Code8「ウリエル」
私は、コトネの手を引いて走る。
無数の白い肉塊が迫りきている。
これは、ソロの能力のひとつだろう。
私はとにかく走った。
しかし、どこまで逃げようと奴らは追ってきた。
スラスタライフルで撃つが、何事もなかったかのようにすぐに再び浮きあがる。
私達は、終いに降下ハッチの前まで追い込まれた。
その時、コトネが私の袖を引いた。
「ユキ、地球に降りて」
「でも、それじゃあコトネが……」
「大丈夫。多分、こいつらユキ狙いよ」
「そう……、それでもコトネを1人には……」
「大丈夫。必ず、ユキは帰ってくるもの」
そう言って、私の胸に顔を埋める。
私は、コトネの頭を撫でる。
「わかった。必ず、帰るから」
そう言って、コトネを緊急開放スイッチの方に突き飛ばした。
コトネは、スイッチを押しつつハッチとの隔絶壁を閉じた。
私は、物置から出してきた切札を引き抜くように構える。
ハッチが徐々に開き、爆風が私を地球へと引きずりこむ。
肉塊もその勢いに負けて地球に吸い込まれる。
私は、そのままハッチに背を向けたまま蹴って飛び立った。
それと同時に切札を抜刀する。
真っ白な切先は、肉塊を一撃で木っ端微塵にする。
次々と落ちてくる肉塊を次々と叩き斬った。
ユキを見送ったコトネは、管制塔に向かって歩く。
そこに蒼い鎧の女が現れた。
コトネは、全速力で逃げた。
しかし、すぐに背後に回られた。
コトネは、ハンドガンに弾を込め、安全装置を解除する。
全くもって撃つ気はないが、身の安全を考慮しての行動だった。
隠れながら管制塔に着き、準備する。
「オオワシのメインコントロールのハッキングよし。例の切札ももう装填されてるわね」
「ユキ、聴こえる?」
コトネは、通信をはじめた。
「あぁ、聴こえてる。こっちは、片付いた」
「流石だね。ユキ。私の方は、管制塔に着くまでに蒼い奴がいた」
「わかった。すぐ戻る」
そう言って通信を切ると、上空から火の鳥いや緋天使が舞い降りてきた。
「またお前か」
「あぁ、私は何度でも貴様の邪魔をするぞ?」
「そう、じゃあ殺してあげるよ」
「あぁ、それでいい。私の仲間が今、貴様の恋人を拘束または、殺害するからな」
「そう……、それはとても残念ね」
私は、切札を鞘に戻す。
すると、身体からデモニウムの結晶が突き出る。
そのうち、両腕が覆われ、尾を生やす。
「えぇ、とても残念よ」
完全に私の姿は悪魔と化していた。
対峙する緋天使は、一層紅く耀く。
全身機械仕掛けだったその姿は、身軽で更に神秘性を増した。
まんまるな蛍光灯だったヘイローに炎が走る。
その姿は、正しく熾天使だった。
「…………」
「…………」
言葉を交わさずとももうわかっている。
私達には、その手に持つ凶器で眼の前の
先手を撃ったのは、ウルだった。
大剣をユキに振り下ろす。
ユキは、軽々と避け、メイスを突き上げる。
しかし、バリアのようなものに防がれる。
コトネは、1人残ったオオワシの中でハンドガンを手に行動を起こしていた。
すると、コトネの肩を誰かが軽く触れる。
コトネは、恐怖で怯えながら一挙に振り返った。
するとそこには蒼い鎧の女ではなく、ソロが立っていた。
コトネは、気が錯乱して引き金を何度も落とした。
弾倉が空になって引き金を引いても弾が出なくなると、血だらけのソロが立ち上がり、私のハンドガンに手を乗せ、下に向け、コトネに接近する。
白い顔に鮮血で赤黒く垂れた彼女が耳の横まで来る。
「ねぇ」
その声でコトネは、全て意識を持っていかれる。
視界が真っ白だ。
「ユキの場所はどこ?」
「あ……ああ……あっ……」
「泣いているの? かわいい顔が勿体無いわ」
そう言って血だらけの手でコトネの頬をなぞると、コトネの手を握る。
「あれ?」
コトネの左薬指に触れる感覚がある。
「あの子と結ばれてるの? それは困るなぁ」
そう言って薬指に付けられたリングを抜こうとする。
コトネは、更に涙が流れ出す。
「うっ……ううっ……」
すると、少しリングに対して力が加わる。
「ちょっと、離してよ〜。これがあったら困るんだってば〜」
コトネの薬指は、とても強く握られている。
「い……いや」
その言葉にソロの手が止まる。
「いやぁああああ!!」
コトネの視界に満たされた白は、立ち退く。
ジーンズのポケットに入っていた予備弾倉を咄嗟に取り出し、装填する。
「うわぁああぁあああ!!」
ソロは、拳を振り上げるが、コトネのハンドガンの発射が早かった。
