Code9・1/2「ソロ」
オオワシの艦内。
赤い水滴がフワフワと浮いている。
懸命に戦った人々だろう。
ソロの産み出した白い肉塊かそれともあの蒼鎧の女だろうか。
私は管制室の部屋に戻り、オオワシのシークレットデータを読み漁った。
すると、無線からユキの声が入る。
「無事?」
無機質だ。
「良かった。コトネ、オオワシを動かして。ハクチョウから離脱させて欲しい」
「分かった」
急いでエンジンを始動させてハクチョウから離脱する。
そこまでで2時間経った。
ユキは、戻ってきたのだろうか?
そんな疑問が頭を過ぎると、モニターが勝手に市街地の監視カメラに切り替わる。
すると、ユキが道路上に降り立った。
目の前にソロが立つ。
「やっと会えた。久しぶりユキ。私の」
「娘?」
「そう」
「この前もそんなことを言うクソババアがいたけど、邪魔だったから殺したよ」
「フユちゃんのことね〜。そうよね〜私をこんな体にした
そう言いながら、手に持つ無数の色が混ざり合う本を指先で回転させる。
「そいつ、私を鍵とか言ってたけど、恐らくお前とその本が扉ってことよね」
「ご名答。フユちゃんは、これを開けてこの時間を支配するつもりだった。でも私は、この本を開いてこの小さな世界をぶち壊したいの」
「小さい?」
「そうよ。あなたも思うはずよ。この小さな世界に新しいものはもうない。だから、全て消し去って真新しい世界を見たいって。一度クリアしたゲームをリセットしてニューゲームで遊び始める。それと同じ」
「それはあんたのエゴだ」
「えぇ、でもね。武に多というなら他にも武なのだよ。君はその扉を開くための鍵のひとつなのさ。物である君に私を否定する権利はない」
ソロは、手を差し出し、ユキに近寄る。
私は、直立不動で彼女を待った。
私の胸に手を当てるとソロは、とても嬉しそうな表情をしたが、そのうち困ったような顔になる。
「おかしい。私が触れれば、お前の中にある鍵が現れるはずなのにどうしてだ? 鍵をどこにやったんだ?」
「鍵? あぁ、あの白いやつ? あれはもう捨てたよ」
「捨てた?!」
「そうだ。捨てた。もう必要ないから」
「では、どうして? どうやって自力でここに戻ってきた?」
「だから、鍵は必要じゃなくなったんだよ。私は、完全にコイツと共鳴したんだよ。私は、コイツであり私だからな」
そう胸に手を当てる。
「そうか天地逆転同等の行為をしたと……ふふっでも良いのか? お前の待ち人は、悪魔であるお前も愛してくれるだろうかなぁ?」
「コトネを私が愛している。その不変な事実が残り続ければ、彼女が私を拒絶たとしても私は、遠くから彼女の幸せを願い護る。つまり、私がコトネを愛し、コトネが幸せであれば
「ちっさ」
「小さい。確かにそうね。でも、愛は小さく見えて巨大だ。お前が鍵を探すのも浪漫を愛しているからだ」
「うるさいっ!!」
後退しながら
エンジンカスタムを加えたスラスタライフルの1発でソロの上半身は、吹き飛ぶ。
「くっ……ふふっ……中々やるようね」
上半身だけで腕を立てて這い寄ってくる。
そのうち、肉体の断面から新しい脚が生え治る。
「まぁ、そう簡単には殺せないってことね」
「なら、何度でも殺してやる」
ネイルを振りかぶる。
ソロは、細い剣で受け止める。
「止まった?」
「そ、私はね。扉なの。あなたが鍵であったように」
剣に押し返される。
「私はかつて地球でフユと一緒に新世界の研究をしていた。私も彼女も新たな世界を求めて、可能性と発見を求めて旅をしながら研究していた」
本から陣が広がる。
「その中で神秘なる存在を知った。そして、私たちの求めるものへの扉の存在を私たちは知ることとなった。フユは、深淵の扉。私は、天頂の扉。それぞれ神に近しい人の果ての果てだった」
陣から大量のソロが這い出してくる。
