第6話 お姉様のお迎え

 俺とアリスは宿の食堂に降りて遅い朝食を取ることにした。


「それで……魔力が使えるようになった訳だが、その使い方が神力と同じってどういうことだ?」


 ニーナが作ってくれた旨い朝食を平らげて人心地ついた俺は、真っ先に一番気になることを聞いた。場所が場所なので、ちょっと小声だ。


「そうなの?」


 アリスは全く予想外な顔で言った。


「いや、俺が魔力をいきなり使えるなんてオカシイだろ? 神力の使い方を埋め込まれてるからこそだと思う」


「確かに、そうね」


「もしかして、この魔力であっちと連絡できないかな?」


 とりあえず神界と連絡さえ取れれば問題は解決するからな。


「それは無理よ。私に魔力は流せないと思う」


「あ~っ、そう言えば、脳内表示はないな。この辺は違うんだ。でも魔力は使えるんだな」

「ああ、脳内表示は初心者向けだから。慣れれば無くてもいいのよ」

「そうなのか。この魔力って神力と違うのか? 同じように使えるみたいなんだけど」


「それが不思議なのよね。でも神力じゃないわよ。わたしに感知できない神力なんてないもの」神力については自信があるという顔だ。


「そうか残念……うん? どうした?」


 いきなり、アリスは目を見開いて椅子から立ち上がった。


「お、お姉さま」


 見ると、女神アリスとは違うが、それでいてアリスと同じかそれ以上の美しさと気品を合わせ持つ女性がそこに居た。


「ごきげんよう。こんなところにいたのね」


「ど、どうして」

「あなたが、召……ええっと、人を呼ぶって言ってたから気になって覗いてみたのよ。そしたら、こんなことになってるし。それで、迎えに来たのよ」


 どうも女神様らしい。食堂に他の客はいないが一応宿屋の中なので気を使って話しているようだ。


「ああ、お姉さま。ありがとう。ううぅぅ」とアリス。

「まぁ、泣かなくてもいいのに。いつまでも子供ね」子供ですよねぇ。よく言ってやってください。

「うぅぅぅぅぅぅ。だってお姉えさま」


「お姉さん?」

「あら、始めまして。私、この娘の先輩の;あlsdfです。あなたが招かれた方ね?」

「あ、どうも。リュウジです。あ、名前発音できないので仮に「イリス様」って言っていいですか?」


「よろしくね。ぁskdjfは何て呼んでるの?」

「アリスです」


 横でアリスが「あいうえお順か」っと小さくつぶやいているが無視。なんで、「あいうえお順」知ってるんだ? よく考えると、この世界でも神界でも、なんで言葉が通じてるんだろう? 話がややこしくなるので、今はパスすることにした。


「そう。じゃ、それでいいわ」


 そう言って、ふんわりと笑った。成熟した女性の微笑みだ。


「それで、なぜこんなことになってるのかは後でゆっくり聞くとして……アリス、一緒に帰りましょう」

「ええ、お姉さま。……あ、でも」


 そう言ってアリスは俺を見た。


「別に、いいぞ。戻れるってことは、正常になるんだろ? 後はこの世界が安定したのを確認して俺の仕事も終わりだよな?」


「そうね。問題なければミッションコンプリートね」


「もしかすると、魔法使いになって地球に帰ることになるかもな。それはそれでちょっと面白い」


 地球で魔法が使えたら、ちょっと凄いことになるからな。『異世界で修行してきました』的な展開だ。


「それは、謎のままだけど。それでいいの?」


「原因くらいは確認しとくほうがいいか」

「それはそうよ」


「魔法ですって?」思わずイリス様は怪訝な顔で聞いてきた。


「ああ、お姉さまには言っておかないとね」


 俺達はざっと魔法覚醒の話をした。


「そういう話は初めて聞いたわね。この世界特有なのかしら? 前の……係りは何か言ってなかったの?」

「いいえ全く。もしかすると神力の影響かも」


「あら? どうして、そう思うの?」


「あ、それ俺の受け売りです。魔法覚醒は普通、魔法使いが近くにいないと起こらないみたいなんで、俺の場合は魔法では無くて……」


「そう。そうかも知れませんね。いづれにしても、これは帰って報告する必要があるでしょう。急いで帰りましょ」

「はい、お姉さま」


 そこへ給仕のニーナが水を持ってきた。


「いらっしゃい。ご注文は?」

「あぁ、結構よ。もう、帰りますから」

「あ、はい」


「じゃ私、帰るから。戻ったら、また連絡するわね」

「了解、元気でな」

「あら、アリスさん帰られるんですか?」

「ええ、短い間だったけど、お世話になりました」

「いえ、どういたしまして」


 そう言って、二人はあっさりと帰って行った。たぶん近くの路地かどっかで人知れず転移してる。


「お見送りは、いいんですか?」

「あ? ああ、いいんだ。俺が送ってもらったようなもんだから」

「そうなんですか?」


 ニーナはイリス様に持ってきた水を俺の前に置いた。


「そういえば、奥さんじゃなかったんですね」

「え、ああ、そう思った? まぁ、親族と言うか家族みたいなもんだけど」

「家族? 親戚の方なんですね」

「まぁ、そうだな」

「そうですか!」


 なんだか、嬉しそうにしているニーナ。


「うん?」

「あの、もしかしてお暇になりました? もしよかったら、わたしがこの街を案内しましょうか?」

「うん? いきなりどうしたんだ?」


「実はわたし、魔法を使ってみたいんです」

「いや、魔法をって……魔法覚醒しないと使えないんだろ?」

「だから、リュウジさんと一緒にいたら覚醒するんじゃないかと思って。あ、不純な動機でごめんなさい」


 なるほど。出来るのか?


「ああ、そういうことか。俺ももう魔法使いか。他人を覚醒できるか分かんないけど」


 それで街を案内してくれるんなら助かる。


「けど、宿の仕事はいいのか?」

「もう少ししたら、お昼休みだし、今日はお客さんあまりいないから大丈夫です」

「そうか、じゃ~頼む」


 そんなことでアリスも帰っちゃったし、午後は魔法の調査は止めてニーナに街の案内をしてもらうことにした。美人ガイドゲットである。

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