第8話 買い物デート
「思ったよりも人が多いわね」
「まあ日曜日だし仕方ないよ。それに今がお昼前っていうのもあるかもしれないけど」
日曜日のイ〇ンはさすがというか、11時前の現在は家族ずれが異様に多い気がする。勿論それだけではなく、友達で来ているグループやカップルもちらほらと見うけられる。
傍から見たら僕らもそのうちの一つに数えられると思う。
「昼ごはんにはまだ早いわね。それじゃあ予定通りまずは服を見に行きましょうか」
「そうだね」
まずは真希の冬服を見に女性服のお店へと入る。今まで縁もゆかりもない物凄くお洒落なお店だ。
僕がこんなお洒落なお店に入っても良いのかな。
思わず尻込みしてしまうけど、手を繋いでいるため真希につられて入店する。
「うーん。どれが良いかしらねー」
「僕にはどれが良いとかそういうのは全然分からないからね」
「大丈夫よ隼人。最初から期待していないもの」
「え、ひどい」
「本当のことでしょう?」
「まあそうなんだけど」
「隼人は私に似合うかどうかを判断してくれれば良いから」
「真希は可愛いんだし大体の服は似合いそうだけどな」
「あらありがとう」
時々忘れそうになるけど、真希ってクラスでも1,2番目ぐらいに顔立ちが良いんだよね。
1年の頃は何度か告白を受けたことがあるって言っていたし。
改めて考えると真希はモテるんだよね。
もし過去の告白を真希が受けていたとしたら……。
仮定の話で、もう昔のことなのに何だか嫉妬してしまう。
今は僕の彼女なんだから良いじゃないかと、そう言い聞かせる。
「これはどうかしら」
試着室のカーテンを勢いよく開けて姿を見せたのは、黒のパンプスに薄緑色のニットを着た真希だ。
少しサイズが大きいのか、だぼっとした印象もある。
「うん、可愛い。似合ってるよ」
「やっぱり? じゃあこれは決定ね」
次に出てきたのは薄青色のニットに黒のプリーツスカート、そしてアイボリーのロングコートを着た真希だ。
「これも可愛いね」
「そう? じゃあこれも決定ね。あ、似合わなかったらきちんと言ってよね」
「分かってるよ」
その後も何着も試着を繰り返していたけど、そのどれもが真希の魅力を引き出していて似合っていた。
それから別のお店にも行って試着をしたけど、同じやりとりを繰り返していた。
結果僕は全部の服に『似合ってる』『可愛い』と言っていた。
「もう。ちゃんと判断してよ隼人。このままだと買いすぎちゃうわ。いくつか減らさないと」
「え、それは困る。だって全部本当に可愛かったんだから。出来ればそれらを着た真希とデートしたいんだけどダメかな?」
「むうう。そんなこと言われるとつい買っちゃいそうだけど……。でもダメ! というか無理。予算的に無理があるわ」
「だったら僕が払う! そうすれば全部解決」
「いや良いわよ。それにどのみち全部買ったら置き場に困るわ。クローゼットにも限界はあるのよ」
「そっか……。なら仕方ないか」
「そうよ、仕方ないの。だからここから2着か3着だけ選ぶわ。この中でベスト3はどれかしら?」
結果僕が最もグッときた3着を選んで購入することになった。
「まったくもう、全部似合うだなんて。隼人にはどれだけ私が魅力的に見えるのかしらね」
「少なくとも今まで出会った人の中で1番魅力的な女の子ではあるよ」
「そんな恥ずかしいこと堂々と言わないでくれるかしら。嬉しいけど」
「だって本当なんだもん。世界で1番かどうかは知らないけど僕の知る限りでは1番だよ」
「そこは世界で1番って言いなさいよ」
「世界は広いからねー。まだまだ上がいるかもしれないし? それに『可愛い』って結局は主観だからなあ。本当に『世界一可愛い人』なんていないと思うんだけど」
「主観だったら尚更『世界で1番』で良いと思うんだけど」
真希は口を尖らせながら呟いてきた。
でも、確かに。
それはそうかも。
「じゃあ世界一で」
「なんか投げやりになってない?」
「なってないよ。真希の気のせい」
「どうかしらね」
またそんなことを言い合いながら、今度は僕の服を選びに向かっていた。
今日は真希が僕の服をコーディネートしてくれるらしい。
さっきまでの真希自身の服選びを見ていたからか、とっても楽しみだ。
以前ずぼらな真希がお洒落なんてするのかという疑問を持ったことがあるけれど、それは気のせいだったようだ。
「あれ? ここじゃないの」
「どうしてデートでユニ○ロに行くのよ。今日はこっちよ」
普段着ている服達の実家、もといユニ○ロさんを通り過ぎ、これまた渋くお洒落な服屋にやってきた。
いつもはこんなお店に近寄らないというか、入っても何を買えば良いから行っても何もせず出てくるのがオチなんだけど、ついに今日ここで服を買うのか。
だけど普段お洒落をしない僕に似合う服なんてあるのかな。
そんな期待と不安を胸に抱きつつ入店。
さっそく真希がいくつかの服を見繕ってくれる。
「取り敢えず、これとこれ。一旦着てみてくれるかしら」
「わかった。ちょっと待っててね」
預かった服を着て、試着室のカーテンを開ける。
真希も僕の格好を見て『格好良い』と言ってくれるかな?
そんな期待も持っていたんだけど、
「……うん、何だろう。……選択間違えたかしら」
「え、もしかして変?」
「いいえ、変ではないの。ただ、なんか服に着せられてる感がするのよね」
「はあ……」
言っていることがよく分からないけど、つまり似合っていないって事だよね。
「まあ簡単に言うと、着こなせていないって事ね」
やっぱり。
「そ、そっか……」
「あ、安心してよ。最初はそんなものよ。まだまだ時間はあるんだからじっくりと選びましょう。ね?」
「う、うん」
真希の言うとおり、最初こそあまり反応は良くなかったけど合わなかったものを取り替えたり組み合わせを変えて数を重ねる内に反応が良くなっていき、ついに真希が『格好良い』と零すのを聞くことが出来た。
「よし、これを買うよ」
「ええ、良いと思うわ。悔しいけど隼人が少し大人に見えたもの」
「なんで悔しいのさ」
「……別に」
よく分からないけど、こうして2人とも目的の冬服を買う事が出来た。
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