第2話 そう言えば条件あったよな?

 気が付くと俺は荒野に立っていた。

 荒野というか、こりゃサバンナ? あんま詳しくないが草原地帯だ。確かこんな映像を見た記憶がある。きっとその辺にサーバルとか隠れてるに違いない。

 が、いきなり問題だった。せっかく用意した持ち出し袋が無い。あの女神のやろー。野郎じゃないけど、やってくれたな。俺のカバンどうしてくれる!


ー あ、ごめんなさい。ちょっと待ってね。


 いきなり頭の中で声がした。女神アリスの声だ。どうも、見てるらしい。そりゃそうか。


ー はい。カバン!


 そう言ったら、目の前に俺が用意したバッグが現れた。

「だいぶ、中身が減ってるんだが」俺は軽くなったバッグを手に言った。


ー この世界に持ち込めない物は抜いて置いたから、よろしくね。


 って、それじゃ緊急持ち出し袋の意味がないんだけど! バッグからは、しっかり電子機器が没収されていた。


「はぁ。分かったよ」


  *  *  *


 電子機器の没収は痛かったが、どっちにしろ何時まで使えるか微妙なものだし諦めるしかない。

 まぁ、電子機器の代わりに神力とかいうチート能力を貰ったわけだし、これを使えば何とかなるだろう。何とかなるよな? なんとかなる筈だ!

 たぶん。


 まずは、能力を確認しとかないと怖いな。あの女神のことを疑ってる訳じゃないけど、ちょっと抜けてるっぽいし、使ったことないものは使えないからな。


 能力については脳内で説明が表示された。ゲームかよ。まぁ、ゲームのものとはだいぶ違うけど。

 目の前にリストが出るわけじゃなくて、視野とは違う別ウィンドウが開く感じだった。マルチスクリーンと言うべきだろう。しかも、いちいち読み上げなくても表示したものは、そのまま一瞬で頭に入って来た。これが使徒の力か。半端ないな。


 そこには、こう書かれていた。


神力じんりょく操作一覧

 千里眼

 透視

 検索

 転移・顕現

 飛翔

 物質操作

 エネルギー操作

 フィールド操作(防御、反発、拘束)

 記憶操作

 治癒


 一覧で表示はされるが、それだけでは何のことか分からない。意識を集中すると項目が選択されて説明が表示された。説明が表示されると、同時に理解できた。すぐ理解できるのはいいが、一度は表示させる必要があるようだ。


 とにかく、使ってみることにする。

 まずは、飛翔だ。なんと言っても、この力は魅力的だ。古くからの人間の憧れだからな。

 もちろん、飛んで空から世界を見てみたいというのもあるが、自分で飛んだ時の感覚が楽しみだ。飛行機やロケットは、飛ぶと言っても結局は引っ張られて浮いているだけだ。自分で飛んでいるのではない。乗ってるだけだ。だが、この場合は自分から浮くはずだ。これは明らかに違う。


 脳内で「飛翔」を選択すると飛ぶ方法は直ぐに分かった。こういうテクニックの伴うものは体に覚えさせるようで、何も不安なく飛べそうな気がするから不思議だ。

 すーっと、浮き上がる。初めてなのに、良く知っているような感覚が妙だ。体全体が軽くなる感じ? 無重量に近いと思う。


 浮き上がったので少し加速してみる。問題無いが、そのまま飛ぶと風を強く受けて息苦しい。防風に使えるものを操作一覧から探して「フィールド操作」から防御フィールドを選んだ。

 これは正解だった。全く風を受けない。ぐんぐん速度を上げられる。これなら自由に飛びまわれる。

 ただ、高速で飛んでいると防御フィールドだけじゃ、ちょっと怖い気もする。何かに襲われたりしないのかな? 安全のため、攻撃する手段も試してみたいところだ。


 俺は岩場に降りて、脳内で攻撃方法を探った。ところが、何処にも見当たらない。魔法で言うと火の魔法とか無いのか? もしかして燃えるものに火を付ければいいのか? 「物質操作」で可燃性ガスを噴射して燃やそうとした。


「火炎放射!」

 ボーッ

 出ることは出た。だが、なんかちょっとしょぼい。


 「これでチートとか無いわーっ」と思ったが、なんとなく理由が分かった。燃えるものが無いからだ。この神力じんりょくって、物質を生成する能力はないらしい。

 とりあえず、無から有は出せないとして、そうなると神力はエネルギー源として使うほうがいいのかも知れない。例えば、「エネルギー操作」だ。


「エナジービーム!」

 ジーーーーーッ。バーン


 熱線をビーム状に出して岩に当ててみたら、岩が爆発した。何だろう? 高熱で内部の水が爆発でもしたんだろうか? だが、これは使える。


 こうして、俺は神力を一通り試してみた。

 やっていて分かったが、神力操作はイメージを明確に持たないと発動しないようだ。まぁ、これなら夢を見て世界を亡ぼしちゃうなんて間抜けなことは無いだろう。


  *  *  *


 神力に慣れたところで、この世界の街の様子を見ることにした。いよいよ異世界だ。


 神力操作の「千里眼」を選ぶと上空からの映像が見えた。もちろん別スクリーンだ。

 ズームすると実際の街の詳細がわかる。人が動いてるのも見える。


 街の様子は、産業革命前って感じだった。中世あたりか? この辺りは、お約束か? いや、それよりも寂れている感じだった。

 衰退していると言っていたから当然か。産業革命に失敗したら、こんな感じだろうか? なんで成功していないのかな? 石炭が無いんだろうか?


 そして、住民たちを見て俺は愕然とした。なんだこれ? まず、人々の生気がない。それから体は弱弱しく不健康などというレベルを超えていた。


 千里眼を操作して他の地域も見た。色んな国があるらしいが、あまり変わらなかった。衰退しているなんてレベルじゃない。既にディストピアじゃないか? 人口が減りまくった後なんじゃないか? 何があるとこうなるのか見当もつかなかった。

 しかしこれ、いくら使徒でも一人でどうこう出来る状況じゃないだろ。もしかして、女神様は地上を見て無いんじゃないか? ノータッチとか言ってたからな。


 そう思ったところで思い出した。召喚の時に条件を出していたことを。


ー ねぇ、女神様。俺、召喚に条件を付けてたと思うんだけど?

ー えっ? ちょっと待って。


 女神様、もしかして俺が書いた条件を読んでなかったんじゃ?


ー ああ、これがどうしたの?


ー この世界、それどころじゃないと思うんですけど? 俺がどうこう出来るようなものと違うと思うんですけど? 

ー そ、そんな筈ないわよ。


ー いや、これ無理ですよ。説明と違うからキャンセルできるよね。

ー えっ? ちょっと待ってて。


 そう言ったと思ったら、いきなり目の前に現れた。顕現しないんじゃなかったの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る