第39話 わたくしも出来ました
ある日、俺がこの世界に来て最も衝撃的なことが起こった。そう、俺の子供が出来たのだ!
豊穣の女神イリス様の祝福のおかげで、めでたくニーナが懐妊したのだ。本当に出来ちゃったよ。イリス様流石です。正直効果を甘く見てました。この世界の女神様ってガチですね。女神湯マニアってだけじゃないんですね~。
「ししょ~っ、やったよ~っ! お産婆さんが懐妊だって~!」
ニーナが談話室に飛び込んできて言った。
「マジか! やったーっ! でかした~ニーナ!」
「おめでと~っ、ニーナ!」とミルル。
「おめでとうございます。ニーナさん」とセシル。
「ニーナさん、やりましたわね!」とセレーネ。
「ニーナさん、おめでとうございます。ああ、わたしも早くほし~」とアルテミス。
「やったのじゃ! さすが、ニーナなのじゃ」とリリー。
「よし、今日は国民の祝日にしよう。懐妊記念日。月に『祝ニーナ懐妊』とか書いちゃおうか」
「ばかね~、そんなことしてたら一年中休日になっちゃうわよ! あと月に書いたら、離婚だからね!」
さすがに、ニーナ苦笑い。
「だって、この喜びをどうしたらいいんだ? あ、保育所作ろう。後なんだ?」
「パワー有り余ってるんなら、土木工事でもしてあげたら? 堤防とか」
「いや、堤防もう作ったし。あ~っ、そうか。ないこともないな。うん、わかった」ちょっと思い付いた。
* * *
翌朝、澄み渡る空気の中、教会前広場に立った俺は街を見下ろしていた。
まずはこの大通りだ。まだ誰もいない大通りを見渡し、危険のないように道に沿って防御フィールドを張る。そして、そのフィールド内にエナジービームを放った。
「よしっ! いい感じだ」
町の大通りは、一応舗装されているのだが、古くなってボロボロになっていた。これを、懐妊記念に一気に舗装し直したのだ。
「この大通りは、今日から『ニーナ大通り』としよう」
俺、大満足。ま、男はこんなことしか出来ないんだよな。あと、後宮という名の出産、保育施設の建設を決定した。石材とか作っちゃおう。
王宮は、まだ旧領主館のままで暫定だけど、正式なものは後で作る予定だ。
神聖アリス教国は対外的にはまだ建国していないが、実際には既に国として動いている。
* * *
それから1か月くらいの間に俺の嫁は次々と懐妊した。
2番目はセシルだった。当然、東の大通りは『セシル大通り』になった。3番目がミルル。こっちは西の大通りで「ミルル大通り』にした。
これで、使徒三人組が懐妊したことになる。この三人を一番気にしていたので一安心だ。
だが、一度に三人もとなると館の使用人も大騒ぎだ。
大体、メイドが足りない。急遽募集をして増やすことになった。後宮が完成したら、乳母役も雇わないといけないだろう。研究所のほうもスケジュールを調整する必要があるな。
* * *
そんなこんなで、慣れないことに走り回った俺は、一人女神湯に浸かっていた。
「失礼いたしますわ」
湯船にもたれ掛かっていたら、セレーネが入ってきた。
そうか、今日はセレーネの日か。リリーがスケジュール管理してくれているんだっけ。
「セレーネ、お疲れ」
「いえ、わたくしは大したことはしてませんわ。初めてのことばかりで勉強になります」
「初めてなんだから、無理はするなよ」
「はい。ありがとうございます」
セレーネは隣に来ると、ほっと息を吐いた。
「うん?」
「わたくし……半年前でしたら想像もつかない事を、今しているんだなと思いまして」
セレーネは、ちょっと遠い目で言った。やや陰のある、あまり見たことない表情だ。
「半年前の、わたくしは。実は絶望の中にいたんですの」
「そうなのか?」
「はい。もともと衰退する国の第一王女ですから、特別なことではありませんが」
そう言ってから、ちょっと自嘲気味に笑った。
「出来ることは滅亡を遅らせることだけ」
「そうか」
「それでも、わたくしなりに頑張って考えていたんですの」
「けれど、援助してくれる筈の国が飢饉になり、王子も亡くなりました」
いくら対策を考えても悪いほうにしか転ばない状況で、腐らずにいるのは大変だっただろう。押し寄せる波のように、何時までも悪い知らせが届くのだ。ちょっと耐えられないかも。
「そんな時ですのよ。リュウジさまが現れたのは」
「う、うん」
「わたくし、何としてもあなたに娶って貰わなくちゃって思いましたわ」
「……」
「滅びつつある国を携えて嫁に来る女なんて不良債権もいいとこですわね。でも、なりふり構っていられませんでしたの。それを、リュウジさまは受け入れてくださいました。わたくし、本当に……」
「それ以上言わなくても分かるよ」
「はい、でも本当に感謝していますの。これだけは、言葉にしてお伝えしておかなければいけませんわ。聖アリステリアス王国は『辺境の名も知れない魔法使い』に救われたんですもの」
「俺は、いい嫁を貰っただけだ。妻としても、王妃としても」
そう言うと、セレーネは寄り添ってきて、柔らかく笑った。
「リュウジさま。一つだけお願いしてもよろしいでしょうか?」
「うん? なんだ?」
「わたくしを、いつまでも側に置いていてくださいませ」
「ああ。手放す気は全くない」
「嬉しいですわ」
「辺境の名も知れない魔法使いか」
「はい。そして、わたくしの夫ですわ」
* * *
その後、セレーネ、アルテミス、リリーと懐妊した。
俺は、今度は街の外の街道を順に舗装していった。セレーネ街道、アルテミス街道、リリー街道が出来た。
これからこの国、神聖アリス教国は、この大通りとこの街道を通って発展していくのだ。この道が動脈となり、さらに国中、大陸中に活力という新鮮な血液を送り続けるだろう。
実際、商品の流通だけでなく郵便システムも始まった。物と情報の動脈なのだ。しかも高速の。
この街道を自動乗用車でかっ飛ばすのだ。
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