第5話 魔力が使える

 俺は、そのまま二日間眠り続けた。

 あり得ないことだが、その間はアリスが俺を世話してくれていたようだ。いいのか俺。でも意識が無かったし。


「こ、ここは」

「リュウジ、起きたのね。体の調子はどう?」ベッドの脇で椅子に座ったアリスが言った。

「ん? ああ、女神様か。俺はどうしたんだ?」

「あなた、二日間寝込んでたのよ。いくら声をかけても起きないし、焦ったわ」

「まじか」


「医者が言うには極度の疲労だろうって。とりあえず熱もないし、安静にしてれば大丈夫だろうって言ってたわ」

「医者呼んだのか」

「神力尽きてたし、異世界へ来たばかりだから負担がかかったのかも。ごめんなさい」


 あれ? アリス、今日はちょっと違う?


「女神パワーじゃだめなのか?」

「だから、女神にそういう能力はないのよ。まぁ、あったとしても今は神力がないから無理だけど」アリスは悲しそうに言った。

「そうだったな。それで、俺みたいな使徒がいるんだもんな。それなのに、その使徒がぶっ倒れちゃ話にならないな」


 久しぶりに会話したせいか、ちょっと喉が渇いた。水を飲もう。


「とにかく、まずは安静に……って、あなた、なにしてるの?」

 俺は、指先から水を出して飲んだ。うん、喉が潤う。やっぱり俺が作る水は旨いな。

「うっく。ん? いや、喉が渇いてさ」

「そう。いえ、そうじゃなくて何で自分で出してるのよ」

「いや、そのほうが早いし。あ、貴重な神力使っちゃったか?」


「そんな。ちょっとまって、今のは神力を使ってないわよ。なんで神力がないハズなのに水を出せるのよ」アリスは慌てた様子で言った。

「いや、俺に聞かれても」


 俺は、さらに水を出して飲んでみた。出せる。飲める。旨い。三拍子揃ってます。


「いや、このくらいは出来るんじゃないの?」

「私からは神力流れてないわよ。完全にストップしてる」

「……」

「……どういうことだ? ま、まさか魔法か?」

「あなた、本当に人間?」

「いや、お前が聞くな」


 そんな話をしていたら、ドアをノックする音がした。


「おはようございます。ニーナです」ドアの外から声がした。


「ああ、宿のニーナさんだわ。どうぞ、入って」

「失礼します。お目覚めになったんですね、良かった~っ」

「ニーナさん、ずいぶんお世話してくれたのよ。私じゃ、いろいろ分からなくって」


 世話してくれたの、この人でした。良かったよ、いろいろと。


「そうか、それは済まなかった。ありがとう」

「いえ、これも仕事ですから」ニーナという娘はにっこり笑って応えた。

「重い湯桶を持って何度も階段上がって来てくれたのよ」


 この部屋は二階だった。ん? 湯桶? 体を拭いてくれたのか?


「おかげで、すっかり良くなったよ」

「本当に良かったです。到着してすぐ、こんなことになって申し訳ありません」ニーナは本当に済まなそうに言った。


「いや、別に宿のせいじゃないだろ」

「そうよ、気にする必要はないわ」

 可能性としてはあるが、それは分からない。

「そう言って下さるとありがたいです。えっと、それで……」


 ニーナは少し口ごもってから言った。

「ドアの外で聞こえてしまったんですけど、魔法がどうとか?」

「えっ? あぁ、うん。ええっと、魔法が使えたら便利だな~って話してたんだよ」


 ドアの外だと、どこから聞こえたか分からないので、何て言っていいか分からず意味不明になってるかもしれない。もしかして、ヤバいとこから聞かれてる?


「もしかして魔法が使えるようになったとかじゃないですか?」

「なんでわかるんだ?」

「え~っ! 凄い! あ、すみません」

 ニーナさん、思わず大きな声だしちゃうほど驚いた……というか、どこか嬉しそう。


「じゃあ、やっぱり魔法覚醒ショックだったんですね!」

「魔法覚醒ショック?」

「なにそれ。どゆこと?」


「え、聞いたことないですか? 魔法覚醒するときは、ある日突然二日ほど寝込むんだそうです。で、熱もないので安静にしてると治るんですけど」

「うん」

「いきなり、魔法が使えるようになるそうです」


「なんだって~っ?」

「それ、本当なの?」アリスも驚いている。

「ええ。話に聞いただけですけど。魔法に覚醒するときって、そんな風になるそうです。あ、おとぎ話にもありますよ」俺達が驚いてることに、逆に驚いるニーナが言った。


「ふうん、魔法の覚醒か。なんで覚醒したんだろ?」

「魔法覚醒ってよくあるの?」とアリス。

「いえ、私も覚醒した人を初めて見ました」

「珍しいのね」

「はい。この街にも、昔は覚醒した人がいたそうなんですけど今はいないみたいです。だから、お客さん凄いです! 覚醒できる人なんて、そういませんよ!」

「ああ、うん、まぁね」どうなってるんだ?


「とにかく、落ち着いて、下で何か食べさせてもらいましょう?」

「そうですね。食堂まで降りられますか?」ニーナは俺を気遣ってくれてるようだ。

「ああ、問題ない」


  *  *  *


「ニーナさんに、ヤバい話聞かれたかな?」ニーナが先に降りていった後、気になってアリスに聞いてみた。

「多分、大丈夫だと思うけど。彼女の気配は分かってたし」

「そうなのか?」

「地上界に手出しはできないけど、感知はできるのよ」

「そうなのか」


 世界全体のパラメータをいじるのと、状態のスキャンは出来るってことか。確かに、地上界にタッチしない神様ならそれでいいのか。普通、人間と係わらないんだしな。

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