第9話 女友達と付き合うことになった
当初の目的は達成したけど、今日のデートはまだ続く。
それぞれ買いたいものがあったらそれらを見て回る予定。
といっても僕は今欲しいものが無いから真希が欲しいものを見ていく感じかな。
「真希、次は何処に行く?」
「私お昼ご飯食べたいわ」
「え、ああ確かに。僕もお腹は空いたかも」
時刻はもう14時前。夢中で服を選んでいたら時間を忘れていた。
そう気が付くと途端にお腹が減ってくる。
「じゃあご飯を食べに行こうか」
「またあーんしてあげようか?」
「嬉しいけど恥ずかしいから人目が無いときにね」
「やるのはいいのね……」
ひとまずフードコートへと向かう。
この時間はもう混雑することもなく、比較的簡単に席に座ることが出来た。
「僕は待ってるから、先に真希選んで来なよ」
「ん、わかった。じゃあよろしく」
それから5分位してうどんと天ぷらを持った真希が戻ってきた。
「はい、交代。今度は隼人ね」
「じゃあいってきます」
さて、何にしようかな。今まで真希と来た時って何を食べていたっけ?
色々悩んだけど、そこまで高いものは食べられないということでス○キヤにした。
出来るまで時間掛からなさそうだしここで待っていようかな。
思った通り人が少ない分早いようで、それから2分位で出来上がった。
「ただいまー」
「あらおかえり」
席に戻ると真希はまだ食べ始めていなかった。
「待っててくれたの?」
「ええ。2人で食べた方がいいでしょう?」
「そっか、ありがと。じゃあいただきます」
「いただきます」
真希のうどんが伸びているか心配だから早く食べ始めてしまおう。
というか2人とも麺類だな。
面白みがない。
「隼人はまたスガ○ヤなのね。しかも五目ごはん付き」
「あれ、いつもこれだったっけ?」
「少なくとも前に来たときはそれだったわよ」
「いつも悩んで同じ結論に達するのかな」
そう言えば真希とイ○ンに来る時って大体お昼はフードコートだったな。
色々選べるしここにあるのはそこまで高くないから特に何も考えずに来てたけど、これからはもう少し別の所に行った方が良いのかな?
でもそんなこと言っても真希は『わざわざ高いところにしなくても良いと思うんだけど』とか良いそう。
お昼ご飯も食べ終わり、今度こそ買い物を再会する。
「真希って欲しいものとか無いの?」
「んー、そうね、特にこれって言うものは無いんだけど。でも折角お洒落始めたんだからアクセでも買って良いかなーって」
「最近お洒落始めたの?」
「えっ? ……あ!」
何だか急に真希が慌てだした。どうしたんだろう。
「い、いや別にこれは違うのよ。隼人と付き合い始めたからとか、そういう理由じゃないからね!」
「あ、うん。分かったから落ち着いてよ」
でも言われてみればこの前イ○ンに着たときは今日ほどお洒落な格好では無かった気がする。
もう少しラフな格好というか。髪型も何もアレンジしていなかったし。
そもそも真希がそういうのに手を出したというか僕が気付いたのは、付き合い始めて最初に髪をハーフアップにまとめてきた時からだよね。
そっか、真希も僕と付き合ってから少しは意識してくれたのかな。
それは何だか嬉しいな。
「ともかく! 私はアクセを見に行きます」
「うん、良いよ。行こうか」
アクセサリーと一口に言ってもその種類は多様で、ネックレスやイヤリング、指輪とかブレスレットもある。
僕はそういうのに一切詳しくないけど、取り敢えず値が張ることだけは分かる。
近くにあったネックレスを見てみると、光り輝く銀色の素材に細かな細工とかがされているけど、お値段が3万を超えていた。
え、高くない?
普通ですか?
