄せて試してみましょう」ポーリンさんはあっさりと言った。

「えっ? なに? 微生物が別の微生物を殺す成分を作ってるの?」

「うん、まぁ、そんな感じ。微生物の最大の敵はやっぱり微生物ってことで、他の微生物を殺す毒を持ってたりするんじゃないかな」

「ああ、そうか。敵対してる微生物を仲間にするわけね!」とニーナ。


 これで特効薬の開発も進めばいいんだが。

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