3ch\刃の矛先の謎…。
―【小栗栖八幡宮 本殿正面】
「ひのゑ――。 何で社頭が東に向いてんのかな?」
「何かを伝える為かもよ――」
「それにしても薄暗いし、栗の木ばっかだな――」
「ここで間違いないと思うんだが、栗の木で出来た弓矢の土地は…」
「誰が何の為に作らせたか?」
「東の国の仕業か、隠したい都の仕業か…」
「ひのゑもどう思う?」
「東国の事は、姉様が調べてくれると信じよう」
「そろそろ…、帰るとするっ?」
――ニョキ、ニョキ
――ニョキ、ニョキ―
――ニョキ、ニョキ――
「おい、おい! おい!!」
「わぁ――」「あぁ――」「きゃ――」
「赤牛が石段を登ってきた――」
「わっ――、わっ――」
「ちょっと、止めてよ!」
「飼い主?」
「この子は、農耕用の牛じゃょ…、只今。散歩中――」
―ニャムニャム――
「わ――っ、びっくりした――」
――ペロペロ、ペロペロ――
「何舐めてんだょ」
「大事な弓矢を――」
「キノともナメられてる」「ワハッハッ――」
「おっ、その矢に見覚えがあるの…」
―ニャム―
「えっ?」
「ワシが都に納めた物と似とるな…、 もうちょい長いがの――」
「……」「――」「…」「―」
「では――」
「きのト…、あの赤牛、農耕用にしては身体が一回り大き過ぎない?」
「確かに……」
「首回りがあんなに大きいのは、闘う牛よ!」「闘牛か、でも何で……」
――ペコっ、ペコっ――
「どう見ても、アレは僧侶にしか見えないわ――」
「よ――し、解った! 寮に一旦帰ろう」「事件を整理するぞ――」
―【奥州国胆沢 (現在の岩手県奥州市)の西岸】
「この戦いに身を投じれるか自問自答して欲しい――」
「戦うか、戦わないかを…」
「奴らは、オレたちの土地を奪い、山や木を崩して黒石を奪っている――」
「それは、鉛の玉や武器となり燃料となりうる」
「私は、土地を守り…、同胞を守る――」
「その覚悟は、私はある!」
――うぉぉぉ――うぉぉぉ―― ――うぉぉぉ――うぉぉぉ―― ――うぉぉぉ――うぉぉぉ―― ――うぉぉぉ――うぉぉぉ――
――うぉぉぉ――うぉぉぉ―― ――うぉぉぉ――うぉぉぉ――
「きのゑと申したが、お前は、どっちにつくのだ?」
「敵か、味方か…、教えて欲しい」
「私にも朝廷と戦う理由がある」
「可愛い子供を朝廷に奪われた――」
「私は、これからあなたの軍師になります」
「では、我らの土地の名、母禮(モレ)と呼ぼうぞ――」
―【祇園祭宵山】
―ゴロゴロゴロ、ゴロゴロゴロ――
――コンコンチキチ――ン――
―コンコンチキチ――ン――
「卜部日良呂様! あの半神半人の子、六根の力が異様ですな…」
「そうじゃろ――。 後、二年もすれば都は財政難で潰れよる――」
「奈良の大仏の時に金を使い過ぎよった――」
「左様ですな――」
「だから、桓武天皇は、寺院仏閣等と距離をとりおった…」
「都を長岡京に移して再起を図ろうとしたのに」
「勿体ない」
「残念じゃったな――、長岡京は位置が悪い、位置が…」
祇園祭で先頭に立つ長刀鉾とは、天を突く様に飾して伸びている。それは、三条小鍛冶宗近作の長刀を特徴としており、御所と八坂神社には決して刃を向けないように南を向く。毎年巡行の先頭を行く“くじとらず”の鉾で、選ばれた稚児が禿(かむろ)と共に搭乗する。かつては、船鉾を除いた全ての鉾に稚児が載っていたが、今では生稚児(いきちご)が搭乗するのは長刀鉾だけである。生稚児は十才の男子が選ばれ、祭りの際は長刀鉾町と養子縁組をし、行われる行事のすべてに稚児のお供を禿(かむろ)二人が行う。
稚児に選ばれた家では、結納の儀に合わせ、八坂神社の祭神・牛頭天王をお祀りする祭壇が設けられる。神の使いとしての稚児は地上を歩かず、屈強な強力(ごうりき)が稚児を肩にのし鉾の上まで昇り、鉾内は女人禁制を貫いている。八坂神社では位を返す「お位返しの儀」が行われ、稚児と禿の二人は再び普通の少年に戻ると言う。では何故、先祖代々の卜部家の第一子は、十年と生きていないのか。それには、怨念と因縁が深く結び付いていた――。
「壬(みずのゑ)と癸(ミズノと)には祭の後、散ってもらおうぞ――」
「祭が終われば、使い物にならん」
「でも、みずのゑに関しては、女の子では?」
「そうじゃ――、女の子ぞ」
「へ――」
「見てみ! 長刀鉾のお稚児を――」
「!」
「分からんやろ」「男か? 女か?」
「良日呂様…、祭は、女人禁制では?」
「そうじゃ――。 ワシが言わん限り、誰も分からん」
「後、お前もな!」
「へぇい!」
「後…、おっと――、いかんいかん」
「?」
「今は、東国じゃ――、東国」
「誰もまだ、気付いては、おらぬ」
「母禮と言う東の山に、金脈が見つかった――」
「金じゃ…」―フフフっ
「本当ですか――」
「うん」
「あの、ひのゑに感謝じゃ…、 朝廷を裏切りおって……」
「天罰じゃ、天罰――」
「子供は、着せ替えで、か・り・ま・し・た・よ」
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