第27話 自動荷車、大評判となる
水道プロジェクトの成功により食糧生産能力は大幅に向上した。
さらに新たな農地の開墾が実施された。これにより、食糧生産能力は大幅に増大した。もちろんこれは予定通りである。
だが、夏も半ばを過ぎるとその食糧生産が大豊作となることがほぼ確実となった。本来余裕をもっていただけあって、秋の収穫は街で必要な量を大幅に上回ることになったのだ。
これを受けて町長から自動荷車生産プロジェクトの立ち上げを要請された。
食料の生産は上手くいった。しかし、街の人口が増えたわけではない。この分だと、大量に生産された作物を全部収穫できるかどうか怪しくなって来た。
さらに、収穫した作物の販売や他の地域への輸送となると見当もつかないと言う。現在の街の人口では、とても対応することが出来ないと言うのだ。そうなると、折角作った作物が無駄になってしまう。
これを解決する手段は、只一つ。迅速な輸送手段を用意するしかない。そこで自動荷車である。
ただ、自動荷車の生産と流通には多くの職人や技師が必要になる。
街は人手不足ではあるが、町長の要請により食料生産に直接従事していない比較的余裕のある鍛冶師と馬車製作者、あるいは家具職人や塗装職人などが集められた。
街を上げてのプロジェクト第二弾である。
また、並行して進めていた鉄の精錬も、製鉄プロジェクトとして立ち上げられた。
街のプロジェクト第三弾である。こちらも街の重要な産業になるだろう。
これらのプロジェクトにより、街の中で職にあぶれるものはいなくなった。さらに、他の地域からの移民も推奨された。
どちらのプロジェクトも道筋は俺が引いた。
だが、水道プロジェクトと同様に、立ち上げ後はサポートに回ることにした。プロジェクトは、ここの住人主体で推進しなければ、将来的に維持できないからだ。
水道事業同様、立ち上げ時の報酬プラス、サポート料で、俺は経済的には十分すぎる金銭を受け取ることになった。当然、惜しみなく設備費、材料費に投入することにした。
街で放置されていた区画を使って、農業地区に加え、自動荷車地区、製鉄地区が新たに作られた。さらに倉庫など物流地区も追加で建設された。
結果的に、放置されていた街の外郭部分は、これらの新しい産業区として整理されたわけだ。産業特化型の街の誕生である。
俺は可能な限りの時間と費用をかけて大量生産用の汎用自動荷車を設計した。
タイプは2種類、荷馬車タイプの自動荷車と乗用馬車タイプの自動乗用車だ。この設計はミルルとミルルの知り合いを入れた2チームに分けて作業した。これで、後はちょっとサポートするだけで継承できるだろう。
* * *
この汎用自動荷車の出荷は収穫期から順次始まった。
予想通り好評で、工場から出荷されると、その瞬間に売れて行った。元々試作の頃から目立っていた上に、女神像の運搬で実用性をまざまざと見せつけたのだから当然だ。「大事なものを運ぶなら自動荷車」そんな話まで聞こえてくるほどだ。
さらに収穫に間に合った分は作物の運搬に大きく貢献した。その機動力の大きさを、証明して見せたわけだ。
当然のように予約は更に凄いことになっていった。
自動荷車の出荷に伴い、この秋に収穫され倉庫にうず高く積まれた食料は次々と隣街や王都、さらには隣国へと運ばれて行った。
販売されたのは食料だけではない。自動荷車それ自体や鉄製品も街の特産品として各地へ送られた。特に鉄製品は生産量は限られていたが、その特性が高く評価され戦略物資となった。
また、物流も含めこれら新しく生まれた産業は冬の間の新たな働き口となった。
収穫後も仕事がある「休まない街」。そんな風に言われるようになった。
そう、いつの間にか一大産業都市が誕生していたのである。
* * *
大通りに面した商店が活況を呈したのは当然、脇道の店舗や市場の出店にも商品が溢れかえり人だかりが生まれた。
「らっしゃ~い、らっしゃ~い」店の呼び声も威勢がいい。
「おじさん、それ丸ごとちょうだい」
「ねぇさん、大丈夫かい? 小分けもやってるよ?」
「とんでもない、うちはお客さん満杯でね~。これじゃ足りないくらいさ~っ」
「ほぉ、そりゃ景気がいい。そんじゃ、これおまけだ、持ってきな~っ」
「あんがとよ~っ。また来るね~っ」
こんなやり取りが、あちこちで聞かれる。どこも繁盛している。
「お、おれ、ついに自動荷車買っちまった」
「マジか、どうだった?」
「すげ~っぞ、ぶったまげた」
「どのへんがすげーんだ?」
「そりゃ~っ、おめ~っ、うちの倉庫の壁ぶち破るくれ~だ」
「そりゃ、すげ~な。で、どうなった?」
「親父に勘当された」
だよね。
