第36話 神聖アリス教国の建国に向けて
神界から戻ったある日の執務室に、俺と嫁達が集合した。
「魔法共生菌の根絶にすぐにでも手を付けたいお気持ちは分かります。ですが、まずは神聖アリス教国の建国を優先すべきですわ」セレーネが皆に向かって言った。
国名は『神聖アリス教国』。「聖アリステリアス王国』から連想した名前だが、あっさり決まってしまった。まぁ、教会の総本山もあるしいいか。
「勿論、リュウジ様提案の研究所はすぐに稼働させます。建設費程度で済みますので問題ありません」とセレーネ。
「ですが、大陸諸国へと展開するにあたっては大きな信頼、資金そして権力が必要となりましょう。それが出来なければ、例え薬が完成したとしても無駄になってしまいます。それだけは、わたくし看過出来ませんの」
こうして、神聖アリス教国建国プロジェクトが始動した。プロジェクトリーダーはセレーネである。サブリーダーはアルテミスとリリーがあたる。これは、将来の各国との折衝を考慮した上での人選だ。やはり聖アリステリアス王国の王女として教育を受けた彼女達が適役ということになった。
セレーネもやる気を出している。さすが第一王女様だ。
* * *
ほどなくして神聖アリス教国の建国が町長や議会の面々に了承された。聖アリステリアス王国からの承認の申し出もあり、神聖アリス教国の建国事業は街の正式なプロジェクトとして承認された。聖アリス教会も支援を表明してくれた。ほぼ現状を維持したままスタートし、少しづつ変えていく計画だ。当面は建国準備期間として国の基礎作りを行い、正式に建国を宣言するのは二年ほど後になる予定。
一方、魔法共生菌研究プロジェクトのほうは俺とアリスが共同で運営することになった。神界から医療関連の神様や使徒を招聘して、研究員となる俺の嫁達を教育して貰う必要があるからだ。
つまり、魔法共生菌研究は建国プロジェクトとは独立して極秘裏に進めなければならない。このため私的活動として、研究所は俺の屋敷の敷地内に建設した。教会の拡張に伴って、教会が俺の屋敷にはみ出しているが、この裏手にひっそりと建てた。これで、俺に出来ることはほぼ終わったと言える。
ちなみに、ひっそりと建設した研究所だが、研究で煮詰まったら、うちの女神の湯で気分転換ができると神界から来た使徒たちに好評だった。気が付くと、いつの間にか神界から降りてくる使徒が増えている。暇だったんだろうか? というか、こっそり神様もいたりする。
ということで、風呂でのことは口外無用、治外法権ということになった。ここ風呂だよね? 神界の出島みたいなことになってるんだけど。あとシスター達、うちの風呂に向かってお祈りするのは止めましょう。
そういえば、神界に露天風呂ってないのかな? 風呂の神様がいたら聞いてみたい。あ、一瞬空の上からの眺めを空想したが、神界は空にあるわけじゃないから期待してもだめだよね。そういうの、後で造るべき?
* * *
空の露天風呂はともかく、俺と嫁達による二つのプロジェクトは概ね軌道に乗った。そんなある日、俺の執務室にはセレーネを初め俺の嫁たちが集められていた。
「いま、私たちは最大の危機に直面していると言えるでしょう」セレーネは、大きく宣言した。
「魔法共生菌研究プロジェクトおよび神聖アリス教国建国プロジェクト。この二つの活動は言うまでも無くわたくしたちの重要な仕事です。ですが、それにも増して重要な課題に今、私たちは立ち向かわねばなりません」そう言って、セレーネは一同を見渡した。
「そうです。子作りです」セレーネはきっぱりと言った。
「猶予は既に一年を切っております。この期限までに、なんとしても新たな希望をこの身に宿さなければなりません」セレーネが言うと、集まった嫁達も大きく頷いた。
「ここに集まった私達は決して敵ではありません。共に手を取り合って輝かしい未来を勝ち取ることのできる戦友なのです!」
な、なんだこのノリは?