「それから私達は変わってしまった。かつて親友のように切磋琢磨していた私達は、邪に反発し合う関係に変貌した」
這い上がってきたソロの大群を見てわたしはかつての壮絶な闘いを思い起こした。
「ベルゼブブ……」
「そう、あなたがこれまで壊してきたデモニコア。それが今の私を作っている。あなたが初めて殺したバエル、次に殺したヴェリフィゴール、真っ向からの激闘の末に勝利したバルバトス。確かバルバトスは、あなたにとって親友だったかしら?」
そう言って、巨大なメイスを手元に取り出す。
そのメイスは、昔私が見たものだった。
バルバトスと私が出会ったのもオオワシだった。
黒い装束着に身を包み、街を逃げ回っていた時、そいつは目の前に
好戦的な性格の彼女と紙一重の闘いをした。
互いに生命を落とす直前までぶつかった。
その時、バルバトスの素体に意識が戻ったのだ。
「助けて」
涙を流しながら赤く血走った目が震える。
言葉を吐露した瞬間に彼女はバタッと崩れ落ちた。
「私の……ことを……殺して……」
そう願う。
私のネイルが少し震えた。
「あぁ、まともなやつもいたんだな」
私の安堵の言葉でバルバトスは、武器を下ろした。
「私のデモニコアを食べて……」
「そうしたらどうなる?」
「私は、バルバトスから解かれてあなたはバルバトスとその悪魔を背負う」
「それはとても」
「あぁ……、ありえない話よね」
「わかった。バルバトス。私が貰う」
「でもなんで?」
「その代わり、あなたは私の親友であれ」
そう言って、彼女の目線で肩を両手で掴み、瞳を重ねる。
「私が親友?」
「そうだ。それであればお前を食う」
沈黙の先にあったのはやわらかな笑顔だった。
「バルバトス……」
「あぁ?」
「2人乗りだグシャラボラス来い!!」
ユキの片目から真っ赤な眼光が激る。
「息を合わせろ。バルバトス!!」
もう片目から深紅の眼光が爆烈する。
「そうか……、バルバトス。やっぱり君もそこにいたか」
ユキの口から白い煙が吹く。
「悪魔の2人乗り。前例にない未聞な選択だ。そんなことをしたら、今度こそ死ぬんじゃないかい?」
瞳から血の涙が綴る。
心臓が爆ぜそうなほど体内の血液が高速循環を繰り返す。
脚に力を込め、勢いよく駆け出す。
残像を残すほどの速度でソロに接近する。
本体までの偽物にはまるで触れることなく突っ切った。
しかし、残像に偽物が触れると、偽物は跡形もなく爆散する。
ソロの目前に迫り、巨大なメイスを振り下ろした。
ソロは、軽々とメイスを受け止め、押し返す。
しかし、ソロの手に大きな傷が出来た。
「うっぐ……、痛い。痛い! 痛い! あぁぁああ!! 痛いいぃぃいい!!!」
「デモニコアを使った攻撃は、回復が追いつかないみたいね。私たち以外70体の悪魔を飼ってるのに」
「何故? 何故、回復が間に合わないんだ?」
「デモニコアの中で自然治癒を持ってるのは、バエルとグシャラボラス、バルバトスの3種だけだったらしい。前衛的な3種だからもちろん回復能力も必要だったんでしょうね」
「そんなデータどこに?」
「あのババアの研究室にそれぞれのデモニコアの特性って本があってね」
「ちっ。あのクソ女め」
「私もそう思う」
「うるっさい!! あんたも殺してこの宇宙の法則を全てを真っさらにして創り直す!! そのためにあんたがその2本の鍵に変わるのよ」
ソロは、オオワシの地面を叩き割り、ユキと共に落下した。
「ユキ!!」
私は、最後に写ったユキの姿を追うように画面に近づくが、モニターがプツリと切れた。
私は不安な心を落ち着かせ、イスに座り直す。
ふと、目を閉じて私は彼女との出会いを回想した。
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