第6話 水族館デートの終わりに

「イルカショー面白かったわね! 子供の時以来だったけど物凄く楽しめたわ」

「そうだね。僕も楽しかったよ」


 ショーも終わり、後はまだ見られていない箇所を巡って帰宅するだけだ。


「あと何処を見ていくんだっけ?」

「南アメリカコーナーと奇妙なお魚コーナーの2カ所ね」

「最後にしては何とも微妙なラインだね」

「そう? 私は面白そうだけど」

「ワニとかアリゲーターがいるのかな」


 南アメリカってアマゾンのイメージが強いけど水槽の中濁っていて見えるのかな。


 そんな風に思っていたけれど、存外奥まで見通せている。距離がそこまで無ければ全く見えないわけでは無いんだね。


「あ、見て。あれってピラニアじゃない?」

「え、本当だ。他の魚食べられたりしないのかな」


 アマゾンで危険な魚だって聞いたけど他の魚と同じ水槽に入れても大丈夫なのかな。


「大丈夫じゃ無いの? お互いに食べない魚同士を同じ所で飼っているとか」

「な、なるほど」

「まあ適当だから本当かどうかは知らないわ」

「適当なんだ……」

「私アマゾンの生態なんて詳しくないもの」

「そりゃあそうかもしれないけど」


 多分大丈夫。そう思うことにしよう。



「それよりも反対側見てよ。隼人お望みのアリゲーターがいたわよ」

「お望みでは無いけどね。って大きすぎない!?」

「確かに大きいわね。3m位あるんじゃないかしら」

「2m70cmだってさ。アリゲーターガーは2m以上が普通にいるらしいけどこれは大きい方なのかな」


 水槽の傍にあった説明パネルには、アリゲーターガーそのものの説明と目の前の個体についての説明両方があった。


「あ、これね。ふぅ~ん。この子リアっていうのね」

「名前もあるんだ」

「そう言えば今まで見た魚にも名前が付けられていたのがあったわね」

「ああ、オットセイとかシャチにも名前あったね」


 今日見てきた魚たちを思い出すと確かに名前が多くあった。

 それこそイルカショーに出ていたイルカたちにもそれぞれ名前を紹介していた気がする。



 アマゾンのコーナーも一通り見終わり、いよいよ最後の1カ所へと向かう。


「今日次で最後だね」

「そうね。水族館なんて久しぶりだったけどこの歳でも充分楽しめるのね。いつかまた来たいわ」

「じゃあまた行こうか」

「あれ? これってデートのお誘いかしら」

「そうだよ、デートのお誘い。また一緒に来てくれる?」

「そんな真正面から言われても……。でも、うん。良いわよ、また来ましょうか」


 こうしてまた遊びに行く約束が1つ増えた。


「何だか嬉しそうね。もしかして私とのデートをもうすでに心待ちにしているとか?」


 真希がいたずらに聞いてきた。

 そっか。

 先の予定が出来るだけでも、僕はもう嬉しくなっているんだな。


「うん。今から超楽しみにしてるよ」

「そ、そう。……私も楽しみにしてるから、それは忘れないでよね」

「もちろん」

「あ、でも今は今を楽しまないと損よ。だからほら、最後まで楽しみましょう」


 微笑みながら僕を引っ張る真希の姿は、何だか無邪気な子供の様で可愛らしいものだった。

 最近は真希の色んな表情を見ているなと思う。


 これも、この関係性のおかげかな。



「え、きも」

「辛辣すぎない?」

「ごめん。つい本音が」

「なお悪い気がする。このウニ? 魚? が可哀想だよ」

「だって本当なんだもん」


 奇妙なお魚コーナーというだけあってここには目を引く容姿の海洋生物たちが多くいた。

 イカなのかタコなのかよく分からない軟体動物から座布団みたいに平べったいとげとげした魚まで多種多様だ。


 説明パネルにも色々と書いてあるけど、よくもまあここまで斜め上に進化していったと感心というかもう尊敬するよ。

 何に対して? 世界かな?


 深海魚とか特に不思議で、どうしてこうなったとツッコミどころ満載な姿形をしている生物がウヨウヨいる。


 僕も真希も若干引きつつもその魚たちを見て楽しんでいた。

 最後にここを見ることが出来て良かったかもしれないね。



「それじゃあお土産も買ったことだし帰りましょうか」

「そうだね。わざわざ部活の皆にまで買わなくても良かったとは思うけど」

「いいのよ、折角来たんだから。それに私たちが付き合ってるって事はもう皆知ってるんだし、デートに行ったとか今更よ」

「それはまあ、そうかもね」


 考えてみると僕たちが付き合う振りをし出したのはここ最近だけど、周りからはもっと前から付き合っていると思われているんだよね。


 これまでは何とも思わなかったけど、真希を好きだって気付いた今となっては周囲からそう認識されていたことには何だか嬉しくなる。

 何でそう思うかまでは良く分からないけど。


 ただ真希は僕のことあくまでも友達だと思っているんだよね。

今までの僕にも言えるけどそういう素振りが一切無かったからなあ。

 当人達の間では恋愛感情があるとか気付きもしなよね。


 改めてこのきっかけをくれた真希には感謝だ。 

 正確には真希の友達に、かな?


 いつか真希にも僕のことを好きになって欲しいなと思いながら、僕等は帰路についた。


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