ソロの目に命中し、ソロがよろめく。
そこに加えて、下腹部にハンドガンの銃口を突きつけ、更に発砲する。
「いってててて……、そうか君のユキへの愛はわかったよ。君は、1人で絶望に満たされるといいよ」
そう言ってソロが消え去ると、コトネは再び脱力しきってその場で崩れる。
コトネは、左手を胸に当て、右手で握り込みながら「ありがとう……ありがとう」と泣きながらしばらく続けた。
ニューデザートでは、ユキの最強の矛とウルの最強の盾による壮絶な攻防戦が続く。
ウルがユキにかすり傷を負わせると、傷口が焼ける。
回復しきれないスリップダメージに痛覚が狂い始める。
無限攻撃と言わんばかりの手数で畳み掛けた。
だが、微小なダメージは、致命傷に発展した。
完全に回復量を超越したスリップダメージでユキは、その場で膝をつく。
ウルは、トドメに大剣に炎を纏わせ、超巨大剣に変化させ、それが倒れたユキに襲いくる。
その瞬間、ユキのデモニコアが覚醒した。
ユキの心臓部分を突き破り、4本の腕が生える。
4本の腕が大剣を受け止める。
それに対してウルも大剣を下に追いやる。
4本の腕も皮膚から骨が剥き出しになり、血液を噴き出す。
大剣が火力をさらに増すと、腕が徐々に蒸発し始める。
まるでそれは太陽に直接触れているかのようだった。
壮絶な痛みに意識を失いそうになりながらも乗り越える画策を脳裏で思考する。
炎が砂の大地を燃やす。
その中にユキは仰向けに倒れる。
「あ……、がはっ……」
呼吸をするたびに吐血を繰り返す。
瞳の燻んだ熾天使は言う。
「お前は終わりだ」、「神の怒りを買ったお前は、神の右手によって殺される」
そう言って、私に馬乗りになり、折れたレイピアを突き立てる。
「さよなら。私の怒り」
そう言われた瞬間、私の意識は暗闇に落ちた。
心臓に致命傷を負った私に生命維持は、不可能だ。
天と地が逆転する方がありそうな話だと例えることがよくあるが、それが本当に感じる。
だが、私の中にはまだ未練がある。
深く、暗く、高い未練だ。
コトネの下に帰らなければならないのだ。
私の消えた意識は、天と地を逆転させるかのようにして再び肉体に戻った。
手に力が入る。
メイスを支えに再び崩れかけた身体を起こす。
「何故……、なんでそんなボロボロになってまで……私の前に立ちはだかる? 痛くて苦しいはずでしょ? いい加減……、負けを認めなさいよ!!」
「待ってる人が……いる。私の帰りを……こんな……バケモノのような私を……待ってくれる人がたった1人いるから。私は……、誰が敵だろうと何を敵にしようと……何度も何度でも立ち上がる。仲間を何人も失くしたあなたのように強い
ユキは、飛びかかった。
「愛する人の!! コトネの下に帰る為に!! コトネを幸せにッする為に!!」
振り翳した拳の一撃がウルのシールドを完全に玉砕した。
「そんな……。完璧な防壁だったのに……どうして……」
焼けて爛れたユキの4本の腕が起き上がり、ひとつになる。
それは長い尾のようにしなり、ウルの方向に狂気的な刃を向ける。
「ミカ。ごめん……」
大剣を構え直す。
ユキのメイスは、形を崩して砕け散る。
代わりに真っ白な大太刀を鞘から抜き出す。
その太刀は、鞘と柄のみならず刀身も全てが神々しいまでに真っ白だった。
血も穢れも知らない無垢な太刀。
ウルは、それまでの憎しみも怒りも鎮めて、勝利、正義の為に戦うことに集中を注いだ。
ユキが砂を蹴ると共にウルも駆け出した。
大剣を一足早く振るう。
確かに当てた感触があったしかし、そこにユキはいない。
砂煙の中から刃がウルを的確に撃ち抜く。
鈍く重たい音と共にウルの全身の骨が砕ける。
しかし、ウルは大剣を構える腕を下さなかった。
そして、砂煙の中から現れたユキに最期の一撃を放った。
目の間の天使は、瞳に涙を浮かべる。
白い太刀が突き刺さったそいつは、大剣を落とした。
徐々に天使は、灰に変わっていく。
「負け……か。やはり、愛は、どんな想いよりも強いな。ナキ……、リグ、レミ……、今行くよ」
そう言って、旋風に流されて消えた。
「邪魔をしたのが、お前の敗因だ。想いだなんだなんてもとより敗因じゃない。この戦争が始まった時点でお前の負けは決まっていたんだよ」
そう言って、その場に赤と白に変わった太刀を刺して去った。
砂漠の大地に突き刺さった大太刀「白無垢」は、跡形もなく砕け散った。
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