真希も詳しく知っているわけでは無さそうだけど、興味深そうに色々と見て回っている。
値段のこととか大丈夫なのかな。
あ、立ち止まった。
物凄く目をキラキラとさせている。
あの真希がアクセサリーにあそこまで惹かれる事なんてあるんだね。
「これ欲しいの?」
「欲しいというか、凄く綺麗だったから。でも高くて買えないわ」
「幾らぐらい……って3万5千円ですかそうですか。どれも高いなー。アクセサリーって全部そうなの?」
「まあここにあるものは大体高めよね。でも他のお店だと5千円もしないところだってあるし、ほらこっち来て。イヤリングなら3千円とかでも買えるわ」
「色々あるんだね」
「そうよ。女の子は皆こうやってお洒落に気を使っているんだから」
「でも真希は最近始めたんだよね」
「う、うるさい。いいでしょ別に。……可愛いって言われたいんだから」
「うれしいなあ。真希がそんな風に思ってくれるなんて」
「なんで聞こえてるのよ。小声だったのに」
「僕は突発性難聴なんて発症しないからね」
「何言ってるのよまったく」
結局そこでは何も買わず、別のお店で少し値段を抑えたイヤリングを購入していた。
その後も雑貨屋にいったり本屋に行ったりして時間を潰していた。
「じゃあそろそろ帰りましょうか」
「そうだね。思ったよりも色々買ったなー」
時刻はもう17時をまわり、辺りは暗くなってきている。
「もう行くお店とか無いわよね?」
「うん、ただ少し寄ってみたい場所があるんだけど良いかな?」
「いいわよ。何処に行くの?」
「展望台」
「展望台なんてこの近くにあったかしら?」
「あるみたいだよ。一般にはあまり知られていないらしいけど。さっきチラシ貼ってあったから。この時期は夜景がよく見えるらしいよ」
「そう。だったら行きましょうか」
ここからバスで15分位走ったところにその場所はあるらしいけど、少し歩いて上らないと行けないみたいだ。
ここからまた5分位坂やら階段やらを登り、たどり着いた広場は景色が開いていて、街を一望できた。
「おおー! 思ったよりも凄いところだね」
「ほ、本当ね。き、綺麗だわ」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だから」
ここまで登ってきて疲れたのか、真希は息を切らしていた。
僕が荷物を持っていても、普段運動をしないと体力的に大変みたいだ。
「これからアップのランニングで一緒に走った方が良いかしらね」
「それはまあ、お任せします」
近くにあったベンチに腰掛け、一息つく。
「ごめんね。わざわざここまで来させて」
「いいの、気にしてない。景色綺麗だから問題ないわ。それに私の体力が無いだけだから」
「なら良かった。それにさすがというか、全然人いないね」
「私たちも今日まで存在自体知らなかったものね」
この場所自体知名度が無いのもそうだけど、後ろにある建物のせいでもあるんじゃないかな。
よく分からないけど何かの施設みたい。
展望台もこの施設の物だったり。
今いる場所は展望台というよりも山の上にある只の広場といった感じ。
ただ隣で座るのももったいないな、と思ったので真希の手を握る。
「今日は隼人から繋いでくれるのね」
「いいでしょ僕から繋いだって」
「そうね」
そうしてしばらく2人で夜景をぼんやりと眺めていた。
「でも今日の締めには良い場所だね」
「そうね、今日も1日楽しかったわ。やっぱり隼人といると退屈しないわね」
「ほんと? 僕も楽しかったし真希といるのは退屈しないな。特に最近は」
「ふふ、それはそうかもね。『付き合う振りをする』って提案して正解だったわ」
「そのこと、なんだけどさ。僕は最近それをやめても良いかなって思うんだけど」
「え……? 私といるのは退屈しないって。もしかして嫌だった?」
「ううん、そうじゃなくて! あー、えーっとつまり……」
改めてこう言うのは恥ずかしいな。告白みたいだ。
真希の方に向き直り、素直に話す。
「『振り』じゃなくて僕は本当に真希と付き合いたいってこと!」
「本当に付き合う……?」
真希は不安そうな表情だったけど、僕の言葉でどんどんと明るくなっていく。
「ふふ、そっか。隼人は私のことを好きになっちゃったのね」
「そうだよ。悪い?」
「いいえ、全然悪くないわ。むしろ嬉しい」
「そう? じゃあ……んっ!?」
言葉の途中で口を塞がれた。
今度も、不意打ちのキス。
心なしか、前回よりも長く感じた。
「これはカップル証明に必要だから仕方なく、じゃないからね。私も隼人が好きだからしているの」
唇を離した真希に、こう告げられる。
暗闇でもはっきりと分かるぐらい、真希の顔は赤く染まっている。
きっと僕も同じくらい赤いと思う。
「それでも不意打ちはやめてよ。嬉しいけど僕は初めての時はロマンチックにしたいんだって」
「残念、もう2回しちゃったわね。水族館の時も今も、隼人がよけないからいけないのよ?」
「そんな横暴な」
「でも隼人はそんな私を好きなんでしょ」
いたずらに笑う彼女は、本当に楽しそうだ。
もう、なんだか悩んでいたのが馬鹿みたいに思えてしまう。
「それじゃあ真希。これから僕と振りではなくて本物の恋人になってくれますか」
「ええ、喜んで。これからもよろしくね? 彼氏さん」
「こちらこそよろしく」
「それじゃあ彼氏さん。仕方ないから付き合ってから最初のキスは隼人からしても良いわよ?」
「何だか初めてを軽く終わらせられようとしてる? ……まあいいや」
「んっ」
夜景が一望できるこの場所で、初めてロマンチックにキスが出来た。
「それじゃあ隼人。寒いから帰るわよ!」
「そんな雰囲気ぶち壊しな発言今する!?」
「だって寒いんだもん。今11月の夜なのよ。寒くないわけ無いじゃ無い」
「そりゃあそうなんだけどね。まあいいや、今日は帰ろうか」
2人あれこれと言い合いながら、帰る準備を始める。
こうして僕等は晴れて本物の恋人になった。
多分これからも、友達の時と変わらずにこんなやりとりをしながら真希と過ごすんだろうなと思いながら、2人手を繋いで来た道を引き返す。
女友達と付き合う(振りをする)ことになった 色海灯油 @touyuS08
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