住民が街の中心に小さくまとまり、周りに空き家が広がっていた半年前の姿からは想像も出来ない。建物は全て人で埋まり、空き地には家や商店が新築された。それも、空き家があったからこそ出来たことだった。全てを新たに用意する必要があったなら、こうはいかない。
ただ、さすがにここまで発展すると、それでは足り無くなる。最近は街の外壁拡張計画まで検討され始めた。
* * *
夕陽の沈む街を館から見下ろしながら俺は気が付いた。
聖アリス教会はともかく、ここへ来て俺はちょっとやり過ぎたと。繁栄することはいいことだが、手を貸し過ぎたらその後の発展を逆に阻害してしまうかも知れない。脈絡なく先進的なものが現れても継承出来ないなら逆に障害になってしまう。
多くの天才が成し遂げたことを一気に提供してしまったのだからインパクトは大きい。天才には本来それを支えるバックボーンがあるものなのだ。
今後はサポートに努めようと思う。元々俺は、この世界でハーレム作って遊ぶつもりだったのだ。もういいだろう、ハーレムだけで。
「ねぇ、ハーレムは分かったから、こっち来て湯船につかりなさいよ。風邪ひくわよ」ニーナが俺を呼んだ。
そう、うちの露天風呂が完成したのだ。中二階ですこぶる眺めがいい。当然のように混浴だ。ま、客がいれば別だが。
見ると、ニーナ、ミルル、セシルが露天風呂の中から俺を呼んでいる。
「リュウジはやく~」
「はやく、こちらへ」
セシルは教会を辞めてうちに越してきた。
嫁になったのに、いつまでも魔動具使って転移してくるほうが可笑しい。聖アリス教会では結婚してもシスターを続けられるらしいのだが、うちに来たほうが女神様に近くなると喜んでいた。
それはそれで、変なんだけどね。
「ニーナ、俺の考えてること読めるようになったのか?」俺は怪訝に思って聞いてみた。
「そうね。口に出してたからね」
気が付かなかった。アリスの前だと全部バレるので、思った事をそのまま口に出すようになってたのか? 気を付けよう。
「美女と露天風呂か。あ、これって、温泉回か?」
「オンセンって何よ」いや、実際温泉じゃないし。危ない危ない。
「オンセン? また、リュウジの不思議な話だ~」
「リュウジさん、語り部だったんですか~」セシルさん、それ違います。ん? フカ〇話?
「でも、こんな風にみんなで楽しくしてたら、女神様が羨ましがりますね」
セシルが不穏な感想を言う。
「えっ?」いやいや。
「そうね~っ、一緒に入ったら楽しいのにね」ニーナも同意らしい。
「いや、ちょっと待て」それ、やばいって。
「うん、楽し~っ」ミルルまでか。
「素晴らしいです」とセシル。
いや、だからそんなこと言ったら、来ちゃうよ。ぜって~見てるし。
「いや、さすがに教会の隣の、しかも露天風呂じゃまずいでしょ」
紳士で常識人の俺は言う。ちゃんとくぎを刺して置く。
「そう? でも、人間アリスさんとしてならいんじゃない? もう何度も現れてるし」とニーナ。
人間は突然、現れないけどな~っ。
「いや、その結果の『聖アリス教会』だろ? ここ聖地扱いされちゃうよ。女神の湯とか言われちゃうよ」
「タオル巻いたりしたら、いいんじゃない?」とニーナ。
いや、そういう問題では。
「でも、神界で顕現しすぎとか言われてなかったか? あれ、イリス様とか他の神様とかも見てるってことだろ? ヤバいんじゃないの? 特に最近神界で話題になってるんだからさ」
当然、アリスは見てた。
「もう、いいでしょ。入るわよ!」
どぼ~ん
「もう。仲間外れはなし!」
「やっぱり来たか!」
「いらっしゃいませ」とニーナ。
「アリス~、待ってたよ~」とミルル。
「アリス様、お待ちしておりました」とセシル。
この日以降、うちの風呂は当然のように『女神湯』と呼ばれるようになった。
誰だ、バラしたのは! しかも入浴希望者が殺到し、お断りするのが大変だった。主に隣のシスターたちからの希望が。いや、俺は大歓迎なんだが。
で、流石にそのままともいかず、教会の福利厚生施設として露天風呂を設置することになった。教会公認の女神湯である。
まぁ、水道が完成したおかげで地下水が増して綺麗な水がふんだんに使えるようになったからこそ出来ることなんだが。燃料は当然、自動荷車で使うようになった石炭だ。
教会では巡礼の後の女神湯がすこぶる好評で、さらなる信者を獲得したとか。
教会だよな? スパ『聖アリス』とかになってないよな? 身も心も清められ、健康にはいいだろうけど。
それと、後で思ったけど教会の風呂は、別に露天風呂にする必要は無かったよな~。しかも露天風呂を全部『女神湯』と言ってるような。ま、いいか。
ちなみに、神界では、うちの風呂に顕現しようとするイリス様を使徒たちが全力で止めていたそうな。
全然歓迎なのに。
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