「そこで、ここに心強い味方をお招きしました。神界よりおいでいただいた豊穣の女神、イリス様です」そう言って、セレーネはイリス様を紹介した。
イリス様、豊穣の女神だったんだ。なんか納得した。
「ようこそ、おいで下さいました」
「ねぇさま、いつ見ても素敵!」とアリス。
「わたし、あの時女神様二人に会っていたんですね」とニーナ。
「ニーナ、イリス様にも会ってたの? さすが、女神の宿だね~」とミルル。
「いや、それ言うと信者が巡礼に行くからやめとけ」
「アリスの使徒の皆さま、初めまして。豊穣神イリスです」おもむろに、イリス様は話し出した。
「皆さまからの強い願いを聞き、神界より参りました。この世界の危機にあり、あくまでも子を成すことを求める崇高なあなた達の願いを豊穣神として見過ごすことは出来ません。これは元より人間の、そして生ける者すべての唯一絶対の使命なのですから」そう言うと、女神イリスはそのやさしい眼差しで俺達を見渡した。
「これより、女神の湯に祝福を与えます。あなた達の願いは、この湯に浸かってのち一夜を共に過ごせば必ず叶えられるでしょう」
「まぁ」
「マジですか」
「では」
女神イリス様、それだけ言うと、さっさと女神湯へ。
あれ? イリス様、女神湯に入りたかっただけって事はないですよね? 俺、信じてますからね? ちゃんと祝福もして頂けますよね?
「リュウジ、私たちも行くわよ」と女神アリス。
「アリスはいいだろうけど、俺もなのか?」
「イリス姉様が連れて来いって言ってたわ。あんたにも祝福しないとダメだからって」
「あ、なるほどね。じゃ、みんなで行くぞ~」
「はい、ししょ~。ああ、これでなんとかなるわね。可能性かなり低かったから」とニーナ。
「わたしも~。完全に使徒だし神力使ったし~」とミルル。
「わたくしも、完全に使徒ですからダメかと思ってました」とセシル。
「あと、効果は今夜だけじゃないんだってよ」
「本当ですの? ああ、よかった」とセレーネ。
「ねぇさま、心配しすぎ」とアルテミス。
「だって」
「そんなことより、みんな行ってしもうたぞ。わらわたちも行くのじゃ」
「そうね」
* * *
露天風呂に着くと、既にイリス様とアリスが湯に浸かっていた。いつもより眩しいというか、ちょっと後光を抑えてくれませんか?
「何を言ってるのリュウジ。初めから後光は抑えてるわよ」とアリス。
「本当に? 美しすぎる女神様がふたりもいるからか」
「ふふ。さぁ、リュウジこちらへ。祝福します」とイリス様。
「はい。あ、なんか近すぎませんか? 罰当たったりしませんよね? これゼロメートル神力シャワーですけど~」
「リュウジ、びびりすぎ」と横で見てるアリスが笑って言う。
「はい、結構よ」そう言ってイリス様はを俺を解放した。
「あ、ありがとうございます」びびった。
「ああ、でも、より確実にするには、時々来て祝福したほうがいいかも知れませんね」あれっ?
「この湯、お気に召しましたか?」
「ええ、とっても」
「お姉さま、これからは一緒に入りましょう」
「そうねアリス。それがいいわ」やっぱりか。でも、全然おっけ~です。大歓迎です。
やや遅れて嫁達全員が入って来た。デカい湯船にしといてよかった~っ。
「でも、これで建国と同時にお家断絶にならずに済みますわね」とセレーネ。
「えっ、セレーネ、そんな心配してたの?」俺は驚いて言った。
「勿論ですわ。第一王女が嫁いで子供を授からないなんて許されませんもの」
「そうか。王女も大変だな」
「ま、わらわたちもいるから、それほどでもないがな」とリリー。
「セレーネお姉さまは特に責任感が強いから」とアルテミス。
「そうじゃの」
「あなたたちったら」
「私達、この湯に浸かってるだけでいいの?」ニーナは少し心配らしい。
「リュウジ~、これでいいの~?」とミルル。
「ええ、そうね。できれば、二人で湯に浸かってから一夜を共にするのがいいでしょう」イリス様が安心するように言った。
「では、当番制にしょうか?」セシルが言った。
「うん、ハーレム・スケジュール管理しよ~」とミルル。
ハーレムって、こんなんだっけ?
* * *
この後、魔法共生菌の特効薬の開発を進め、神聖アリス教国は魔法共生菌撲滅に多大な貢献をしていくことになるのだが、それは「神」と「魔」の長い歴史の始まりでしかなかった。
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